最速の能力者
はてさて天狼の能力とは一体…?
個人的に考察しながら読む作品好きなんですよねー。もし良ければ色々とアレこれと考察しながら読んでくださると嬉しいです。…多分あと数話で判明しますけど。
「あいの風…あんなに強かったんだ。」
実力を隠しているとは思っていたけどあいついくらなんでと隠し過ぎだろっ!あの天狼さんが攻められているのを初めて目にした。今でも信じられない。
パワーだけで言ったらあいの風の方が天狼さんより上かもしれない。だけどスピードは…天狼さんの方が数段上だと思う。だけどまだ天狼さんは本気を出していないからその予想も合っているか分からない。
天狼さんはまだ能力を1回も使用していないし今の段階であいの風の優勢とは言えない。…ここからが正念場だよ。
(今の動きは不自然過ぎた…。)
攻撃を食らって初めて分かるものもある。あれは筋力から生まれるパワーではない。例え異形能力だったとしてもあの体格からは絶対に出せない。そもそも彼女の身体が耐えられないだろう。
では、どうやってあのパワーを生んでいるか。頭の中に今まで処理してきた対象の能力の中でいくつか候補を上げてみたがどれも違うように感じる。
サイコキネシスなんかはさっきのあいの風みたいな動きは生み出せるかもしれないが、彼女のベルガー粒子の動きを見ていてもサイコキネシスとは違うように思えた。
だったら別の候補の能力かと考えたが、もしかしたら今まで一度も見たこと無い未知の能力なのかもしれない。私だって全ての能力と相対した訳ではない。なら報告されている能力の中に彼女と似た事象を起こせる能力があったか?
…否だ。飛行能力を持つ能力でもあのベクトル変化は難しいだろう。あいつは減速せずに方向転換をした。
いや、待て…普通だったらあの動きは相当なGがかかる筈だ。異形能力者なら耐えられるかもしれないが彼女は…。
まさか異形能力者か?しかしそれだとあの方向転換が説明出来ない。それともベクトルを変えられる異形能力があるのか?
「次行きますよ。」
考える暇を与えるつもりは無いらしい。あいの風は急加速からの手刀で横薙ぎを放ってきた。私はバックステップで避けて切り返しにジャブを放つ。
私のリーチなら間違いなく当たる距離だったが空振りに終わる。彼女が後ろから思い切り引っ張られたような挙動で後退したからだ。
面白い能力だ。間合いが意味を成さない。
(ならこれはどうだ?)
すかさず距離を詰めて横蹴りを放つ。腕よりリーチの長い足技に対してどう反応する?
あいの風は更に後ろに後退して攻撃を避けたがこの攻撃は当てることが目的ではない。彼女の足運びを見たかった。
その結果あいの風は利き足の左足でステップを踏んだだけで急激な後退を行なっていた。この速さにその動作だけでは不十分…間違いなく能力を使用している。
位置関係を操作しているのか?それとも単純に慣性や力を増幅させている?まだ分からない…もう少し見たい。
今度はあいの風の方から攻めてきた。後退し過ぎて後ろに壁を背負った状態では戦い難いからな。左右に逃げるのでは無く前進して活路を開くタイプかあいの風は。
(受けて立とう…!)
そこからは激しい打ち合いだった。お互い一歩も引く気も無い打ち合いはあいの風が優勢で天狼は攻撃を避けなければならない状況の中カウンターを狙った戦法を取っていた。
あいの風の攻撃は逸らす事も受け止める事も出来ないと判断した天狼はその身長の高さを感じさせない程に素早く動いて全ての攻撃を躱し続ける。
そして回避の合間に打撃をあいの風に与えるが天狼の攻撃があいの風にヒットしても手応えが感じられない。正拳突き、掌底、裏拳、様々な攻撃を与えてもノーモーションで攻撃を放ってくる。
(あいの風が硬すぎるッ!皮膚の感触がするのにまるで鋼鉄を殴っているみたいだッ!)
あいの風は全身の軌道を固定し攻撃と防御を同時に行なっていた。正に攻防一体、この能力を行使している間、殴り合いだけに関して言えばあいの風は世界でも五本指に入るだろう。
(なら…もう少し上げるか。)
天狼が今日初めて能力を行使した。
その結果肉眼で捉えられる速度を超えてあいの風は天狼を見失った。しかしあいの風には探知能力がある。
【探求】を使って天狼の位置を認識する事が出来たがすでに間合いの外でしかも背後を取られていた。
(この速さ…私より速い。)
軌道を固定した自分の動きより素早く動かれては攻撃を与えられない。
(反応して動くより相手の動きを先読みして動かないと勝負にもならなそう…。)
私は静かに振り返って天狼を視認した。不敵な笑みを携えた彼女の足元には焦げたような黒い跡が残っており白い煙が立っている。
「…加速装置付いてます?」
「お前私より年下だよな?…いや、そんな事はどうでもいい。お前のその硬さ、それも能力か?」
天狼もあの作品を知っているのか…。中々に通だな。
「身持ちの硬さが表面に出てるんですよ。」
あいの風らしい回答だった。答えるつもりは無いらしい。なら試してみるか。
「少し…本気を出す。本気で防御しろ。」
天狼の居る辺りが光ったと思った瞬間、私は道場の外まで突き飛ばされていた。私の身体は道場の壁に激突しても勢いが止まらず壁を破壊してそのまま外に吹き飛び、土の上を転がっていく。
道場の外は塀に囲まれており道場と塀の間には8m程度の間が空いている。その間には押し固められた土の地面が広がっていて私はそこを無様に転がり仰向けで倒れた。
「…いったァ、ゴホッゴホッ…ハァ…ハァ…。」
今の天狼の動き…気付いたら目と鼻の先まで距離を詰められていた。肉眼での視認なんて出来ない。弾丸の速さすら認識出来る私の【探求】でもやっと彼女の動きを認識する事が出来た。だけど出来ただけで私のスピードを大きく超えた速度で攻撃されたから避ける事も防ぐ事も出来なかった。
【反復】で私の身体を完全に空間に固定する事も出来たけどあの攻撃の衝撃までは防げない。だから敢えて空間に身体を固定しないで身体の表面だけを固定した。でなければあの衝撃をまともに食らって最悪死んでいただろう。実際、私の身体は道場の壁を突き破って外に投げ出された。それ程までにあの攻撃の衝撃は凄まじかった。
さっき私が行なった攻撃では壁にめり込ませるぐらいがやっとだったけど天狼の攻撃は私を遥かに凌ぐ威力でしかもスピードも上。
それに私の能力の認識が正しければ天狼は私の身体を押し出しただけだった。
殴りかかったのではない。手の平を私の方に向けて軽く押し出しただけだった。天狼は私の身体の硬さを考慮して打撃ではなく突き飛ばした衝撃で私にダメージを与えようとしたのだ。
そしてそれは正解の攻め方であり私はかなりのダメージを負った。切り傷や木片が突き刺さるような外傷は負わなかったが、凄まじい衝撃で身体の内部が悲鳴を上げている。特に酷いのが内蔵がひっくり返ったような鈍痛のせいで立ち上がる事が出来ない。
しかも私の背面全体にも激痛が走っている。かなりの範囲を内出血で腫れ上がっているのか、身体中の皮膚が突っ張っているようで上手く首も動かす事も出来ない。
先生の能力で防御してもこのダメージ…!舐めてかかった訳でも甘く見積もった訳でも無いのに完全にやられた。
今更ながら軌道を操作した身体能力強化の訓練の意味を理解した。強化した状態でも肉弾戦で敗北するとは…強化無しなら間違いなく死んでいた。
ありがとう先生。先生の教えは間違っていなかったです…ですけどもうちょっと異形能力者に対しての対策を教えてほしかったなと思います。
毎日投稿偉いぞ(自画自賛)




