疑いの方針
長ーーーーい!!!でも書いていて久しぶりに筆が走りました。土日使って話の流れを決めておいたおかげかな?
あいの風と理華の二人が再び探索に出発した同時刻、オリオン、ハーパーの2人は無線機の前で中々来ない連絡を待ち続けていた。
「アイ達は大丈夫でしょうか。約束の時間なのに連絡が来ません。」
「連絡を取れない事情があるんだよ。」
「それって例えば戦闘中、とかですか?」
「ありえるね。二人共好戦的だから能力者を見つけ次第噛み付いている事だろう。」
「なんでそんなに落ち着いていられるんですか!」
ハーパーは島の方を眺めているオリオンに罵声に近い声を出した。今のハーパーに冷静さは無い。アイと理華が心配で今にも泳いで島に向かいそうな勢いだ。
「信用しているからさ。あの二人が真正面からの戦闘面で負けるとは思っていない。あの年代では間違いなく最強のコンビだからね。」
「それなら真正面からの戦闘以外ではどうなんですか?」
「もし正攻法でなく搦め手を使われたら危ないかもね。そういう相手とは見合ったことが無いだろうし、そっちへの訓練はまだ出来ていないから。」
「搦め手…?」
「ハーパーの能力は精神に干渉する能力だよね?」
突然の質問にハーパーは戸惑いながらも答える。
「そうですけど…。」
「もし、あいの風達と戦わないといけない時、君ならどうする?」
「戦いません。絶対に勝てませんから。」
「正解。」
「なっ…!?」
気が立っているハーパーは怒鳴り声でふざけないでください!と言おうと口を開いたがオリオンのその有無も言わさない気迫につい口を閉ざしてしまう。ハーパーはまだ訓練を受けていないただの一般人、オリオンの異様な雰囲気に飲まれ自然と背筋が伸びる。
「勝ち負けなんて人それぞれだよ。あいの風達の勝ち負けは殺すか殺されるかだけど敵にとっては逃げるか死ぬかの2択だったりする。」
「…逃げるって勝ちなんですか?」
「生き残る以上の勝ちなんて無いさ。わざわざ真正面からあいの風とやり合う必要なんて無い。奇襲を仕掛ければ案外簡単に崩せてしまうものさ。」
そこでハーパーは疑問を感じた。あいの風の能力は非接触型探知系能力、つまり周辺の情報は常に把握しているはずだと。
「アイに奇襲なんて出来るのですか?この世で1番不可能そうですけど。」
「奇襲って言っても色んな方法がある。この場合の奇襲とは先手を取って待ち伏せておく事だね。」
「待ち伏せって奇襲なんですか?」
「奇襲だよ。自分達のエリアを予め作っておいて標的が来るのを待っておくんだ。そこで1番大事なのは奇襲だと気付かれずに目的を果たす事。」
「オリオンさんさっきから敵視点で話してますけど…。」
まるで見ているかのようだ。
「まあ最後まで聞いて欲しい。あいの風達を奇襲するには向こうを攻めさせないといけない。何故なら彼女は守りの姿勢の方が強いんだ。ミューファミウムの一件でそれが証明された。あいの風は待ち伏せタイプのハンターなんだよ。」
このオリオンの指摘は正しかった。あいの風が初めて能力者と交戦した際、廃ビルで異形能力者を待ち伏せした時にほぼ完封に近い結果を出している。先程にオリオンが述べた自身のエリアを確保し奇襲をかけるという戦法はあいの風の能力ととても相性が良い。
「確かにその考えは一利ありますけど…。」
「だからあいの風達に攻めさせる。これが前提条件、そして精神系能力と別の複数の能力で複合的に奇襲をかける。もしこれが完璧のタイミングで実行出来れば探知能力者の彼女でも術中に嵌められる。」
「でも理華も居ますよ?1人を精神支配出来たとしても逃げられないと思うんですけど。」
1人がフリーのままなら結局、精神操作の能力者が狙われてしまう。そしたら逃げる事なんて出来るのかな?
「君は勘違いしている。精神操作の標的はリカだよ。」
「え?で、でもそれじゃあ結局アイがフリーで…」
「そこで別の能力を使うのさ。さっき言ったよね、完璧のタイミングで複合的に能力を使うって。」
「別の能力?」
「あいの風の弱点は経験値の少なさとそれから生じる知識の少なさだ。想定していない能力は彼女自身探知したとしてもすぐには気付けない。この気付けない間というのは敵にとっては十分な時間なのさ。その間に逃げれば敵の勝ちなんだよ。」
「はぁ…?」
イマイチ要領を得ない話でした。最初は連絡が来ない理由を考えていたのに気が付いたらアイの嵌める方法の話になっているし、そもそも奇襲なんてしないで最初から逃げていればいいのに。
「ハーパーはあいの風を能力で精神に干渉するにはどれぐらいの時間が必要なのかな?」
また突然変な事を聞かれる。オリオンは私に何を聞きたいの分からない。ただの暇潰しで聞いているのなら話しかけないで欲しいです。無線機に集中しておいた方が何倍も有益ですから。
「…個人差があります。ただの一般人で不意をつければ一瞬、能力者なら簡単には干渉出来ません。特に私より強い能力者、つまりアイみたいな能力者は1時間程私の射程内に留まり続けていないと無理です。」
「それは違うね。あいの風一人なら君は一瞬で精神に干渉出来るよ。」
「はい?」
そんな事は不可能だ。彼女はかなり意思が強いタイプだと思うし芯がある人間は簡単に自身の行動を変えたりしない。
「理由が分からないかい?何故一瞬で干渉出来るのかを。」
「分かりませんよ。というよりこの世界中どこを探してもアイの精神を一瞬で干渉出来る能力者なんて居ないと思いますけど。」
実際私がミューファミウムに所属していたあの頃、東京で大規模の結界を展開していた時にアイは私の射程内に入っていた。だけど私は彼女の精神には全く干渉する事が出来なかったしあんな体験は初めての事だった。
「私実は一回だけ彼女の精神に干渉しようとしたんですよ。ミューファミウムの現場に出ていた兵士達と連絡が取れなくなった時にこのままだと私も殺されてしまうと思いましたから。でも全く精神に干渉出来ませんでした。あそこまで強固なのは初めてで驚きましたよ。」
「なるほど…君の認識はそこで確立してしまっていたのか。ハーパーはあいの風の事を畏怖の対象として捉えているのと同時に過大評価をしているんだね。」
「アイを過大評価…?」
「彼女だって能力者としてある前に一人の人間、ただの少女だ。付け入る隙が必ず存在する。」
オリオンの言葉が耳に入って来るけど頭に入ってこない。何故なら彼の雰囲気が先程までとは打って変わって冷たい…いえ鋭い印象を受けるからだ。まるで人格が別人に変わったような…。
「ハーパー、君ならその隙を付ける。それはね…。」
オリオンは真っ直ぐ島の方を向いたままあるがままの事実を告げるように口にした。
「彼女が優しいからだよ…まさか君に精神を干渉されるなんて想定していない。だから奇襲が成立する。君はこの世で唯一あいの風の精神を操れる能力者なんだよ。」
この言葉に冷や汗が止まらない。オリオン…一見優しそうに見えて中身は私の良く知る能力者という生き物そのものだ。ミューファミウムにもこういう人間は居た。私はそういう人間が大の苦手で近付こうとも思わなかった。
「私はそんな事はしません。例えしなければ殺すと言われてもです。」
「それを聞いて安心したよ。」
「え?」
「ん?まさかワタシがそうしろと命令すると思ったのかい?そんな事はしない、寧ろやるって言ったら対処しなければなりませんでした。」
何に対して対処するかは聞かなくても分かる。私を処理するという事だろう。久しぶりの感じだ。この命綱の上を渡っている感じ、ミューファミウムに居た時以来の感覚…もう味わいたく無かったのに。
「…試したんですか?」
「うん、君はミューファミウムに所属していたからね。この国に着いた時にはもうワタシ達の情報は漏れていた。あいの風とリカは君の事を一切疑わなかったけどワタシはあなたが1番怪しいと思っている。まだミューファミウムと繋がっていたのでは…と。」
「私はアイを裏切ったりはしませんし私はずっと監視されてました!」
「君の能力なら監視を欺くのも造作無いだろう?だから君とあいの風を離したんだ。疑いがまだ晴れてない君とね。」
「…私は、裏切ったりは絶対にしません。今すぐに信用してもらう方法は…まだありませんけど、これからの私の行動を見て判断してもらえればと考えています。」
「うん、そうする事にするよ。」
悔しい…。悔しさのあまり握った自分の爪が手の平に食い込んで血が流れる。私はまだ信用されていない。しかも私がアイの事を貶めていると思われている。こんな屈辱は今までに無い経験で今にも感情が爆発してしまいそう。
「あ、分かっていると思うけどこの事は彼女達には秘密ね。もし言ったら…分かるね?」
「…はい。」
「うん!分かっているのなら良いんだ。あいの風の邪魔になる存在は排除しろというのが死神の方針でね。ワタシはそれに準ずるだけさ。」
そう言ったオリオンはいつも通りの笑顔を彼女に向ける。その笑顔は有無を言わさない迫力があり、その笑顔を見たハーパーは全身の血の気が引き、強く握り締めていた拳を無意識に解いてしまう程の恐怖を感じていた。
オリオンやっぱり怖い人や…。そしてハーパーは不憫キャラとして不動の位置につきました。良かったね。




