世界最強の一片
このコンビで魔女狩りに行きます。
私は先生の力説を無視して自身の世界に没入していた。もしかしてぐらいの可能性だけど…蘇芳の目的はここに先生の意識を向けさせる事なのか?もしそうならそれは何故?理由は?暗殺が目的?不意をつければ殺れる自信がある?
今の状況が蘇芳にも知られている…いや、知ってたとしたら何か行動に出る筈だ。私ならそうする。
《ミヨもこの制約について何か気付いているようだ 彼女なら私達以上の可能性を見せてくれる筈》
死神の勘違いは継続していた。彼女は別の事に気付いて他の事を考えている。
『そろそろ本題に戻ろう この異空間も時間という制約に縛られている つまり射程圏内という事だ だからこうして掴めている』
『…今の所ちょっとステップ3回ぐらい飛ばしませんでした?』
思考を中断して先生の言っている事を理解しようとしたけど…だからって掴めているという言葉の前にかなりの説明がいると私は思う。実際に声を出して話し合っている訳じゃないから聞き忘れでは無いと思うし絶対に説明が不足しているよ。
『ーーーミヨが分かりやすいように視認化しようと掴んだのだが逆効果だったみたいだな』
『いや見て説明されて何をしているのかは分かるんですけど、なんで出来るのかが分からないんです。概念の掴んだ感触とか想像出来ません。硬そうなイメージですけどね。』
『そうだな…掴むと圧縮されてそれ以上は掴めなくなるといった感触だ』
『あ、良く分からない感触でした。触り心地とかが無いんですね。』
『触ってはいないからな 掴んでいるだけだ』
うがあーー!そこが分からないの〜〜!もうジタバタとこの地面を転がりたい気分だ。私だって能力者としてはかなりの感覚を持っていると自負していたのに全く言っている事が分からない。イライラする〜!
『…それで掴んでからどうするんですか?』
『掴んだものを押し固める様にして中央に集める』
先生は4本の腕を胸の前に徐々に徐々に動かしまるで目に見えない何かを押し固めているようだった。それから最終的にバレーボール程の大きさが4本の手の中に収まるぐらいで停止し…あれ、押し固められたものが視認出来る?
何か揺らぎのようなものが見えるけどそれが何かは分からない。先生の行った概念なのかもしれない。私の脳は気付かないうちに概念を視認出来るように成長していたようだ。どうやら思っていたより私は死神寄りの生き物に変容していたみたい。先生とは私はもはや似た者夫婦と言える。
『それが概念ですか?』
『おお!視えるか!それならもう壊してもいいな』
怪腕と先生の手が概念を完全に握り潰しその瞬間、私達の周りの景色が一変し元の空間に戻っていた。
『…あっさりと脱出出来ましたね。』
狐につままれたとはこういう事を言うのだろうか。過ぎてしまえばどうという事は無く、こうして無事に帰ってこられたのにまるで実感が湧かない。
『能力で創り出した物はすぐに壊れ世界から消える だから未だに無能力者達には知られていない』
『確かに跡とか残ったら観察されるだけでバレますもんね。』
能力によってその場に証拠というか残滓みたいなものか残っていれば人の目に晒される可能性が高いけど組織の中でそういう話を聞いたことがない。多分どの能力も解除すればすぐに消えてしまうのだろう。
『人の記憶や現場の欠損ぐらいなら能力でどうとでもなるから基本的にバレないのだがな』
『処理課のニ課さんと三課さん達いつもありがとう!』
多分ここ最近で1番お世話になっているのは私だから彼らに足を向けて寝られない。本当にいつもありがとうね!
それから私と先生は未だに眠っている理華を斜めに掘った洞穴に安置して、入口を細かい土で空間が通るぐらいの塩梅で塞いでからその場を後にした。すぐに戻るから待っててね。
そしてこれから魔女狩りに行こうと思っているけど先生が隣に居るというのは、少し…いや、かなり緊張する。授業参観みたいな学校の行事に親同伴で参加するみたいな独特の緊張感だ。小学一年生以来の緊張感に喉が乾いて仕方が無い。なんだこの変な緊張感は…。
『先生と実戦とか緊張します。足引っ張らないよう頑張りますので何卒宜しくお願いします。』
先生に頭を下げて何かミスをしても大丈夫なように予防線を張っておく。私って賢い。
『緊張する必要はない いつも通りに事に当たれば問題なかろう』
『はい!』
取り敢えず上司と仕事をする前の儀式的なやり取りを済ませてから辺りを探る。私の視力では遠い物は霞んで見えない。先生はどう見えているのかな?
『ーーーミヨ 今何を考えた?』
『え?先生ってどれくらい見えるのかなって。』
『さっきまであの山の石まで見えていたのに今はぼやけて見えない それにとても暗い…ミヨの視力まで落とされたな』
『ごめんなさい!!もうやらかしてしまいました!!』
言ったそばから失敗してしまった。フラグ回収が早いんだよ伊藤美世!
『いやこの軌道の状態はまだ分かっていない部分がある 未完成な能力なので予想外の事はどうしても起きてしまうから気にするな』
『しぇんしぇ〜〜。』
先生優しすぎるよ。もしかして私一度も先生に怒られたことないんじゃない?どんだけ天使なの先生は。死神じゃなくて天使って名乗ったらどうです?
『しかしこう見えないと能力で探るしかないが射程の関係上時間がかかってしまうな』
『それで私から提案なんですけど上に行きません?高い場所から見下ろせば視界は確保出来ますよ。』
人差し指で空を指差し提案する。この島は拓けた地形か坂しかないから隠れられる場所が無い。なんせ建造物も無いのだから。
『上か…良い考えだ ミヨは飛べるか?』
『はい、飛べ…せん!飛べません!』
今わたしに神の天啓が降りた。ここは飛べないと言えと。
『ーーーそういう事ならしょうがない 披露するのは後が良かったのだがな』
先生はそう言うと私をお姫様抱っこして空へ飛んだ。
『ええええええ!!?な、なんっ何で触れるんですか!?それにお姫様抱っこって!お姫様抱っこって!キャーキャー!私先生にお姫様抱っこされてる〜!!キャーーー!!!』
テンションのパラメータが振り切れて私の心拍数と高度が凄まじい勢いで上がっていく。
『ミヨの影響だ 先程のようにミヨがワタシに対してこうなんじゃないか こうであって欲しいな等の思いがこの姿に反映された結果 五感は勿論の事 物理的に物を触れられる所まで来てしまった それでもまだ未完成なのが恐ろしい ミヨはどこまで望んでいるかでこの状態は変化していくと思うぞ』
私の願望エグい。先生シチュエーションボイスとか作っている時の願望がこの姿の先生に反映させてしまっていたみたいだ。ナイス私!キャーキャー!先生を感じるよ!
『今度一緒にデート行きましょう!そこが私達のゴールです!』
『まだ先がありそうだな…』
嫌そうな声を出している割に先生は嬉しそうな表情を隠し切れていなくて、それをすぐ触れられそうな距離で見ていた私は間違いなく先生の事を好きなんだと改めて自分の想いを再確認した。
死神《これ以上能力が上がるのか…楽しみだな》
美世(私やっぱり先生好き。)
噛み合わない2人です。




