【探求】
今までで1番書くのが大変でしたが楽しかったです。
私は非接触型探知系能力者だ。この世界で唯一の存在であり私が感じる世界もこの世界で唯一無二のものだ。比較はされないし出来るものではない筈なんだ。
だから私の能力がどこまで出来るかなんて誰にも分からないし私だって分からない。だから制約なんてものは現段階での私の認識でしかない。本当はもっと先がある筈なのに。
私の身体は元々あれだけの動きが可能なくらい人間との身体の構造が違ったんだ。先生に認識を正される事であの動きが出来た。
自分の想像の埒外にあったあの動きが今まで出来なかったのは私が自分に課した制約が原因。出来るはずがないという常識、当たり前が私を檻の中に閉じ込めていた。
私は人間ではなく“能力者”という生き物だ。そう認識してしまえばあの動きだって納得出来る。そして【マッピング】は私が幼い頃からの認識が色濃く残っている。そこを何とかしないと能力が私の動きについて来れない!
脳と身体を両方鍛えると先生は言った。恐らくこの事を想定して訓練を行ったんだと思う。やっぱり先生は凄い!
先生は静観を続けている。私という“能力者”を見ている。
人に期待などされずに生きて来たし、家族と呼べないあの人達から居ないものとして扱われてきた。だから私の居場所はどこにも無いんだと思っていた。
多分それが私が私に課した“制約”私が【マッピング】に映し出されない理由。私の居場所が無いという思い込みから発生される現象。この認識を改めないといけない。私には先生という存在が居て居場所も知識も手段だって与えてくれたんだから!
(期待されているのなら私はその期待に応えたい!)
考えろ…先生は能力者を見て認識している。つまり先生の【マッピング】には私が映っている。ならば〈地図〉に私が映らないのはおかしいし理に適っていない!
深呼吸をし精神を集中させて深い思考の海に沈む。
私と先生には軌道が視えるんだ。多分そこに正解がある。私達に視えて他の人達には視えないもの…ベルガー粒子か!
先生が言っていた…私の“銃”は能力者には視認出来ると。それはベルガー粒子を銃の形に圧縮させているからだって。それとこれも言っていた。私のベルガー粒子量は他の能力者より多い事とベルガー粒子量と波長から能力者と無能力者を判別しているって。
(それなら私はベルガー粒子を接触せずに探知しているんだ。それが私の能力。)
私のベルガー粒子を【マッピング】と【再現】で認識出来れば!
左手を構えれば…銃が出現する。
〈地図〉には銃が表示される。
ヨシ!私自身は映されないけどベルガー粒子は表示される!後はこの応用で行けば!
全身にベルガー粒子を纏わせる頭の中のイメージと現実のベルガー粒子と〈地図〉に映されるベルガー粒子を統合する!
左手にあるベルガー粒子の塊に意識を集中させて変質を促す。そうすると銃の輪郭がぼやける事が“能力”で認識出来た。
そこにリソースを割く!霧散するな!私のベルガー粒子を全て使ってでも!!
自然と身体中に力が入る。人を超えた筋肉繊維から軋む音が鳴る。うおおおおお痛いいいいいいい!
イメージするのはドラゴンボ○ルの気だ!!!!私が1番分かりやすいイメージ!!!!気を練るんだああ!!!!!!!
馬鹿げたイメージだが劇的な変化が起こる。
なんと能力に変化が起きた。
この1週間の訓練だけではなく廃ビルや組織についての出来事が伊藤美世の脳に活性、開拓を促す刺激になっていた。そこに正しい知識と指導が加わり“伊藤美世”本来の能力が開花する!
その変化にいち早く気付いた“死神”は驚愕する。
《まさかこれは…ありえるのか?ミヨの【マッピング】は未成熟の期間だったのか!?》
能力には未成熟の期間がある。ベルガー粒子を認識してコントロール出来てもそこからどの能力が生じられるかまでは能力者自身ではコントロール出来ない。能力の初期段階では発現の兆しが現れても能力自体が安定せず当人でも本来の能力を認識出来ない。
ベルガー粒子量が増えるか脳の開拓が行なわれる事でやっと本来の能力が認識出来るのだ。
今までの“伊藤美世”は未成熟の期間だった。十分なベルガー粒子と脳の開拓が行われた事により本来の能力を深く正確に認識する。
(ーーーあぁ、やっと理解した。私が感じた世界の正体を…)
全身の力を抜きベルガー粒子を纏わせる事を止める。
そして私は“能力”を唱えた。
ーーー【探求】
“私”が認識される。ベルガー粒子を全身に巡らせ地下駐車場に1人ポツンと立っていた。
いや…一人じゃない。もう一人居る。私と瓜二つの姿をしているが私じゃない。
“私”と“ワタシ”二人の間にパスを感じる。という事は“先生”か。先生は驚愕の表情で私を視ている。ふふ可愛い。もっと驚かせてあげよう。
私その場で跳躍する。空中で後ろに半回転した状態で頂点に達する。天井と足の隙間は1ミリの隙間しか無い事を目を瞑ったまま認識出来た。そしてそのまま半回転して足から着地する。
(…行けそうだ。)
壁に対して真正面に向かって全速力で走る。10メートル先の壁まで1秒足らずで到着し、そのまま左足を壁に食い込ませる。たったの一歩で天井まで駆け上がり、天井を張り付くように姿勢を低くして足の指を引っ掛けるように疾走る。
【探求】で全ての軌道を認識したがその能力の速度に驚く。肉眼では物体に反射した光情報を読み取る事で認識出来るがそのプロセスの関係上ラグがある。しかし人はそこにラグを感じない。なのに私はラグを感じた。
この【探求】は様々なプロセスをリムーブ。つまりは現実世界と私の【探求】の間に時間差が無い。
私は天井を走っている間に能力の特徴を掴んだ私は“先生”の前に着地する。私は目を開けて先生と目を合わし笑顔で話しかける。
『先生!ありがとうございます!先生のおかげで私、今まで生きていて1番楽しいです!』
先生は更に驚愕の表情を見せてくれる。ふふふっ、その顔が見たかった!
『な!?ワタシが視えるほど認識するだと!?不味い!この効果範囲は!』
《パスが前と比べものにならないぐらい強固にされてる!身体の感覚までこの空間に繋がれてしまった!私達の身体までミヨに認識されたら“私達”の姿が見られる!》
先生が慌てて顔を隠す。
『先生って声だけじゃなくて見た目も同じなんですね!』
先生の挙動が止まる。
『ーーーミヨから視たらワタシはミヨと同じ見た目なのか?』
『はいそうです!』
《ーーーパスを確認しよう…なるほど恐らくミヨの軌道にワタシの認識を【再現】したのか これを無意識で…末恐ろしい娘だ》
美世は褒めてほしそうに先生を見続ける。
『ーーーよくやったミヨよ 本当に本当に予想外の結果だったが期待大きく超える答えを見せてくれた やはりあの時ミヨに声を掛けて良かったよ』
せ、しぇんしぇ〜い!わだじがんばったよお゛お゛お゛お!!
感極まった私は全力で先生に抱きつこうとする。
抱きつこうと先生に触れようとしたら何故かすり抜けてその勢いのまま壁に激突した。ぶふっ!?
『ーーー軌道を再現しただけだ 実在している訳ではない』
『…それを早く言って…くだ、さ』
『ーーー【探求】で私よりミヨの方が認識できているだろう?』
なるほど私に呆れた時、先生はあんな表情するんだね。そんな大切な情報を手に入れた私はそのまま意識を手放し放置された先生は更に驚愕する羽目になるのだった。
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