無自覚な性格
次回…ぐらいからストーリーが進みます。ゴメンね。
「あー頭痛くなってきた…。」
理華は眉間を揉んだりこめかみを押したりして私にアピールをしてきた。ここは気を利かせてあげよう。
「高山病?山降りる?」
「わざとらしい…誰のせいだと思ってんの。」
“世界”…かな?
「ふぅ…まあ、美世の目標ていうか目的は分かったよ。私も協力する。そのクソ野郎の手がかりってあるの?」
まさかそこまで協力してくれるとは思わなかったよ。だって私怨だもん。
「私は持っていない。だけど知っている奴に心当たりはある。」
「誰?」
「ラスボス。」
「…死神?」
理華さん。あなたの所属したい処理課のトップのお名前を挙げてますが?
「ある意味先生よりヤバいかも。その子は先生に危険な存在として殺されそうなんだけど、その子がクソ野郎の詳細な情報を握っている。」
「だから先生と戦う…に繋がるのか。」
コクと頷いて理華に正解だと告げる。理解が早くて助かるよ。
「組織外の人間?」
「いやガッツリ組織に組み込まれている…というか操っている影の支配者的な何か?かな多分。」
「おいおいおいおい。どんだけ闇を背負ってんだお前…。」
「背負いたくて背負ってんじゃない!勝手に周りが群がってくるの!」
自分から首なんて突っ込んでない。ただ組織で仕事しながらクソ野郎を探していたら蘇芳やらなんやらが絡んできたんだ。私は被害者である。名前はまだ無い。
「それでそのラスボスって?」
「ここでそれを聞こうとか勇者だね。」
「気になるじゃんか。お前と死神が警戒するぐらいの奴なんでしょ?しかも組織に所属しているとか私とも無関係じゃないし、情報は欲しいよ。」
一理ある。情報をあげましょうかね。
「えっとね、蘇芳って名前の年下の女の子でね。【ラプラス】っていう能力を持っているんだけど、これがどういう能力かと言うと“何でも知れる”っていうチート能力なの。」
「何でも知れる?ロト6の当選番号とかも分かるの?」
まずそれが出てくる辺り絶対に普段からもし宝クジ当たったら〜的な妄想してるじゃん。やっぱり理華は面白い。話せば話すほど味が出てくる女だ。
「まあ、そんな感じ。未来も過去も何でも見えるって感じなのかな?だから先生の正体も私達の会話も知ってるよ。」
「はいストップ。…はぁ?死神の正体知っていて、私達の事も見ていると言いましたかあなた?」
混乱して口調がおかしくなっていますわよ理華さん。このあと果物のバスケットを持ってお見舞いに伺いますわ。
「ラスボスって言ったじゃん。だからだと思うけど先生に危険視されて未来で殺されちゃうらしいの。それを防ぐ為に私は先生と戦う。お母さんを殺したクソ野郎の居場所を吐くまでは死なれちゃ困るのよアイツには。」
「すっごい変な状況に巻き込まれていたんだね…。」
理華が心底可哀想なものを見る目で私を見た。同情するなら私と地獄に堕ちろ!もう絶対に離さん!
「一人ぼっちは寂しいから理華もずっと隣に居てね。」
「一人ぼっちでは無いだろう…死神とすおう?の板挟みになってるだろうが。私には入り込める余地がない。」
…あれ?流れ変わったな。
「先生も蘇芳も理華の事を知っているからもう遅いよ。」
「友達を脅すの?」
「友達を見捨てるな。」
酷いやり取りだった。保身と友情を天秤にかけた結果、あっちにもこっちにも傾いてしまい主張がブレブレだった。
「でも…本当に無理そうならここが最後の引き時だからね。別に恨まないし最初から理華の事を巻き込む気は無かったから。だからたまに連絡し合う仲で落ち着く感じで…」
「いや冗談だからね?少し冷静になりたくて戯れていただけだから。」
まあ分かってましたよ。理華が一度言った言葉を曲げることは無いって分かってたから。
「知ってる。だけど本当にここがデッドラインだから。引き返せなくなるよ…このまま進むと。」
辺りに目を向けると何もない荒れた地表の山々が連なる不毛な地が映る。もし私と居たらこんな景色がこれからも続いて行く。いずれ心が荒み精神が擦り減るだろう。後悔も生まれて何であの時にあんな事言ったんだろうって自身を恨むかもしれない。
そんな未来が容易に想像出来るのに、その道へ踏み出すのは勇気と信念が必要だ。まだ16才の少女にそれを要求するのは酷な話だと思う。
「私の進む道は私が決める。進んだ先に偶然お前が居るだけの話だから気にする必要は無い。何度も言わせるな。」
「やだよ何度も聞く。だって怖いもん…仲良くなった人に嫌われるなんて経験したくない。近付こうとしてその結果嫌われるのなら、私は…最初から近付かない。適度な距離を保ってストレスの無い関係性を築きたい。理華だってそうでしょ?壊れる関係性なんてなんの意味があるの?」
「うるせエ!!!行こう!!!」どんっ!!
いや空気っ!!!私のセンチメンタルな思いを海賊風に解決しようとするな!
「只者じゃないって分かっていたけど、予想以上におもしれー女だったわ。理華…恐ろしい子。」
正直な話、こう言ってくれる方が気が楽だ。理華は私と相性が良いと思う。同類って感じがする。
「私は昔からこういう性格だ。話せば話すほど残念な奴だって言われる。後悔した?」
フフンと胸を張って言うセリフでは無かったけど彼女が言うと様になるから不思議だ。
「うん。」
「…そこは否定してよ。」
それからも理華とイチャイチャしながら山々を歩いて行った。近付いては離れ、離れては近付くといった距離感の確認をし続けて。
どこまで踏み込んで良いのか、ここまで引くと向こうから近付いてくるとか、色んな事を私は知っていった。理華もこんな面倒くさい女に付き合い続けて私とのベストな距離感を模索してくれている。
「理華ってさ、もしかしてなんだけど…女の人が好きなの?」
「へっ!?急になに!?どこからそういう話になったのっ!」
「だってさ、理華って私の着替えガン見してたじゃん?だから女の人が恋愛対象なのかな〜って。私LGBTに理解ある方だから気にしないよ。」
私は性に関して澪さんに色々と知識を仕込まれた耳年増だから何でも受け止める自信はある。友達のそういう相談にも乗ってあげれる準備は出来てるよ!
「違うから!そういう目で女の人を見ていないから!美世だけだから!」
ファッ!?私っ!?
「それって…愛の告白って事で良いの?」
「…ゴメン言葉足らずだった。えっとね、本人に対して言い難いんだけどさ…美世なら平気か。まず最初に言わせて欲しい。私は異性が恋愛対象だから。」
なるほどなるほど…続けて?
「そしてこれは大前提として言っとくけど…美世、あなたはエロい。しかもかなりだよ。女子目線で見てもドスケベ過ぎるくらい。」
「はいっ!?」
こういう時どこに電話を掛けたら良いのだろう。友達にセクハラを受けてます。
「無意識なんだと思う。美世の挙動の一つ一つが女の私でも目で追ってしまうぐらい魅惑的なの。多分美世の周りでも同じように性的に見ている女の人居ると思うよ。」
「いや、居ないから。…ごめん、結構居たわ。」
頭の中に和裁士さん達がぞろぞろと現れ最後に雪さんも現れて私の中で答えが出てしまった。
「でしょう〜?女でもさ。“あ、この女性エッロ”って思う時あるでしょ?美世は常にそう思わせてくるの。私結構心臓バクンバクンだからね?」
「それは分かる。理華が訓練の時に開脚してるの見るとエッロって思ってるから。」
「もう美世の前で開脚しない。」
悲しい…あの開脚を見てからの訓練は捗るのに。
「理華さぁ…。」
「…なに。」
すっごく警戒してる。これからするのは良い話なのに。
「私の処女あげようか?」
理華がフリーズした。
「へっ…?耳バグったかも。ジョジョ?」
「処女いる?この先たぶん機会無いだろうし理華なら良いよ。ムラムラするんでしょ?」
「友達の処女なんているか!ていうかもっと自分を大事にしろ!京都でそんな事を言ったら変態共に孕まされるぞ!」
説得力が凄かった。京都の恐ろしさを垣間見る話だ。
「それは…嫌かな。でも気が向いたら言ってね。」
「お前な…なんでそんなに軽いの?」
「う〜ん…私メンヘラで重いから好きな人に全部差し上げたくなるんだよね。私、先生にも全部あげるって言ったことあるし。」
「お前ホストクラブとアイドルにはハマるなよ。大学のサークルも飲み会にも出るな。下手すると女性からも狙われるから。」
美世の妙な色気の原因がやっと分かった。無防備なんだ…。本人は誘っている自覚が無いのに魅惑的に感じるのはガードが一切無いから。押せばヤれるって本能的に感じるから人はそういう目で彼女を見てしまう。
前から違和感はあったんだ。彼女は優しすぎる。異常なまでに。優しいって自分以外に向ける感情に使われる。彼女は自分より他人を優先しすぎる。だから美世は優しいんだと今確信した。
危うい…彼女は自身への頓着が薄すぎる。多分自分の命すら軽視している。美世の周りの状況を聞いた時に彼女は自分の命の危機には一切触れなかった。普通ならそこが一番大事な筈なのに美世は自分の事は話していない。あくまで美世の周りの人と状況の話しか私は聞いていない。
私は〇〇だからツラいとか、〇〇だからこうしたいとか、そういう自分が思っている感情や内情を話さないのが異常だ。女性は感情で動く。私も感情で動いた。しかし美世は自分の今感じている感情は一切言わない。同意を求めない。話す内容は身の回りの事と理華の事。
いや、話したのか…?唯一美世の感情的な部分。
「ーーー私のお母さんを殺した能力者を見つけて殺すこと。」
でも結局はこれも自分の事ではない。母の為にしている事で彼女自身の為ではない。一体いつからこんな考えを持っていたのか、私は知りたい。
理華は美世の予想以上に美世の事を理解していた。本当に良く観察し洞察しなければ辿り着けない彼女の闇。彼女のその自身を軽視する生き方は家庭環境によって育まれた価値観であり美世自身ですら自覚していない部分である。
(だから私は美世の隣に居たいんだよ。目を離したら…どこかへ行ってしまいそうだから。)
ザワザワし始めたな。たまにはキャッキャウフフの話を書きたいです。
 




