堕ちた影
何とか決着つけました。有言実行。
戦況の不利さを感じ取った魔女の集会リーダーであるルイスは同志たちと美世を置いて一人だけ逃走する事を選んだ。例え特異点を倒せたとしてもまだあの見えない敵が残っている。遠くからまだ音が鳴り響いている所から察するに向こうも相当な手練れだ。
もう連戦出来るほど私の脳に掛かった負荷は軽くない。
「さようなら特異点。またどこかで会いましょう。」
ルイスはそう言い放ち影に沈み込む。こうなったらもう美世では追えない。影はそのまま凄まじい速度で美世から離れて行き視界から消えて行った。
『先生、聞こえますか。』
『ああ聞こえている どうやら敵は逃げたようだな』
美世は影を追わずにパスを通じて死神に連絡を取った。
『先生が敵を逃さないように能力を使ったじゃないですか。その範囲を正確に知りたくて連絡を取ったのですが…。』
『そうだな…範囲は大体だが直径1km程だな ーーーほう…凄いな 敵はもう結界の端まで辿り着いたのか』
落下速度より速く動ける彼女の影ならすぐに先生の結界に辿り着けるだろう。だけど辿り着くとどうなってしまうのかが気になる。
『それで、敵はどうなりましたか?逃げた。という事象が起きないんですよね?』
『その通りだ ミヨに情報を流す あとは好きにしてくれて構わない』
先生とのパスから送られてきた情報はとんでもない内容だった。その情報が頭に入ってきた瞬間、目の前に軌道が現れる。
「これ…あの女の軌道だ。」
影に入る前、影に入った後、それに加えて様々な軌道が無数現れてどれも私の射程圏内にある。
『終わったらこちらへ来てくれ』
先生はそう言って連絡が途切れた。
……え?何だこれ?
今、割ととんでもない事が起きたよ?先生は何でもないみたい言ったけどさ、これってあいつが先生の結界から出ようとしたから先生の効果範囲に入ったって事だよね?
“この戦いから逃げられない”
が現実で起こってしまった。先生は対象に直接触れなくても結界を張ってその結界から出ようとした対象を効果範囲に入れられるんだね。もう即死トラップみたいなもんじゃん。敵が結界に気付かなかったらアウト。気付いても出られない。だから結局結界を張られた時点でアウト。
どうやら先生は本当に魔女達を逃がすつもりはないらしい…。絶対に逃さない為の一手を初手で行なった先生の手腕には恐れ入る。
額から汗が流れた。体温が高くて流れた汗じゃない。恐怖による冷や汗が背筋に流れた。
私は…勝てるのか?先生を相手に。いつか、私は先生と戦うかもしれない。…蘇芳は私に対して何かを期待していた。それは何だ?何でも知っているあいつが私に期待し勝算を見出しているもの…。
美世はここに来て葛藤する。これから自分が為さねばならない事を。
(能力、能力がいる。それも沢山、時間操作型因果律系能力に対抗出来るだけの能力が。)
それに仲間もいっぱいだ。私だけでは駄目、先生の射程圏外から援護出来る能力者が沢山居る。
ーーー魔女の集会、か。
「【逆行】」
目の前にある軌道を操作し逆行させて私はただ待ち続ける。彼女がこの場に現れるのを。
……来た。
遠くの方からこちらに向かって影が戻ってくる。私はその軌道を【探求】で探求して彼女の能力を探りつつ私は彼女との間にパスを繋げた。彼女から能力を借り出す為には私もこの実際に能力を使ってみないとね。
「散歩は楽しかった?…【反復】」
彼女が影から出たタイミングで彼女の軌道を停止させる。
「……っ、………っ…。」
声を出そうともがいているけど無駄だよ。この能力に完全に囚われたら天狼さんだって多分抗えない。前は天狼さんの道着を固定してその際に解除されてしまったけど、天狼さん自身の軌道を創り出しその軌道に干渉してしまえば、因果律を操作して天狼さんは事象をコントロールする事が出来る。
「今のあなたみたいにね。」
彼女の艷やかな黒髪を触れるとサラサラと流れる。まるでコマーシャルで出てくるような髪質だ。何度でも触れたくなる。だけどあまり時間は無い。手っ取り早く済まさなければ。
『あなたの能力、【再発】でコピーさせてもらうね?』
それから5分後、魔女の集会のリーダーである彼女の遺体が私の影へ落ちていく。彼女の目はまだ生気を感じさせるがどこにも焦点が合っていない。最後に何を見て何を思ったかは私と彼女しか知り得ない。
「あなたの能力、無駄にはしないから。」
彼女の下半身が完全に沈み込み、腹部、胸部、頭部、そして腕の順番で黒くて深い深い闇に溶け込むように消えていった。
その様子をジッと見ていた私はこう思った。この能力、死体を綺麗に消せるから簡単に完全犯罪が成立してしまうね。と、仕事の時に役立ちそうだ。処理課の人達の負担も減って良いね。
うーんと背伸びして先生が居る方向に身体を向ける。先生に全員殺される前に合流しなくては。さっさと彼女達の能力もコピーしてしまおう。
「これ私が影から出られなくて詰みとかないよね?」
月夜に照らされ足元に影が落ちる。その影に私の足が落ちて沈んでいく。感触としては何も感じない。ただ水の中の浮遊感にも似たものを感じる。足が重力の影響を全く受けていない。影の中は無重力だ。
「試運転は流石にいるよね。あの人数だし…。はぁ〜〜行ってみようか。【再発】act.堕ちた影」
彼女からコピーした能力をフルに行使する。私の身体が完全に影に堕ちて沈み込んだ。…なるほどね。影の中は予想通り無重力でまるで宇宙空間に居るみたい。宇宙空間に行った事ないけど。
(呼吸は…出来るんだ。謎判定だ。)
もしかしたら影の中に空気も一緒に堕ちたのかもしれない。そのおかげで何も無い影の中でも呼吸は出来る。それなりにこの中に居られるって事だよね。使い勝手が良い能力だ。有り難く使わせてもらおう。
(影の操作は…こうかな?えいっ!)
“視界”を操る要領で影を前方向に進めると私も引っ張られて影ごと進んでいく。まるで潜水しているようで面白い。学校もこれで向かいたいぐらいだ。
「昔乗ったジェットコースターみたい。面白いよこれ!」
この辺りの地形は坂と丘が続く関係で私の影も地表をなぞる様に動くから私の視界も上下して気分は完全にジェットコースター。三半規管が弱い人は絶対に吐くレベルで視界が揺れる揺れる。しかもこの影の移動、時速200kmは出てる。すっごく速くて先生の所まで一瞬で辿り着けた。
「あ、あの影はルイスか?」
「特異点に…勝ったの?もしそうなら有り難い…のか有り難くないのか分からないわね。この状況じゃ。」
何やら魔女達が私の影に気付いて騒がしいけど残念ながらあなた達のリーダーじゃないんだよね。ゴメンよ。
「みんなー助けに来たよー。」
影からルイスが出て来たがラァミィ達は怪しんだ。その声は確実にルイスのものでは無かったし言葉もフランス語では無い。それに加えてルイス本人も全く動かない。あの高慢さが滲み出ている目も焦点が合わず口元も力無く開きっぱなしでまるで死んでいる、みたいで…。
「まさか…そんな馬鹿な!?何故特異点が彼女の能力を!?」
ラァミィは叫ぶ。彼女が死んでいるのは明白だった。ならあの影は誰が操っているか。そんなの一人しか居ない。彼女と二人で戦っていたデス・ハウンドしか!
「あ、もうバレちゃった?綺麗に殺したから外傷は無いんだけどな…。」
私は彼女が死んでいる事を分かりやすく教える為に彼女の首を捻じ折り影の中へ沈める。ちゃんと殺したって所を見せないとね。
『あれ?先生結構残っていますけどどうしたんですか?』
『ああ 今の身体を試す為に遊んでいたらな まあ彼女達の能力をコピーするには丁度いい具合に痛めつけておいた あとは出来るな?』
『はい。任せてください。』
残った魔女達を見渡すと一人が腕が千切れ、また一人は口から赤黒い液体を垂れ流している。他にも重傷者がチラホラと見えて皆が怪我を負っており息も絶え絶えな状態。
私がリーダー格のお姉様と戦っていた間にお膳立ては済んでおり、もう私がいただきますをするだけの状況が先生の手によって作られていたのだった。
明日はもう少し速く投稿したいですね。明日の自分頑張れ。




