魔女達が葬られる
ちょっと長いですがなんとか魔女パートが終わりました。
『さて早速実践しよう この中ではワタシとミヨは動けるが 彼女達はもう自分の意識すら持てず死ぬ事も生きる事も出来ない状態だ しかしワタシが因果律を操作する事で殺す事も生かす事も可能だ』
先生が彼女達に近付き蹲っているシークの髪を掴んで起こす。
『あのぅ…、ベルガー粒子はこの空間ではどう扱われます?』
話の腰を折るようで申し訳無かったけど気になってしまう。シークはかなり能力が強い。まだ彼女の意識は残っているから、先生が触れたタイミングで彼女が能力を発動してくる可能性を警戒しなければならない。もしもの事があってでは遅いのだから。
『その場にあり続ける ベルガー粒子は能力者が関与しなければただの粒子だ ああ…なるほど 気になるのはこの空間での能力の扱われ方だな?彼女の血を見てみろ 能力で止血して固まっているがそのままだな?能力が解除される事もここから別の形に変わることもない』
ボー・ペティットとメリッサの方に視線を向けると止血されたまま血は固定され続けていた。
『それを聞いて安心しました。』
この空間では能力でさえ因果律を停止させられるのか…ヤバい能力だな。リスクも無ければ制約もほとんど存在しない。初見でこの能力に勝てる奴は居ないんじゃないかな…。
『この女をこうすると…』
先生はシークを空中に持ち上げて手を離した。そうすると彼女の身体がその場に停止し重力に引かれて落ちるという事象が発生しなかった。
『落ちるという事象が起こらなかったな?だがそこからはワタシ達の領域だ 落ちるという因果まで進める』
先生がそう言った瞬間、バタッとシークの身体が重力に引かれて地面へ落ちた。彼女はろくに受け身も取れず顔面から地面へ着地し無様な姿を晒す。
(停止していたから硬いってイメージがあったけど、あの着地を見ると柔く感じる。肉の塊が落ちたって感じ。)
つまり軌道が固定されている訳じゃなくて、肉体の強度はそのままなのか。これなら簡単に殺せてしまうね。
『ここからがミヨに教えたい事だ 死ねない空間だからこそ死という結果までの道筋を理解してもらいたいのだ』
先生はシークの頭の上に足を乗せる。そして少しずつ少しずつ踏む力を強めていった。
パキッパキッパキッパキッ…頭蓋骨にヒビが入る音が私の耳にまで届いてくるが、それでもシークは身動き1つ無くただ先生に踏まれ続けている。ここの地面は私の体重でも足跡が付くぐらい土が軽いのだけど砂みたいに柔らなくはない。むしろ圧力をかければどんどん硬くなるような土質をしている。
『彼女の頭蓋骨はもう限界だ だが例え脳が潰れても死なない 死という因果を付与しないとな』
さっきまで固体だったのにまるで液体に変わったかのようにシークの頭はグシャッと潰れて辺りに真っ赤な液状の体液が広がっていく。まるでトマトのスムージーみたいだなと、不謹慎ながらそんな感想が出てくるぐらいにはシークの頭が変化してしまった。
『分かるか?まだこいつは死んでいないのだ 【探求】で生死を確認出来るだろう?』
『はい…信じられない事に生きています。』
私の地図にはまだ赤い光で表示されているから彼女はまだ生きている判定だ。どう見ても死んでいるのに…。
『ここに死の因果を発生させる つまり排除していた因果を元に戻す これだけで彼女は死ぬ』
地図に表示されている彼女を見ると灰色で表示されておりただの物体としての判定になった。
(彼女とは話した事も無いけど…なんか嫌な気分だな。)
サラの記憶を覗いた影響か、彼女に対して思い入れを感じてしまう。だけど私はそれを表情には出さず先生に話しかける。ここで気取られる訳にはいかないから。
『先生、他に生きている者達を使って先生の能力を見たいです!』
『ーーーふむ 仕方ないな 本当はミヨに殺ってもらおうと思っていたがそこまでお願いされては断れないな 特別に見せてあげよう』
先生はあくまで気丈に振舞っていたけど上機嫌を隠せていない。どんだけ私に能力を見せたいのだろう。
『軌道と言うとミヨはまだ物体に対して作用させてから相手に行使しているが 軌道そのものだけで攻撃した方が強い 視認も認識も出来ず手間も少ないからな』
先生を人差し指を立てて空中で円を描くように回すと空中に回転された軌道が生まれる。大きさとその見た目から私はハンドスピナーを連想した。
『これは時計回りの軌道だ これを敵に当てると…』
先生はその軌道を掴んでフリスビーみたいに片手で軽く投げ飛ばした。ハンドスピナーみたいな軌道はラァミィの頭に直撃し軌道がすり抜ける。
そしてラァミィの顔には横位置文字状の傷が入りそれが顔面から後頭部まで続いており、まるでノコギリやチェーンソーを突っ込んで切り裂いたみたいな傷口だった。これもどう見ても致命傷なのだがまだ彼女は生きている。
「ん…」
軽くえずいてしまったが、先生はその事を気にせず戻ってきた軌道を掴んでハンドスピナーを消してしまった。
『これも排除した因果を元に戻すと…ほら 血と脳が混ざった液体が溢れてきたぞ 結果が結果を生み出している 頭部に傷を負い 傷口から脳を漏れる 等の過程が積み重なって行くのだ』
『な、なるほど。えっと、あの軌道ってどういう攻撃だったのですか?』
どうしてもサラの記憶に引っ張られて彼女の事が気になってしまう。ただの赤の他人のはずなのに。
『軌道に触れたもの全てに因果を作用させたのだよ どのような物体であろうともどれだけ硬度があろうともその軌道の通りに動いてしまう 軌道に触れた彼女の皮膚 肉 骨 脳は時計回りに回ってしまったのだ そしてここがこの話の肝なのだが物体を彼女にぶつけたのではなく軌道をぶつけたという点だ だから軌道に触れた部分だけが回り 他の部位には一切の因果は発生しない これが軌道による攻撃だ 分かったか?』
凄く長い長文で息継ぎ無しで話したんじゃないかと思わせるぐらいの敷き詰めた話し方だったけど、私は無理矢理頭の中に叩き込んで記憶する。
『なんとなくですが分かりました。他にはありますか?』
『ーーーそういえばミヨにはリボルバーしか貸していなかったな こういうのはどうだ?』
そう言った先生の右手にはショットガンらしき銃と左手にはスナイパーライフルらしき銃がそれぞれ握られており先生は私に見せつけるように構えた。
『リボルバーも良いがこちらも状況次第では輝く場面がある』
先生の創り出した銃の軌道は私が使っている銃のデザインに近しいデザインで近未来的な造形をしていた。ショットガンの方はどうリロードしたら良いのか分からないぐらい従来の造形から外れており使い方が気になる。
スナイパーライフルの方はちょっとした大砲なんじゃないかってぐらい大きい。私の身長より銃の全長が長いかもしれない。こちらも近未来的なデザインでどこがどこの部位かは一見では分からない。
『どちらもリボルバーより威力が高い 近距離ではこのショットガンが光る』
先生がボー・ペティット目掛けて撃ち込むと近くに居たメリッサまで直撃し、どちらがどちらの肉体か分からないぐらいにグチャグチャになって吹き飛んだ。そして先生はそんな事は気にも留めずショットガンのリロードを片手で行なったが私にはどういうギミックでリロードをしたか分からなかった。
分からなかったのは意識が彼女達に向いてしまっていたからなのか、それとも…。
『これではスナイパーライフルの試し打ちが出来なくなってしまったな これはまた今度にしようか』
先生は銃を消し去ったと同時に周りに張っていた結界も解除した。そうすると風が吹いて私の鼻腔は人の死んだ匂いを感じ取ってしまい、今にも吐き出しそうになったのを必死に我慢して能力を行使する。ここのタイミングしか無いからだ。
私は影を操り彼女達の遺体を飲み込んでいく。
『…こうすれば彼女達の遺体を他の勢力に盗まれる心配は無くなりますね。』
『ふむ…これは証拠隠滅として他の場面でも使えそうだな 処理2課3課も喜ぶだろう 彼女達の遺体はサンプルとして第二部の研究者達に渡してみるか』
ここだ。ここを間違えたら私の今までの努力が無駄になる…!賭けではあるけど先生が知らない事を願ってここは聞いてみる!
『…あ、先生。あの〜質問があるんですけど、影の能力についてなんですが…先生って詳しいですか?』
『いや 珍しい能力であるし使える者に会ったのも久しいからな あまり詳しくはないが』
良し!やった!賭けには勝った!
(落ち着け!冷静になるんだ。気取られてはいけない。絶対に表情には出すなよ私…。)
『えっと、実はなんですが…彼女達の遺体がどんどん影の底へ落ちていってですね。回収出来ないんですけど…どうしましょう?』
私は本当にどうしたら良いのか分からないという表情とリアクションを取って先生に申し訳無さそうに聞いた。私の演技力には定評がある。先生にだって通じる筈…!
『ーーーワタシは何も見なかった聞かなかった 彼女達は元々ここには居なかった…良いな?』
『先生…!ありがとうございます!』
先生はやっぱり優しくて私には甘々だった。狙い通りの展開に私は本当に嬉しくなり、その感情を前面に出しながら先生にお礼を述べた。
私の心は先生に対する罪悪感と魔女の集会達に対する罪悪感が混ざり合って本当に気持ちが悪い。背中が無性に痒く感じて今にも掻き毟りたくなる。
『ではワタシはこの辺で戻るとしよう ワタシの方からオリオンに連絡を入れておくからミヨはリカを迎えに行きそのまま任務を継続するように』
『はい。あいの風、任務を続行します!』
先生に笑顔を向けながら敬礼を決める。
『フフフ ミヨとまた会えるのを楽しみにしている 良く食べて良く寝るんだぞ』
先生はそう言い残し軌道が消える。先生の反応は完全に無くなり私はすぐに理華の元へテレポートしてこの場を離れた。理由は彼女達の遺体を消し去ったが、血と臓物の臭いが残るこの場に居るのが耐えられなかったからだ。
(クソっ…なんて気分の悪さだ。)
テレポートし終わった私は吐き気のする胃を押さえながら、彼女の記憶を思い出さないよう無心にただただ理華の元へ歩いて向かうのだった。
ブクマ、高評価ポイントあざます!




