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私は殺し屋として世界に寄与する  作者: アナログラビット
3.サイコパスの青春
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追跡する1人と一匹の猟犬

最近は良くスポーツ漫画を読んでいますけど熱いですね。

モーターボートでは岸まで上がることが出来ないので私と理華は途中から泳いで向かわねばならず、お互い嫌そうな顔をしながら海へダイブしようとしていた。


「…行こうか。」


「…そうだな。」


アメリカの軍隊が使ってそうなバックパックを海に投げ入れて私達も海へ降りる。このバックパックは完全防水で浮き輪代わりになるからこれを使って陸まで泳いでいく。バックパックの中身は食料、水、地図、無線機、その他諸々が入ってある。


そしてその中で1番大切な物、それは…簡易トイレだ!


無人島なのだからトイレなんて物は無い。いやもしかしたらあるのかもしれないけど場所なんて把握していないし管理もされていないだろう。だからこれだけは外せなかった。


理華もその事に気付いたとき真っ先にバックパックに詰め込んでいた。実際日本生まれの女子高校生が耐えられる環境下ではない。あの日本のトイレに慣れてしまった私達としてはこれが1番キツい。


そうだ、キツいと言えば海の中がとてつもなく寒い!


夜の海は予想以上に寒くどんどん体温を奪われて身体が動かなくなってくる。これは早めに上陸しなければ。


凍える思いをしながら泳ぎ始めて5分後、何とか岸に上がれた私達は海水が染み込んだ服と海水に浸されたバックパックを持って腰を下ろせる場所まで移動した。


久しぶりに海というものを体験したけれど海って臭い。磯の香りはどの海でも共通しているけど日本と違うのは海水を洗い流すシャワーが無い事だ。


「これ髪がキシキシになるやつ…」


「言うな。」


理華も相当嫌そうな表情で事実を斬り捨てた。女子だもんね。髪がベタつくとパフォーマンスが落ちるからシャワーしたいな…。


「コイン入れて数分間シャワーでるやつ欲しいな…」


「言うな。」


「せめてタオルで髪拭きたいな…」


「言うな。」


理華は布の様なケースから銃を取り出して動作確認しながら辺りを警戒する。さすが真面目で優等生キャラの理華だ。私なんて犬みたいに身体を震わせて水気を取っている。


「ここからオリオンさん達見えるかな。」


来た方向に向けて手を振るが視界ゼロの状況だ。あまりに暗すぎる。船ではライトがあったけどここは本当に暗い。近くに居る理華すら見失ってしまいそうな視界の悪さだ。


「月明かりも無いし街灯も無い。私達にとって有利な状況だね。」


「言っとくけどサーモグラフィーには映るからね。」


「そうなんだ。赤外線だっけ?これって光じゃないの?」


「電磁波のひとつだけど私の効果範囲外なんだよ。」


「決めつけているだけじゃないの?」


「無茶を言うなって…いきなり実戦の中で覚醒なんてご都合主義を期待するなよ。」


「良いじゃん。期待させ…」


私はその場で全神経を集中させて辺りをマッピングした。考えてやったのではない。本能的、もはや無意識で能力を行使した。


そして私の異変に気付いた理華がサブマシンガンを構えながら辺りに注意を向ける。突然の事でもすぐに反応してやって欲しい事をしてくれるのは有り難い。


「敵か?」


私が聞き取れるかどうかぐらいの声量で聞いてきた。


「分からない…探知出来ないんだけど視線を感じたの。それで無意識に能力を使っちゃった。」


「無意識に能力を使える事なんてあるんだな。どこら辺に居るか分かるか?大体でいい。人数も分かると助かる。」


「人数は一人かな。そして間違いなく能力者。場所は…あの奥。」


指を指して理華に大体の位置を示した。


(探知能力者が言っているのなら間違いない…か。)


私はあいの風の事を信用しているし特に能力者としての彼女をとても評価をしている。今の反応だって凄まじいものがあった。範囲外に居る能力者を探知出来たのは異形能力者としての勘の良さもあると思うけど…


(雰囲気がさっきまでとは別モノだ。)


天狼さんと戦った時とは少し違う。何というか…安定している?姿が良く見えないから気配に敏感になっているからあいの風の空気感が良く伝わってくる。


「あ、引いた…追おう。」


「荷物はどうする?置いていく?」


バックパックはそこそこの重さがありこれを背負って行けば速度が落ちるのは必至だ。


「いや…私達なら追えると思う。最悪私だけで捕まえるから荷物を持って行こう。」


「分かった。」


バックパックを担いで2人で島の奥に向かって走り出した。とにかく相手がどこに居るか私には分からないからあいの風を背を追うしかない!


それからしばらくあいの風の背を追って走り続けたがそのペースに追い付くので私は一苦労だった。まず10分間は全速力で走り続けている。勿論私も訓練の一環で走り込みはし続けていたから体力に自信があったけど、あいの風は信じられないレベルの脚力を持っていた。


「ハァッハァッハァッハァッハァッ!」


呼吸も浅くなってきて酸欠気味で思考が上手く回らないからあいの風に付いていくのはとても難しい。特にこの視界の悪さが体力を奪う。すぐ前に居るあいの風しか見えないし足場が予想以上に悪い。舗装なんてされていない道を走り続けているから余計に神経を使い疲労が溜まる。


しかもサブマシンガンをいつでも撃てるようにお腹の前で持っているから走りづらい。バックパックも重いしブーツも履き慣れていないからこれも地味に効いてきている。


(良くこの道を走れるよ…。)


あいの風は全てが見えているかのように迷いなく走り何度も進行方向を調整している。細かく左右に振れるように走って足場の悪い場所を避けて進んでいるから楽ではある。だからそれに付いて行っているだけの私が弱音を吐く訳にはいかない。必ず付いていく!


「停止!」


あいの風が右手を横に構えてから停止を促し私はすぐにサブマシンガンの銃口を前に構えた。


本当は口頭であいの風に返事をしたかったが呼吸を整えるだけで精一杯、とても話せるようなコンディションでは無かった。


「向こうが止まってこっちの出方を伺っている…私を盾にして良いから攻撃を受けないようにして。」


あいの風を盾の様に使うのは躊躇いがあるけど彼女なら相手の攻撃を防ぐ手段があるのだろう。私は彼女の指示に従う意思を伝える為にコクと頷いた。


「どうしようかな…敵対の意思が無ければやり合いたくないし情報を引き出したいからな。」


「ハァーハァー…問いかけてみるか?」


「…そうだね。」


あいの風は敵対の意思が無い事を示す為に私の前に立って私の銃を隠した。こいつ…言葉ではやり合いたくないと言っていたのに私に銃を下ろすようには言わないのか。


「あなたは何者ですか!声が聞こえるのなら出て来なさい!」


…反応は、無い。


「居るんだ…よね?」


私は一回も視認していないから分からないからあいの風しかそこの所は分からない。


「足跡があった。間違いなく居る。」


私には足跡は見えなかったけど彼女には見えていたらしい。探知能力はそこまで見えるものなの?


「俺に戦闘の意思は無い!話し合いに応じて欲しい!」


遠くから男性の声が聞こえてきた。英語だ…しかもイギリス訛の英語。


「イギリス人だ。」


「イギリス?本当に色んな国の勢力が集まって来てるね。」


逃げ切れないと判断したのか、男が両手を上げてこちらに近付いてくる。暗くて良く分からないけど気配で何となくの距離が分かった。


「止まって。それ以上近付いたら敵対の意思があると見なして殺す。」


足音が聴こえなくなる。男はあいの風の忠告を聞いてその場でフリーズしたようにピタッと停止した。


「いい子。あなたの様子は監視しているから下手な事はしないでね?」


男に向けていた注意があいの風の方に変わる。この状況でそんな事をしている暇は無い筈なのに…私はあいの風の気配が変わるのを感じていた。

いつも読んで下さりありがとうございます!

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