コンプレックス
明日執筆する時間があまり取れそうに無いのでもしかしたら投稿出来ないかもしれないので、もし投稿出来なければ土曜に2話投稿しますね。
突然私の顔を見て周りから勝手に付けられたあだ名で呼んだと思ったら座り込んでしまった。これって割と失礼にあたる事案だと思うんだけど。
「私の顔を見てすぐに判断出来るのおかしくない?私の顔写真が知らない内にイギリスで拡散でもされていたりする?もしかしてミームになっていたりするの?」
「世界中で拡散されているのだろうな。…危険人物として。」
「そうだとしても月明かり程度で私の顔を判断出来るぐらいあの男は写真を眺めてたって事じゃん。」
「一回見れば忘れない顔立ちしてるけどな。もう少し鏡を見たほうが良いんじゃないか?」
「顔が整ってるって言いたいだろうけど私、自分の顔あまり好きじゃないから。」
「世界中の女を敵に回したな。」
「あーはいはい。あたしが悪うござんした。」
こういう話題は好きじゃない。マリナ様達ともたまにこういう話題になるけど私は自分の顔が好きじゃない。だってお母さんに瓜二つだから。
お母さんはいつも優しく微笑んでいた。笑顔がとても似合う女性で自慢のお母さんだった。でも私はいつも無表情で愛嬌は無い。お母さんと似た顔でその表情は似合わない。私がまだ小さい頃は良かったのに歳を重ねる毎にお母さんの顔立ちに近付いて行ってそれがどんどんコンプレックスになっていった。
特に嫌な事があった次の日の顔なんて最悪だ。苦しそうな辛い表情をしている自分の顔を見るとお母さんの死を連想する。苦しかったんじゃないか、辛かったんじゃないか、痛かったんじゃないかって…。だから私は自分の顔が好きじゃない。
「…風。あいの風!」
「!」
ヤバい。また思考の海に落ちていた。
「ガンギマリした目をしていたぞ。」
そこまでトリップしていたつもりは無かったけど…これからは気を付けよう、さっきので理華からの信用を失っているからね。
「とにかく、あれをどうしようか考えよう。抵抗する気が無さそうだし近づいてみる?」
「警戒しながら行こう。」
私達は仲良くおててを繋ぎながらクスリだったかスクリだったか忘れたけど、そう名乗った男の近くまで歩いていった。
そしてある程度近付いた所で私達は足を止めた。
「「うぐっ…。」」
…多分私は理華と同じ感想を抱いている。
“臭い”と。
男は浮浪者みたいな出で立ちだったから風呂には入っていない事は分かっていた。だから私達はその先の事を予想しておくべきだったのだ。こいつは放置した洗濯物みたい臭さだと。
「娘ぐらいの子達に臭いと言われるのは流石に傷付く…。」
「臭いんだから仕方ないじゃない。あんた、何日間ここに居るの?」
「3日だ。あとすまないが水と食料を分けてもらえないか?2日は何も口にしていないんだ。」
図々しいにも程があるなこのジェントルマン野郎。でも良く見れば頬がこけて皮膚全体がヒビ割れそうなぐらい乾燥している。この無人島には飲み水なんて無いから本当に何も口にしていないんだろう。
「情報と交換。あなた達の事と他の勢力について話して。」
水と食料を吊るしたら男は食い付いてきた。彼の話だと彼自身含めて能力者3人、無能力者が2人のチームで行動していた。そして襲ってきたのはドイツの勢力で他にもインド、フランスの勢力もこの無人島に来ている可能性大。そこにプラスしてまだ他の勢力が居るかもしれない。
「何であそこに居て私達を見張っていたの?」
男は食べ物を口にしながら答える。1人しか居ない状況ではデータを見つける事もこの島を脱出する事も出来ず彷徨っていた所、海の方から光が見えて救援もしくは敵の増援かと思い赤外線スコープの双眼鏡を使って監視していた。そしたら私と目が合ってこれはまずいと思い荷物を全て捨てて逃げた。
これがこの人の顛末。だけど私と目が合っただけでなんで逃げるの?
「数百メートルも離れていて辺りは暗く視界が悪いのに私の位置を見つけられた時点でこいつは危険な能力者だと思ったんだよ。実際間違っていなかった。目が合った時は死を覚悟したよ。ライオンと目が合った時みたいな感覚だったから。」
私のリスニングが正しければ私をライオンと同じ所に置いて判断してるよね。失礼じゃない?私は娘ぐらいの年頃の子だぞ。
「大体の流れは分かったけど貴方達の能力について何も話されていないんだけど?」
「教えられないよ。保険代わりさ。君達が私を殺そうとするかもしれないだろう?だから身の安全が確保されるまでは話すつもりは無い。」
「私はあなたの身の安全を確保するつもりはないから。私達はデータを追いますから邪魔だけはしないでね。対処しなくてはならなくなりますから。」
「その件なんだが私も連れて行ってはくれないか?探知能力者なら私の仲間達も見つけられるかもしれない。君達は私の仲間の顔は知らないだろう?」
「はい?何でお前の仲間を見つけないとなの?」
どうしよう。本当に私のリスニング正しいよね?こいつ変な事言ってるよね?
「じゃないと最悪戦闘になるぞ?私達は今回の争奪戦からは降りる。その為にも仲間達と会って事情を説明したい。」
言い分は…分からんでもない。だけど暴論な気がするな…。
「あいの風、ちょっと。」
「え?わっとと。」
理華に無理やり左手を引っ張られて男から少し離れた場所まで移動し耳打ちをされる。
「彼は恐らく疲労、ストレス、水分不足でマトモな思考が出来ていない。だから今言った事はあまり真に受けない方が良いと思う。多分彼はもう限界だ。」
「あー…確かにこの状況下でマトモな判断をしろと言うのは酷かもね。う〜ん…どうしようか。」
「食事と水分は摂れたんだ。今すぐに死ぬ事は無いと思うからここは私に任せてくれないか?」
さっきの私への対応も含め、理華の判断は今の私より正しいと思うから私は理華にこの件を任せる事にした。
「スクリ、少し良いですか?」
「仲間達はみんな良い奴らなんだ。助けてやりたい。」
「分かってます。しかし今のあなたでは私達のペースに合わせられない。先程の逃走でそれはお分かりですよね?」
「しかし…」
「私達で責任を持って探し出します。スクリ、あなたは私達が上陸した場所まで避難していてください。私達の味方に保護してもらえるように連絡を取っておきますので。」
「本当か?私達は助かるのか?」
「ええ。約束します。」
「ああ…ありがとう、ありがとう。」
男は感極まったのか、その場で頭から地面に倒れ泣き出した。
(なんか、急におかしくなったよね?最初はマトモだったのに。)
(逃走した影響で疲労がピークに回り、そこにお前と会ったから気が触れたのかもな。)
(私ッ!?私のせいなのこれ!?)
(追い詰められた状況でデス・ハウンドと出会ったら精神に異常をきたしてもおかしくない。)
理華と小声でこの男について話し合っている間も男は泣き続けている。せっかくの水分も外に出てしまって勿体ない。もうあげないからね私。
「スクリ、さっきの場所は分かりますね?一人でも向かえます?」
「分かった、分かった。仲間を頼む。おねがいだ…。」
「分かってます。さあ、朝には全て終わってますから。」
その後、理華の説得もあってスクリと名乗った男は一人で来た道を戻って行った。前見て転ぶなよー!
「本当に探すの?」
「見つけたら話はする。でも優先すべきはデータだ。データの情報を持っているなら聞き出し持っていなければ今みたいに誘導する。」
「あ〜悪い奴だ♪」
理華は初めから探すつもりは無かったらしい。私的にポイントが高いムーブだったから理華を責める気は無い。私も探すつもりは無かったから。
「任務で来ているんだ。スクリ達も同じ覚悟で来た筈、失敗のリスクを考えられないのなら来るべきでは無かったのに…。」
理華の判断は正しいと思う。でも理華は罪悪感を感じているようだ。彼女の優しさが垣間見える。
「行こう?私達には任務がある。」
「…うん、行こう。」
私は理華の右手を引いて島の奥地へ歩き出した。
今回は戦闘ならず…残念!




