侵入する最狂の探知系能力者
休日だと時間のゆとりが出来て捗ります。
血の繋がっていないお姉ちゃんにビルを案内される。お邪魔しま~す!邪魔するなら帰って〜。
帽子を外してお姉ちゃんの後ろに付いて行く。ビルのエントランスに入って1番最初に思った事は、デカい…お姉ちゃんのお尻。
フリフリと揺れるナイスヒップに目が吸い込まれる。私は出るべき所は出ておらず出てもいいんじゃね?と思う所も出ていない。おかしいな…お姉ちゃんの妹である私に備わっている筈の物が欠如している。まさか義姉!?結婚出来る!?する!?
いつものハイテンションでお送りする伊藤美世TV
スポンサーの顔色をうかがっては面白いものは作れない!でも早急にお金が欲しい伊藤美世財閥は真面目な番組作りに心血を注ぐ。
ビルの一階はかなり広いゆとりのあるスペースが確保されてるエントランスだ。高さは7〜8m程度。天井にはシャンデリアが吊るされ高級感を演出しておりカーテンウォールからは日の光が差して明るい。
そして内と外との音の違いに気付く。ここに来るまで車の走行音や工事の音が聴こえていたがビルの中はとても静かで東京のど真ん中に建っているとは思えない。
これは道路から50m以上は離れている事とガラスが厚く音を遮断していからだと推測する。
下を見ると黒大理石のパネルが敷き詰められた床にカーペットが敷かれている。内装の色合いは落ち着いたスモーキーカラーに纏められてシックでモダンな大人の雰囲気を演出している。私好みだ。
エレベーターが左右に8個ずつ設置されてるフロアに人が見える。能力者かどうかは近づかないと分からないが私がエレベーターに乗ればエレベーターの軌道上が【マッピング】され利用者は全員〈地図〉に表示される。早くエレベーターに乗りたいものだ。
他に人が居ないか見回すとオシャレな人達がオシャレにオシャレな空間でオシャレしていた。
翻訳すると低い階段の上にテラス?っぽい休憩スペースが設けられておりそこでスーツ姿が決まっている男女が飲み物片手に寛いでる。下の階はドリンクバーが置いてありテーブルとイスが置かれてここでもオシャレに自分の時間を楽しんでる。
(あの人達も能力者なのだろうか。近づきたいけど…)
陰キャには自分から近づけないという制約がある。残念だけどここは諦めるしかない。それに何人かは私を見ている。
「そう言えば自己紹介まだだったね。本名は今の段階では言えないけど組織ではコードネームで呼び合ってるからそっちを教えるね。私のコードネームは“淡雪”。気軽に雪って呼んでくれると嬉しいな。」
コードネーム!カッコいい!私にもコードネーム欲しい!テンションがこの高層ビルの高さまで上がる。
「雪さん…雪さんは何でここで働いているのですか?」
雪さんは前を向いたまま答える。
「うーんここで働きたかった訳ではないの。組織からお誘いがあってね。そのまま流れに身を流してたら気づいたらって感じかな?」
すごくほわほわした動機だったが悪い人では無さそう。
私は左手の構えを解く。もう少し聞きたいな。
「ここってどれくらいの人達が働いているんですか?」
雪さんが私に向き直る。
「それは教えられません。まだ伊藤さんは組織に所属している訳じゃありませんからね。」
笑顔で拒絶の意志を見せられ動揺する。やっぱり堅気の人間じゃないね。様になってる。
「すいませんでした。出過ぎた真似をしました。」
頭を下げてこちらの非を認める。決してビビったからではない。ビビってないもん。年上の女性に威嚇されたの初めてだったからだもん。
「ううん、一般の人には言えない規則だから意地悪してゴメンね?」
再び優しいお姉ちゃんになる雪さん。押し引きが上手いなーモテるだろうなこの人。
雪さんが腕時計で時間を確認する。
「伊藤さん。今日時間大丈夫だよね?」
現在の時刻は午後2時過ぎ。
「家にはバイトで遅くなると伝えているので大丈夫です。でも電車が残ってる時間で解放してもらえると助かります。」
私が申し訳無さそうに伝えるとコロコロと笑う。
「そこまで時間は取らせないから安心して。もし遅くなりそうならこちらから伊藤さんのお家に連絡しますし車も用意させるから。」
至れり尽くせりとは正にこの事だ。私の家の電話番号も調べてあるのは結構怖いけどその点は目を瞑ろう…うん。
「それじゃあ行きましょうか!」
エレベーターの前まで移動する私達。そこで扉の種類とか色が違う事に気付く。
「雪さん扉の色が違うんですけど何か違うんで…いえ答えられないなら良いんですけど。」
途中で雪さんの笑顔(威嚇)を思い出して質問を取り下げる。
「うーん全ては話せないけど私達が乗るエレベーターは組織の人なら誰でも使用出来る普通のエレベーターで他は伊藤さんが乗ることが出来ないよって事しか言えないかな。」
なるほどそういう違いがあるのか。ここまでで分かった事は“組織”はかなり慎重に管理、運用がされているみたいだ。
私は〈地図〉で防犯カメラの位置を確認しながら考えを纏めた。
雪さんが腕時計で何か操作してる。エレベーター使わないの?私はエレベーターのボタンが付いてるだろう位置に視線を向けるとボタンが無いことに驚く。
(え?ボタンが無い。エレベーターのボタンの位置なんてどこも変わらないよね?)
ボタンを探す様子を雪さんに見られる。雪さんめっちゃ笑い堪えてる。
「ここボタンが無いからスマホかスマートウォッチで操作しないとエレベーター来ないんだよね。」
雪さんの左腕にスマートウォッチが巻かれてる。なるほどタッチ操作出来るタイプか。するとエレベーターの扉が開かれる。エレベーター内部にも防犯カメラが置いてある。内装は全面ディスプレイになっておりそこに文字が表示される。
[淡雪 ゲスト 計2名 未乗車 目的階 ーー]
雪さんがドヤ顔を私を見せる。本当に可愛いなこの人。最初に私が乗り後から雪さんが乗り込む。
[淡雪 ゲスト 計2名 乗車 目的階 非表示]
センサーか何かで私達の乗車に反応したのか扉が閉まりエレベーターが動き出す。エレベーター内部にもボタンが見えない。どこの階で降りるかは雪さんしか知らない。
暫く浮遊してるような落ちているような感覚を味わいながら内部を観察する。エレベーターが動き出すとディスプレイの壁は鏡のように私達を映すが波をイメージした演出が入ることで鏡では無い事が分かる。床面は時刻や天気、気温、湿度などが表示され、天井は様々な形のライトが表示され私達を照してる。
【マッピング】で現在どの階に居るかを確認しつつエレベーター全体を見る。
(天井に恐らく脱出用の出入り口があるな。天井もディスプレイだけど1枚の画面じゃなくて4枚ぐらいの画面を合わせた設計かな?)
必要な情報かは分からないがエレベーターに閉じ込められた時に使えそうだなと考える。
しかし残念ながらこれは間違いだ。映画の影響で簡単に脱出する事が出来ると思い込んでるが実際には外からロックがされていてどのエレベーターも開けられないようになってる事を美世は知らない。
美世がこの事実を知ったら暴君ディオニス王の話を聞いたメロスの如く激怒するだろう。夢を壊される事に怒らない人間など居ない。
エレベーターが目的の階で停止する。扉が開閉し私は雪さんに確認の為に振り返ると頷きここが目的の階で先に降りるように促す。
降りた先には再び防犯カメラが設置され私達を出迎えた。雪さんが先頭になりそのまま廊下を歩いていく。左右にドアがあり部屋の存在と人の存在を【マッピング】が教えてくれる。
雪さんが暗証番号のロックキーが付いてるドアの部屋で立ち止まりスマートウォッチで暗証番号を入力する。するとドアが開閉し再び雪さんに先に入るよう促された。
ドアの先には男性2名女性1名with防犯カメラが私達を迎えてくれたが、この人達も雪さんみたいにスーツを着ていてプレッシャーがある。…怖いなここ。
「淡雪。そちらが伊藤美世で間違いないか?」
髪を整髪料でバックに流しパリッとしたスーツ姿の洒落込んだ男性が口を開く。
「何カッコつけてんのよ“朧”。いつも雪って呼んでるくせに相手が女子高生だからって下し立てのスーツ着て来るの意識しすぎよ。」
凄まじい内部告発がされ男性の印象がガラリと変わる。
「…伊藤美世さん。ここで荷物を預からせて貰います。」
私は頷き大人しくバックパックを渡す。本当は嫌だったけど私が信用されるには指示に従うのが無難だ。
出鼻をくじかれた男性を慰めながら残りの2人が追従してその場から離れる。
「ゴメンね?あいつ私の同期で悪い奴じゃないから。」
悪い奴の雪さんが言うんだからそうなんだろう。朧さんは良い人。覚えた。
私は再びロックキーがされている部屋に連れられる。部屋は10畳位の広さで天井の四隅に防犯カメラが設置されて簡素な机とイスが2つ置かれていた。
「掛けて?」
素直な子で有名な美世ちゃんが座る。雪さんも対面に座る。
「じゃあ面談始めまーす!イエーイ!」
面談が始まった。イエーイ!
「雪さん相手だから落ち着いて話せそうです。」
「そう言ってくれると嬉しいわ。じゃあ早速で悪いんだけど“能力”見せてもらえる?」
笑顔で割ととんでもない事を聞いてくる雪さん。でも納得する所もある。能力の無い高校生のガキなんて雇えないだろう。
私はその場で周りを見回す。そしてそのまま立ち上がり部屋を歩く。その様子を笑顔を絶やさない雪さんが見続けてくるが、ここは敢えて無視する。
部屋の壁沿いに歩きながら上下交互に頭を動かし天井と床を観察する。
私は壁の前で立ち止まり雪さんに“能力”を見せる。
「この壁の先に私達をモニターしている人が4人居ます。モニターはカメラの数と同じ4つでそれぞれ一人ずつ担当しているように見えます。私から見て左から飲み物を置いてる人、携帯灰皿を置いてる人、書類を置いてる人、椅子に座らず立っている人が見えます。」
私が壁に指を指しながら雪さんに伝える。
「透視能力?ここの壁相当分厚く出来てる筈なんだけど。」
私は再び椅子に座る。
「透視とは違いますね。透視って目を開かないと見えないじゃないですか?良く知らないんですけど。私の場合もう見なくても分かります。私の発言を受けて書類を確認してる事も分かりますしタバコの火を消したのも分かります。」
私は分かりやすく目を瞑って雪さんに報告する。その報告を聞いた雪さんが動揺する。
「ありえない!制約があるでしょ?対処を見ないでどうやって視認するのよ!」
クエスチョンマークが頭に浮かぶ。何をそんなに驚いているのだろう。
「見てますよ?自分で名付けたんですけど私の能力【マッピング】は私を中心に半径5mを文字通り【マッピング】し頭の中に描きます。これが私の“能力”です。」
頭にトントンと指を当てて能力の説明をする。先生に比べたらショボい能力だけど人殺しには使える。この事を雪さんに上手くアピールしなきゃ。
「半径5m…いや5mの制約なら複数の人も一度に確認出来るのは不思議じゃない。まさか探知系の能力でこれほどの精度を出せるなら使い所が色々考えられる。」
雪さんが腕を組みボソボソと喋ってる。しかし気になる所がある。腕を組むことで雪さんの夢が強調されて違った、胸が強調されて目が吸い込まれる。いやそこじゃない。気になる所は私の能力はそんなカスみたいな能力ではないという所だ。私にもこの能力には愛着とプライドがある。訂正しなくては。
「あの勘違いしている所すみません。私の能力の射程が5mというだけで効果範囲は今まで【マッピング】した所全部です。今さっき乗ったエレベーターが一人を載せて動いてるのも分かりますし、今私が通った学校見ていますが部活動している生徒と職員室に教師が休日出勤している事も分かります。家に誰がどの部屋に居るかとかもリアルタイムに見れますし、雪さんが能力者だって事も分かります。能力は分かりませんが。」
長文過ぎて言ってからちょっと恥ずかしくなったけど取り敢えず言いたい事は言えた。後は気になる所があれば答えられる範囲で答えようと椅子にもたれ掛かる。
「まさか…そんな事ことがありえるの?この能力がもし本当なら今、私の目の前にいるのは非接触型探知系の能力者!?」
雪さんがイスから立ち上がり部屋から出る。その足でモニターの部屋に入る事も分かる。一人ぼっちはさみしいな。
「雪さーん!私どうしたら良いんですか?」
壁越しに雪さんを見て話す。そうすると雪さんと4人が慌ただしく動き出した。面白いかも。
雪さんがさっき言った非接触型探知系の能力者?が気になる。業界語っぽくてなんか良い。非接触型探知系能力者。漢字がずらーと並ぶのはカッコいい。昔は横文字が最強卍と思ってたからその時に【マッピング】と名付けた。シンプル・イズ・ベスト!
暫くしたら雪さんがこちらに向かって来たので目で追う。雪さんが入ると直ぐに私と目線が合うことにビクッとするがコホンと咳払いしながらイスに座り書類を置く。
「あーーえーっと…伊藤美世さん私達“組織”は貴方のような能力者を歓迎します。それでどの部署に配属されるかは上の人達が決めるので決まり次第連絡します。」
私は口をはさむ。
「あの私、先生と同じ部署の能力者を始末する部署が良いです。先生からもそこに所属してもらうと聞きました。」
雪さんの表情が固まる。うん?先生と組織の間に何かしらの話があったと思うんだけど。
「先生?死神の事?…確認しないと竜の逆鱗に触れるかもしれないし、いやこれは上の人達に投げるか。」
雪さんが下を向きながら再びボソボソと喋る。
「あのー?」
雪さんがガバっとキレイお顔を上げて私に質問を投げる。
「これは確認なんだけど本当に良いの?あなたまだ高校生なのよ?能力者の始末って事は人殺しをするという事なんだよ?」
これは…何かのギャグなのか?実際に人殺しを手伝わせられたし、その事について何も問題にされていないのに人殺しを斡旋する組織にあなたは高校生なんだから人殺しはいけませんと言われた。
もしかしたら人殺し業界冗談かもしれない。中々のブラックジョークだがそう考えると面白い気がする。気がするだけだけどね。私は愛想笑いで流すことにした。
「はは。」
雪さんがドン引きする。おい!テメーのつまらない冗談を笑ってやったのになに引いてんだ!!!
私は怒りを抑える為に無表情を徹底する。まだ面談中だしここで失礼な態度はいけない。頑張れ私!
「………………ではその方向で調整しますね。じゃあここを出て伊藤さんのサイズを測定しましょうか!」
たっぷりと溜めに溜めた雪さんが吹っ切れて良い笑顔で退室を促す。面談終わり?ねえねえ(姉姉)私受かった?
それに何か最後に重要な話してなかった?サイズ?私の?スリーサイズ?スリーサイズ!?
これから起こり得る災厄に私は…組織の本当の恐ろしさを知ることになる。
主人公に引かない人居ないでしょ。




