胸で釣られる
多分、次の話で決着がつきます。
怖〜…。あのお姉様恐ろしくてよ。影を操るからかなーイメージが陰キャ…ゴホンッ、根暗…ゴホンッ、陰湿………うん、陰湿、かなり湿っけの高い人のようだ。乾燥したこの島でここだけ湿っぽくてツラい。
(“怪腕”でゴリ押し出来ないかな。見えない軌道の攻撃なら彼女を完全に削除する事が出来そう。)
先生が異空間を破壊した時みたいな感じでさ。どんな事象にも因果律がある。彼女が能力を行使したという仮定を削除してしまえば能力は解除される。そうすれば怪腕のワンパンで決着がつく。…つくんだけどさ。
う〜〜ん…でも私は概念を掴んだり出来ないからな。今回の場合って影の概念を掴むって事だよね?前は異空間の概念、つまりそこら辺の空間を掴んでたけどさ。これは影を掴むって感じだよね。
影って普通なら掴む事は出来ないけど先生なら簡単に影を掴んで影ごと彼女を削除してしまいそう。いや多分出来てしまう。だけど私は無理かな…チャレンジ1年生しても良いけど失敗のリスク高杉さん(実家のお隣さん)問題なんだよね〜。
(ここは、少しリスキーだけどこれがどう作用するか見てみようかな。)
美世はベルガー粒子の操作をして内側から外側へ作用させる。そして地面を浅く蹴り上げると土煙が空中に舞い上がった。
(ベルガー粒子を纏わせたこの土煙を空中に固定する!)
舞い上がった土煙は空中で固定されまるで時間が停止したみたいな光景だった。それを見たルイスも同じ事を思い美世の能力の事を理解し始めていた。
「そう…そういう事ね。さっき上空へ飛んだり停止したりしていたのは特異点の持つ能力だったのね。」
あの土煙も特異点自身も空中で停止していた。詳細な能力はまだ分からないけど物体の位置関係を固定する能力なのね。タネが分かればどうってことないわ!
影で目障りな土煙を吸収しようと波のように動かして土煙に触れた。
「意味の無い行動だったわね!煙で死角を作ったのだろうけどお生憎様!私には通じないわ!」
私は意気揚々とまくし立ててから影で土煙を包もうとした…しかし影が土煙をすり抜けて吸収する事が出来ず影が地面へ沈む。
「嘘ッ!?」
土煙は相変わらず空中に停止して影の中に仕舞い込めない。そんな馬鹿な!気体や液体だって影の中に仕舞えるのに!たかが土の破片ごときが何で!?
何度も影を操り土煙に触れるが侵食する事が出来ず私はこの能力の異質さに気付いた。
(まさか彼女のベルガー粒子でコーティングされてる…?)
気体、液体、個体、それらを吸収出来る私の影が唯一吸収出来ないものがある。…それがベルガー粒子。能力者を私の影の中に入れるとベルガー粒子だけがその場に残り能力者はベルガー粒子を失った状態で保管される。だから私の影に触れる事=能力が使えなくなるという事。
どんな強力な能力者だってベルガー粒子が無ければ能力は使えない。だから私はこの性質を利用してあらゆる能力者達と戦いそして生き残ってきた。
まさかベルガー粒子で物体を包む芸当が出来たなんて…しかもベルガー粒子で物体を包むと私の影では吸収出来なくなる。盲点だったわ。そんな敵一度も会ったこと無かったしそれがこのタイミングで現れるなんて…!
「…良し。あの影の能力は先生の能力には作用出来ないみたい。」
先生は私に言った。この能力は次元が違うって、先生の説明にあの影の能力を当てはめると映写機のレンズに付いたゴミがフィルムに影として映った、的な感じかな。もしくはフィルムに付いたシミだね。…いや、ちょい意味不明か。
んーと、能力と能力が干渉し合う場合はより強い能力の方が優先されるとして先生の能力が全てにおいて優先されるって感じかな?
この二人の考えはルイスが正解であり美世が不正解でもあった。ルイスの見立てではベルガー粒子で覆われた物質に対して影が何もする事が出来ないという考えは当たっている。
それに対して美世の考えは間違ってはいないがこの状況では当て嵌まらない。考え自体は合っていたが美世はまだ時間操作型因果律系能力を過小評価していた。この能力は文字通り次元が違う。2次元の存在が3次元の存在を認識出来ないように、3次元の存在が我々の次元…4次元を認識出来ないように死神の能力はどんな能力であっても同じ次元で並ぶ事は無い。
「なんなの本当に…。もうこんなものはほっといて元を叩かないと。」
ルイスは土煙を避けて左側に大回りし美世の元へ歩いて行く。そしてその僅かな間、美世は次の手を考えていた。
(私の身体の軌道を固定しておけば影に侵食されないんじゃあ…)
土煙で実証済みなんだから私自身も平気な筈。だけど問題なのは影自体はどうしようもないって事だね。電気系能力が使えなくなるから影を消す事が出来ないから私は彼女に対してダメージを与えられない。
でも、全身をベルガー粒子で纏った状態なら彼女が私に対して物理的に攻撃を行なえばカウンターで彼女にベルガー粒子を纏わせる事が出来る!そうなったらもう私の勝ちだ!これで行こう!
そう決めた私の行動は速かった。身体の内側に供給していたベルガー粒子を外側に向けて全身を纏わせて軌道を固定した。それから肩で呼吸しながら脇腹を押さえて苦痛の表情を浮かべる。
「う、うぅ…。」
これなら敵は私が時間稼ぎの為に土煙を上げて痛めた脇腹を押さえて苦しそうにしている可哀想な女の子だって勘違いしてくれる筈!
「あら、そういう事?少しでも回復する為にこれをやったのね。」
ルイスは土煙をチラッとだけ見てから美世を舐め回すように視線を向ける。
(胴体、特に腹部のダメージは時間が経ってから来るのよね。内蔵に鉛が詰められたんじゃないかってぐらいの鈍痛に襲われるの。懐かしいわ。)
ルイスは昔を懐かしみながら美世を観察する。生理痛の方が痛いけどこれも痛い。呼吸が怪しくなって何も考えられなくなる。特異点は今年の春まで一般人だったから痛みに対して耐性が低そうだし、もう動けないのかもしれない。案外呆気なく決着がついたわね。
「ふっ…ふっ…ふっ…」
あの女が何を言っているか分からないけど上手くいっていると仮定して演技を続け。浅い呼吸を繰り返して後退りをしてみる。この時は視線を下に下げて身体が無意識的に彼女から離れるように動く。みたいな動きを意識的に行う。
(ここで影を操ってもまた発光されたり飛ばれたら捕まえられないしどうしようかしら。)
後退りする特異点を追う形で歩いて近付くと歩幅の差ですぐに距離が縮まりもう腕を伸ばせば触れそうな距離にまで追い付く。
「く、来るな!」
特異点が腕を振るって抵抗を見せたけど今まで見た中で一番遅い攻撃、少し身体を引くだけで避けられる。
…なーんかわざとらしいのよね。女の勘かしら。
「もしかして油断を誘ってるの?」
腕を組みながら特異点の顔を覗く。これは腕を組む事ですぐに防御する事も攻撃する事も出来ないと彼女に見せつける為に行なった。これで喰い付いて来ないなら彼女は本当に激痛に襲われて戦闘が困難な状態…でも、ここで動くのなら彼女はまだ…
ルイスの油断を誘う動きは美世のあるコンプレックスに触れた。そのあるコンプレックスとは…胸。美世が最もコンプレックスと感じている胸がとても強調され、しかも至近距離で見せつけられたのだ。美世は一瞬にして癇癪を起こす。
なんだこの女!?谷間を強調させて私に見せつけて来やがる!?服の胸元に穴が空いているから余計に谷間が良く見えるし!しかもデカいし!
クッソ…Eカップはありそう。あの巨乳お姉さんの雪さんと良い勝負だ。負けるな日本。
(これはもしかして高度な読み合いなのか?Cカップの私に見せつける事で挑発しているのか!?)
海外からしたら私の胸も貧乳の部類に入るのかもしれない。つまり貧乳を煽る事で私に手を出させようとしているのか!?なんてエッチなお姉さんなんだ!許せるっ!
「って…見せつけてんじゃねえッ!その胸もぐぞ!!」
「なんで怒っているのこの子!?」
この日一番の速さで放たれた美世の攻撃はルイスの身体には当たらなかった。美世が言葉を発した瞬間にはルイスは危機を察して身体を影で侵食させていたからだ。その結果、美世の拳はすり抜けて空を切るだけに終わる。
「本当に嫌になるわ…なんであなたの腕は無事なのよ。」
恐らくあの土煙と同じ、自分の腕をベルガー粒子で包んでいるのでしょうけどもう私の能力の弱点を知られてしまったわ。…もうここら辺で逃げてしまいましょうか。
ルイスの実力は天狼の1段下辺りですかね。ベルギー支部ではエース級でした。性格は7段ぐらい落ちますけど。




