天狼からの提案
夜にまた投稿したいと思ってます。お楽しみに。
あいの風の姿を見て私は核心した。彼女は3つの能力を持っている!しかも私と同じ異形型電気系能力ッ!
“後継者”……その3文字が頭に浮かび上がる。彼女は私と同じ能力を持ち、しかも世界に一人しか居ない非接触型探知系能力……それに加え私でも特定が難しい能力が1つ。
(私を確実に超える才能を持つ若い能力者……天は彼女に二物も三物も与えたか。)
「あいの風…お前だよな?」
目の奥の青い光は消えている。左腕に顕著出ていたベルガー粒子の偏りも改善されているし立ち姿もいつものあいの風だ。
「私……どうなっています?急に意識がくっきりしてますし、それに身体が光ってる?これも天狼さんの能力ですか?」
なるほどあいの風は今の状態を理解していない。つまり異形能力は覚醒したばかりという訳か。
「いや、私はもう何もあいの風にはしていない。それは私と同じ能力が覚醒した影響だ。」
天狼さんと同じ能力?ていう事は私の異形は電気系能力だったのか…。
「それは……本当にびっくりです。」
蘇芳が私に天狼さんと手を組むように推したのはこれが理由だな……彼女と接触すればこの展開になる事を知っていた。全ては私に恩を感じさせる為に…。
(蘇芳ありがとう。)
ちゃんとありがとうが言える女、それが伊藤美世。
「もう大丈夫だよな?」
「ええ……ご迷惑をおかけしました。」
あいの風からあの異様な雰囲気は消えた……もう大丈夫と判断しても良いだろう。
「話は外でしよう。道場をこれ以上壊せないからな。」
そう言われて道場を見ると照明は壊れ壁には大きな穴が空き床は焦げた跡が点々と拡がっていた。……やりすぎたなこれ。
今回の模擬戦は有耶無耶な形で終了したけど、あれ以上は取り返しが付かない領域に踏み入っていたな……
「アレに何か心当たりはあるのか?」
道場の外に出た私は地面に座り天狼さんと二人きりで話す流れになった。
「……私も良く分かっていないんです。戦闘にのめり込むとちょっと凶暴になると言いますか…。」
「ちょっと?かなり凶暴だったぞ。確実に殺りに来ていた。」
うっ……そう言われると何も言い返せない。
「本当にご迷惑をお掛けしました…。」
「あの能力を使い始めてからだ。お前が豹変したのは。」
「あの能力?」
「ベルガー粒子を纏わせて強化する能力だ。」
先生の能力を使ってから豹変した?そういえば凶暴になる時はいつも先生の能力を使っていた……何か関係性があるのか?
「確かにあれを使う時はいつも……その、アレになる気がします。」
「もうアレは使うな。能力者本人のコントロールを奪う能力なんて聞いたことがない。まるで意志を持っているようで気味が悪いぞ。」
意志を持った能力……まさか先生が私に関与している?でも先生はそういう事をしているイメージが湧かない。先生はどっちかと言うと線引して干渉しすぎないように徹底してくれている。逆に言うと先生も干渉を拒んでいる姿勢だ。
「でもアレは強力な能力で仕事をする上で必要なんです。」
その言葉を聞いた天狼はほくそ笑む。その言葉を待ってましたと言わんばかりの笑顔だ。
「もうお前には異形能力があるじゃないか。しかも組織No.2と同じ電気系能力が。」
「あっ、そういえばそうでした。」
確かにあの能力は強力だ。相手にしたから分かる。様々な能力に対して耐性があってどんな能力者相手でも致命傷を負わせられる最強の異形能力。
まさか私の異形能力が電気系とは……。前に理華に言われた私の動きが速すぎるという指摘、天狼さんを見れば分かるけど攻撃速度が他の能力者を圧倒している。私が速く動けたのはそれが理由だったのか。
「これは私からの提案だ。私がお前に能力の使い方を教えてやる。だからアレはもう使うな。」
有無を言わさない言い方に加え私より高い身長で上から威圧してきた。私より強い能力者で怖い年上の女性から言われたら従わない理由が出てこない。
「こちらからお願いしたかったぐらいです!もうあの能力は使いません!」
死にそうになったら多分使うけどね。【再生】しか勝たん!という時とか特に。
「良し!それなら次は別の話をしよう。」
「別の話?」
正直もう帰りたい。今も全身バッキバキで痛みが酷いのに…。
「協力関係の話だ。私は前向きに考えている。さっきのはお前を煽るために言ったのだが…」
「分かってます。煽られ慣れてないのでティファール並に一気に沸騰しましたけど。」
確かにあれは速かったしチョロすぎた。精神面でも鍛えないといけないレベルの沸点の低さだったね。
「でだ、私は協力してもらう立場なのだがお前が私に求めるものは何だ?目的をちゃんと聞いていないからな。」
私の目的…最初はお母さんの仇を見つける為に天狼さんを利用しようと思っていたけど、今は別の目的を話さないといけない。
「天狼さんって死神と戦って勝てる見込みはありますか?」
天狼がフリーズした。
「…悪いもう一度言ってくれ。お前の口からは有り得ない言葉が聞こえた。」
「死神に勝てますか?」
「それは…私に死神を殺せと言っているのか?お前の目的がそれか?」
天狼さんがほんの少しだけ私から距離を取る。何を言っているんだ?って顔でそれは傷付く。
「いやそんな事頼みませんし私の目的とは全然違います。」
「なら何でそんな事を聞いた?」
「実は…」
私は先生の正体や能力に関わる事を省いてここ最近私の周りで起きた事と蘇芳の事を話した。
「…また厄介な立ち位置に居るなお前。」
「私もそう思います。でも蘇芳を放置する事が出来ない…私の勘が彼女を野放しにするなって言っているんです。」
天狼は人差し指を地面にタンッタンッと叩きながら熟考を始める。彼女の思考力なら何か思い付くかもしれない。
「…実際に彼女に会ってみないと分からない部分が多いが、話は分かった。死神とやり合いそうな時は私を呼ぶと良い。力になるから。」
天狼モン、GETだぜ!環境入りしている天狼モンを仲間に入れられたのはデカい!
「ありがとうございます天狼さん。」
「伊弉冉だ。それが私の名前、二人きりの時はそっちで呼んで。」
「イザナミ?確か日本の神話で出てくる…。」
「そう。親が気合入れて付けた変な名前。」
天狼さんの、イザナミの話し方と態度が変わった。こっちが素のイザナミさんだよね?
「天狼というコードネームは世襲制なの。家の家系でずっと繋いでるこの名前は本当に重い。この名を語ってる時はそれなりの態度を示さないとだから。」
「じゃあやっぱり今が素なの?」
天狼が後ろ髪を纏めていたヘアーゴムを外してポニーテールを崩した。長くて綺麗な黒髪がフワリと揺れる。
「父上と母上がうるさいから組織の人や子供たちの前ではキッチリやってるだけ。昔からそうだったからもう慣れちゃったけど。」
何だろう…今のイザナミさんは何か近所に住んでる姉ちゃんって感じで落ち着く。
「今のイザナミさん、お姉さんって感じで良いですね。」
「じゃあお前は私の妹か、良いねそれ。私には兄弟も姉妹も居ないからな。」
自然と笑いながら何でもない事を話し続けた。さっきまで命のやり取りをしていた仲なのに何故か口から言葉が止まらない。
イザナミさんも私の話を聞いて笑い色んな話を聞かせてくれて夜はどんどん深まり電気の無い暗い道場の夜に月夜だけが照らされる。
そこでふと思った。私達は電気を操れる事が出来る能力者なのに今の状況とのアンバランスさがとても面白いと。
その日の夜は私にとって、こういう夜が私の人生にもあっても良いだろうと思えるくらいにおかしくて変で、とても良い夜だった。
とりあえず美世と伊弉冉との話はここで終わります。次の話は蘇芳視点を入れた話にしたいと思います。
 




