敵対以外の道は無い
金曜は1日ふりーなのでストックを作ろうと思ってます。
今の理華は意識があるのか無いのかは分からないけど出来れば傷つけたくない。この憑依をどうやって止めさせられるのかを考えないと…。
「私はあなた達に話す事は無いから早く出ていってよ。」
「それは出来ないわ…私達からすれば用は済んでいないから。」
「お前達って私と敵対したいの?」
「それは望んでいない。情報を得たらこの少女はすぐに解放するつもりだった。まさか気付かれるとは思いもしなかった。」
「理華に手を出しておいて敵対するつもりはなかった?お前達の勝手の理屈を押し付けるなよ。私はもう敵対関係として魔女の集会を潰すつもりだけど?」
「その件については正式的に彼女に対して謝罪する。だから私の話を聞いて欲しい。」
あぁ…駄目だ。話せば話すほどこいつの事が嫌いになってくる。理華の顔で自己中の考えをペラペラと喋らないでくれ。
「聞いてやる。だが聞いてやるのは理華の身を案じての行動だからあなた達を許した訳でも敵対しない訳でも無いからね。」
「私達“魔女の集会”はあなたが特異点としてどう行動しているのか調べたかった…。そしてあなた自身がどういう存在なのかも。」
「特異点、どこかで聞いた事が…あっ!お前達蘇芳の仲間かっ!?」
私の事を特異点として称したあの少女、蘇芳の仲間ならあそこで待ち伏せ出来ていたのも納得が行く。あの女…。
「スオー…?誰だそいつは、私達は予言によってここに来た。仲間はあの7人だけ…他に仲間は居ない。」
違う…?いや彼女なら気付かれずに先導することぐらい出来る。だからまだ無関係とはいえない。
「その予言ってなんだ。能力の一つか?」
「…能力、とはまた違う。似て非なるもの、私達は正しき進路を進む為に活動している。」
なんて頭の悪い説明だろう。相手に理解させる気がない。
「気持ち良く話したいだけなら魔女達でグループセラピーを開いててくれ。私を巻き込むな。」
「分かって欲しい…この世界の為に必要な儀式だった。その中心に居る特異点があなただったのは私達の選択では無い。世界が私達を選んだの。」
あ、無理。無理ですこいつら。もう殺るしかないと私は結論付けた。
「あんたって本体を殺せば憑依が出来なくなるの?」
「なに…?どういう意味?」
「能力者って殺せば能力が解除されるじゃん?だったら本体を殺せば憑依が解けるのかなって。」
「出来もしない事を言わない方がいいわよ。私達の場所も分からないのにどうやって殺せるの?」
「私がお前達を殺せる手段が無いと思い込んでいるあたりあなた達の予言って完璧じゃないんだね。」
私には【再発】がある。これを使えば転移出来るから距離という概念をある程度無視出来るし【探求】を駆使すればこの島に居る限り必ず見つけられる自信はある。
「確かに完璧ではない。しかしお前はもう詰んでいる。あいの風…さっき地形に違和感を感じると言ったな。はっきり言って驚いた。まさかそこまで探知能力が正確だとは知らなかったわ。」
そうだった、その問題も解決していなかった。こいつの話した感じだとこの地形の違和感もこいつ等の仕業か。
「この場所はね…本物ではないの。お前は私の同士が創り出した造り物の世界に居る!」
首を掴まれて跪かせられているのに元気な奴、自分が優位な立場だと信じて疑わない人間の反応そのもの。つまり私がここら脱出する事が出来ないとこいつ等は考えている訳ね。
「創造系の能力…あの狼がトリガーだったのか。」
「ウフフフ。本当に凄まじい認識力ね。正解よ。あの狼が弾かれた時にあなたを中心に偽物の世界が構築されたわ。その効果範囲は半径50メートル!…短いと思った?残念ね、あなたが中心に居るからあなたが動けばこの偽物の世界も移動する!」
つまり私を中心に偽物の世界を包んでいるみたいな感じなのかな?イメージとしては直径100メートル程の迷路に閉じ込められている…?良く分からないな…。
「どういう事だってばよ。」
「あなたは1時間程歩き続けたわよね?でも現実世界ではあなたはその場で足踏みしているようなものなの。この世界は現実世界から隔離された世界…。1ヶ月歩き続けようが果に辿り着くことは無い。もう何処にも行くことは出来ないの。」
なるほど…そういう能力もあるのか。面白いな…私がマッピングした地図はこの世界の一部で現実世界とは違うのか。だから違和感を感じたのかな。
「でもそれだと色々と制約が働かない?あなた達が居た時に能力を行使したんでしょ?なんであなた達はこの世界に居ないの?」
いや、もしかしたら居るのか?見つけられていないだけで何処かに潜んでいるとか?
「言ったでしょう。あなたを中心に世界が構築されているって。私達はあなたから離れれば現実世界に戻れる。私が憑依しているこの娘はあなたから離れていないから一緒に囚われている。」
この能力の全容が見えてきた。というかまさかこんなに丁寧に説明してくれるとは思わなかった。敵だよね?話していいの?私としてはあなたが話してくれるのならまだ質問したいんだけど。
「まだ腑に落ちない所がある。私はこの世界に隔離される時に何も気付かなかった事がね。」
私の探知能力でその事を気付けなかったぐらい精巧な世界ならなんで今は違和感を感じているのか説明が出来ない。
「良いでしょう。教えてあげるわ。あいの風、あなたって常に能力を発動しているわよね?」
「ええ。」
「でもそれは勘違い、本当は能力がオフになっているタイミングが存在している。それは目の前の事に集中している時よ。」
「目の前…?」
「そう、あなたの能力は何時でも効果範囲なら視れる。そうでしょ?…ああ、何故それを知っているかは教えられないから聞かないでね。」
「…説明を続けて。」
「では続けるわね。全部を視てないというより視れない。あなたは範囲を絞って視ている。全ての地点を視ようとすれば脳に多大な負荷がかかるしその情報を処理しきれないから。」
彼女の言った事を認めるのは負けたみたいで悔しいけど彼女の言うとおり私は視る範囲を絞っている。例えるのならモニターだ。私が視認出来るモニターは良くて5つぐらい。もし全ての範囲を視ようとすれば100を超えるモニターを視界いっぱいに広げて同時に視聴するみたいなものだ。視えているのに情報を処理し切れなくて意味をなさない。だから常に範囲を絞っている。
「影の壁を覚えているかしら。あの時あなたは目の前の壁に意識を集中させて範囲を絞ったの。そのタイミングであなたを中心にこの世界を構築した。納得がいったかしら?」
「納得いったよ。ちゃんと全部計画に則った犯行だったのね。騙されちゃった。」
「ウフフ念入りに準備したもの。」
「あの魔女の格好も計画の内?」
「あれは私達の正装よ。」
素だったのかあの格好…やっぱり絶対にこのグループには入りたくないな。あれダサいんだもん。
「ねえ…最後に質問していい?」
私は首から左手を離してだらりと下ろす。
「また質問?私達の質問に答えてくれるのなら一つだけ答えてあげる。」
「じゃあお言葉に甘えて…あなた達ってもしかしてあの場所からそこまで離れていない?」
「…なんでそんな事を聞くの?まさか私達をまだ殺せると思っているの?」
「お前が私にしたい質問ってそれ?それならまずお前が答えろ。」
左手が勝手にパキパキと指を鳴らしながら蠢く。まるで蜘蛛が敵を襲う前のような…蜘蛛が爪を突き立てるように指を構える。
「…面白い、面白いわあなた。その通りよ。私達はあそこから遠くの方へは行けていない。あなたから受けた攻撃のせいでね。」
電気を纏った攻撃が原因で彼女達の行動を阻害していたのかもしれない。それなら…イケるか?
「じゃあ答えてあげる…。」
ゴクッ…彼女は緊張したせいで唾を飲み込む。憑依していても身体に影響が出るんだね。
「皆殺しにしてあげる。私は1度狙った獲物は必ず殺す。死神と一緒でね。だから必死に逃げろ。それがお前達が出来る最期の行いだ。」
そろそろ2回戦が始まります。




