話さなくてもいい事
早めに投稿出来て良かったです。
それは予想外の事態だった。我々“魔女の集会”は予言によってこの場に参上し同士を待っていた。それは特異点とも言える存在…即ち世界を壊し構築する者、我々が求め続けている最後のピース。
魔女の集会の目的はこの世界は間違った進路を正すこと。人類と我々“能力者”は相容れない存在であり人類の進路を正すには我々魔女の存在が不可欠、しかし我々魔女は関与しすぎてはならない。なぜなら魔女が原因で進路を変更してしまったからだ。
この世界には能力という概念が存在しそれを行使する存在が居る。それは通常ならあり得なかったことである。能力者の存在が認知され始めたのは僅か数十年の間、それまでは能力者は認知されておらず存在もしていなかった。
人類が能力者の存在を認識し始めてからこの世界は間違った方向に進み様々な不幸を生み出してきている。魔女の集会はそんな不幸を無くす為に存在し行動しているのだ。
「あぁ…この世界に生誕した特異点よ。我々を導きたまえ…。」
「…何を言ってるか分からないよ。私達が来ることが分かっていたのなら通訳を用意しておいてよ。」
私はそう吐き捨てて辺りを見回す。魔女の集会と名乗った集団は私と理華の健闘もあって全員意識を奪う事に成功した。
「この世界に生まれた…特殊、かな?私も良く聞き取れなかったよ。」
本当に彼女達は何が目的だったんだ?ミューファミウムのデータ…では無いよね、やっぱり宗教勧誘?
「ここから離れよう。連絡も取りたいし。」
「了解。安全な場所まで移動しよう。」
意識を失った魔女を置いて私達はその場を離れ落ち着ける場所まで移動を開始した。
そしてしばらく時間が経った時に理華が突然妙な事を言い出す。
「連絡は止めておいた方が良い。」
「え?」
移動の道中に突然、理華が言った内容に対して私は素っ頓狂な声を上げた。報連相が好きそうな顔をしているのに何故?
「他にも勢力がこの島に居るのなら無線を傍受しているかもしれない。」
「それじゃあオリオンさん達が…」
「そうだ、オリオンさん達は非戦闘員。彼らの居場所を特定される訳にはいかない。」
「でも、向こうは心配するんじゃない?連絡無かったら探しに来るかも。」
「オリオンさんもプロだ。ありとあらゆる事態に対応出来る。私達はデータ探しに専念して速くオリオンさん達と合流した方がいいと思う。」
その意見には一利ある。彼らの安全を取るのならそれが最善だ。
「うん…分かった。そうしよう。」
「良し、それなら話してもらう。あの状態は何だ?」
ここでこのタイミングか、確かに話すみたいな話をしたけどもっと先の事だとばかり。
「あの状態って?何の話?」
惚けてみるがジト目で睨まれてしまい居心地悪い気分に襲われる。私にとって理華に嘘をつくのは結構ストレスのようだ。
「分かった、降参。そこで座って話さない?」
適当な岩肌に腰を下ろしてバックパックを地面に置いてから飲み物を取り出す。7人とやり合ったから喉がカラカラだから喉を潤して落ち着きたい。
「ふーー…。」
ふと空を見上げると満点の星空があった。日本では空を見上げる機会なんてそうそう無かった気がする。空を見上げられないなんて制限は無かったけどいつも下を見ていたなー。
昔はUFOの目撃情報が世界中で挙げられたけど現在ではその報告も激減している。その理由は人が外での待ち合わせに空を見上げなくなったからだと、どこかの記事で読んだことがある。何故空を見上げなくなったか、それはスマホを見てて下を見ているから。
私もこういう時ぐらいしか空を見ない。もしかして生まれてから初めてこんなに空を見ているのかも。
「綺麗だね。」
「そういう空気感出しても乗せられないからな。」
「チッ。」
駄目だった。わざわざ見る必要も無い空を見上げてノスタルジックな雰囲気に浸ってからそれっぽい感想を述べたのに!
「お前、結構悪い女だよな。」
「悪い女の定義って何よ。」
「女性の腹や胸に思いっきり蹴りを入れて微塵も気にしていない所とかが。」
「殺していないからセーフじゃない?」
「あの時、絶対に殺すって思ってた。だけどさっきのお前は凄く落ち着いてた…その違いって何?何であの男は殺そうとして魔女達は生かしたの?」
「凄く答えづらい。ていうか答えられない。」
なにしろ私も分からないから。殺意に飲まれる時と飲まれない時の違いが何故あるのか分からない。分かる人が居るのなら教えて欲しい。ていうか蘇芳、お前知っているのならラインで良いから教えて欲しい。私の説明書的なやつを。
「死神絡み?」
「絡んでいるようで絡んでいない的な?」
「どっちだよ…。」
「どっちなんだろう。」
理華の頭の上に?が浮かんでいるのが見える。私も同じようなものだろう。お互い分かっていないから何を話し合ったら良いのか分からず沈黙の時間が流れる。
(本当はこんな事をしている暇はない事は分かっているんだけどな。)
ジェントルマン、魔女の集会、島に上陸してからこの2時間で2つの勢力と接触しその一つとはバチバチにやり合った。だからこんなアニメのBパートの後半みたいな雰囲気で理華と青春ごっこをしている暇なんて無い。
だけど私も人間だから精神が疲弊するんですよ。こうやって飲み物片手に空を見上げて寛ぎたいんすよ。分かります?この任務ね…割とかなり激務なんすよ。落ち着いている時間が取れなくて頭も痛いし辛いんすよ。
それに隣に座っている理華も戦闘で精神が高ぶっているから平気そうに見えて結構限界が来ている。普段の彼女は立ち姿や歩き姿がとても綺麗でお手本のような姿勢を維持している。それなのに今は残業終わりのOLみたいな背の丸まり方で見ているこっちが疲れてくるレベル。
それでも理華は私に話して欲しいと思っている。だから私は迷う。今か後なのかを。これ以上彼女に負担は増やしたくない。
良く頑張っているのだ理華は。初任務で私とペアでここまでついて来れるのは彼女が本当に頑張っているからで私は特に何もしてあげれていない。寧ろ助けてもらってばかりで問題を起こしたり抱えたりしているのは私の方で…。
人に迷惑はかけたくない。そう思うのは常識的な判断なのか彼女が特別なのか…私は今まで誰とも仲良くしてこなかったし友達とも呼べる人なんて中学までで一人も居なかった。
だから人と向き合うのが怖いんだ。誰かと距離を縮める事は怖い。コミュニケーションを苦手とする人間の気持ちが今の今になってようやく理解しきれた。こんな時に分からなくても良いのに何で…。
「…探索に戻ろう。」
私が考え事に集中していると理華がそう言い放ちバックパックを背負って立ち上がった。
「…うん。」
私も理華の背を追いバックパックを背負って歩き出した。
「ゴメン。」
「謝るな。」
私達二人の足取りは重くそれに比例して空気も重く感じ、息苦しさのあまり言わなくてもいい事を口走った後悔の念に襲われ私はただ足を前に出し続けた。
魔女の集会の目的を知らないまま離れてしまったのは割と分岐点でした。この事を知っているのはただ一人。




