肉も骨も記憶すら切らせて断つ
明日はメトロイドやっているので…………投稿なければ察してください。多分投稿しますけど。
やるしかない。覚悟なんてとうに出来ている。この世界に足を踏み入れた時からずっと…私がなんの覚悟も無くここに来ていると思うなよ。…舐めんなよっ。
左手に銃を再現し引き金を引く。不可視の弾丸は人体の構造上脆く出来ている肘の関節を貫き、肘から下の部分の前腕が切断され血が吹き出る。
「…グッ!!」
激痛が走る。今までの人生でこれ程の怪我を負ったことはない。あまりの痛みに大粒の汗がぼたぼたと垂れてきて激しい目眩と嘔吐感に襲われる。肘の切断面は火を炙っているのではないかと錯覚する程に傷口が灼けたような痛みを訴えてくる。
(まだ…まだ治さない。…【再発】act.血で穢れた心)
肘から垂れ落ちる血液を操作して止血する。応急処置にしかならないけど、今は傷のことなんかどうでもいい!侵食された右手を観察しなければ!
…地面に落ちた前腕の傷口から血が押し出されている。まるで血抜きだ。そして血管から流動する金属が這い出てきた。この液体金属が血管内を動いて血を吐き出したのか。
その後、私の右手部分は完全に金属で覆われて別の生き物へと変質する。
【探求】は死んだ肉体を灰色として表示する。だから私の身体から離れた時には死んだ肉体として表示されたのに今は赤い光で表示されている。つまりこの右手は能力者としてカウントされているという事だ。
…何となくだけどコイツらの正体が分かってきた。この金属を媒介にして能力者の身体を侵食し操る能力。しかも増殖すると来たもんだから尚更たちが悪い。
(この情報を理華に共有してさっさと【再生】でこの痛みを取り除きたい…でもそんな時間を与えてくれないよね。)
侵食し終えたのか、私の元右腕は浮遊を始めて産声を上げる。
「ピーーーィン」
侵食された右腕から放たれた奴等の声は気色悪いの一言に尽きる。もし全身を侵食されてしまったら私もあんなふうになると考えるだけで恐ろしい。右腕を撃った判断はやっぱり間違ってなかった。
(…あれ?さっきから理華の反応が…)
「理華、…理華?」
私は理華に話しかける。しかし理華は私の声に反応を示さず私と浮遊している右腕を交互に見ている。…目の瞳孔が開いている事からかなりの緊張状態になっていると見て良いだろう。彼女は優しい…友達の右腕がああなっては動揺してしまうだろう。
「理華!聞いて、敵は…」
美世の言葉は虚しくも理華には届いていなかった。ただ目の前の情報と自身の感情を処理し切れず脳に多大な刺激がかかっていたからだ。
(美世の右腕が…)
美世が敵に触れた瞬間、嫌な予感がした。それは美世も同様だったと思う。二人の間に流れている空気が凍りついたから。
そして美世は躊躇なく自分の右腕を捨てた。…判断は間違ってはいなかったと思う。だけどあまりに呆気なさすぎた。迷いを感じさせない手際の良さ、まるで最初からそうするつもりだったんじゃないかって感じさせられた。
普通自分の右腕をあんなすぐに切り捨てられるものなの?だって彼女は…凄い能力者でありあの美貌だ。普通の人は美世みたいな容姿をしていたらもっと自分を大切にする。
右腕無しでどうやって学校に行くの?クラスメートにどう説明するの?そもそも日常生活は?惜しくなかったの?何で悩まないの?
いくらなんでも自分を軽く扱い過ぎだ。前から思っていたけど彼女の自身に対する扱いが…、というか軽視し過ぎている。まるで自分から死ぬことを望んでいるみたいに…。
…もしかして、美世はこのまま死んでしまう?
「嫌だ…」
「り、理華?」
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!」
生まれてこの方これ程のストレスを受けたことの無い理華の脳が活性化される。自分の死に対しての恐怖よりも美世が死ぬかもれないというイメージが彼女の精神に深く深く突き刺さった。
「何で…!何で美世が死なないといけないの!?彼女は私の大切な友達なのに…!」
理華の反応は普通ではない…!右腕の傷口と寄生された右腕を見続けているのは彼女にとって刺激が強すぎたか…!
「…これは治さないとだね。…1分前の私、任せたよ。【再生】」
出来るだけ敵の性質を記憶してその後に理華に共有したかったけど、そのせいで彼女の精神にとって悪影響を与えた結果となってしまった。これは私の悪い所が出たんだと思う。彼女が私に対しての思い入れはかなりのものだ。なのに私は私自身を軽視してしまった。私が自分を大事にしないという事は彼女の思いを蔑ろにしている事と一緒なのに…、ゴメンね。
ああ…。この感情も消えてしまう。謝罪の気持ちも後悔も何もかも!…本当にゴメン。理華に対してのこの思いも消えてしまうのに、この方法しか取れなくて…ゴメン。
「…また飛んだ?」
うーんと…、恐らくまた【再生】を使ったんだけど状況が理解出来ない。敵がバラバラになったのは憶えている。でもアソコに居る金属片がおかしな挙動をして地面を転がっているし理華も何かトリップしてるし…。
「頭痛い…取り敢えず痙攣してるあの破片を影の中にしまおう。」
この痙攣している破片は美世の右腕に寄生していたものだった。何故痙攣を起こしているのか、それは美世の右腕に侵食していた破片は突然の寄生先の消失によりエラーが発生していたからだ。この状況は想定されていない。知らず知らずのうちに美世は無効化に成功していたのだが、その事に彼女は気付けない。
それが【再生】の制約であるのだから。成長もその先も無い。
「堕ちた影。」
影の手が伸びて転がっている液体金属達を回収していく。
「理華、理華!」
「嫌なのに…嫌なのに嫌なのに…。」
理華に私の言葉は届かないようだ。見えやすく目の前に寄って左手を振っても反応は無い。…理華と私に何があったの?ていうかこの状況でなんで【再生】を使ったの?…致命傷を負った?それを見て理華がショックを受けたのかな?
「理華…私は大丈夫。敵もみんな居なくなったから平気だよ…ん?」
彼女に近付いて分かったが、理華のベルガー粒子の活動が著しい。身体から溢れかえってこれは…光を吸い込んでいる?ベルガー粒子は様々な情報を保存出来るから光自体も保存出来ても不思議ではない。
(でも、それは後回しにして早くここを離れないと。)
敵は居なくなった。ここに居た敵は…だ。ずっと気になっていた。あまりに人の痕跡が無い。特に死体が無いのがずっと引っ掛かっていた。銃声が毎晩響き渡り能力者同士が戦っていたのならある筈なのに。
この奇肢共…中身は多分この島に来た能力者達だ。最初は魔女の集会達が死体をなんらかの方法で処分、または回収していたのかと思ってたけど憑依した時に記憶を別欄したからその線は無いと分かった。
だから消去法で考えるとこの液体金属の能力以外考えられない。
「転移先は…っと。」
兎に角転移先を選定してからではないとテレポートは出来ない。コンディションが最高の時はすぐに能力を行使できるのに今は最悪に近い。ベルガー粒子を操作するだけで脳が破裂してしまいそう。
ーーーィン
何かが聴こえた気がした。しかし能力に集中しているせいでその情報を後回しにしてしまった。
(転移先は最初の上陸地点で良いよね。距離が遠くて上手くいくかは半々って所だけど…)
「ピーーーィン」
今の状況で最も聞きたくない声がハッキリと聞こえてしまった。私は咄嗟に能力の行使をキャンセルしてしまいリソースを【探求】に回してしまった。間違いなく致命的なミスである。無理矢理テレポートすれば理華だけは救えたのに。
「ピーーィン」「ピーーィン」「ピーーーィン」「ピーーーーーーィン」「ピーィン」
空を見上げると騎士達で空に銀色のまだら模様が出来ていた。その数は…不明。探知の射程圏外に居るにも関わらず空が銀色に染まる程の密度…まるで鳥の集団が一つの生物に見せるように固まって動くように騎士達が空を浮遊している。
「は、ははは。世界にこんな数の能力者が居たんだね。1000は…居るかなこれ。」
銀色の塊が私達目掛けて落ちてきた。
地震怖かったです。机の下で執筆してました。皆さんもお気をつけて。




