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私は殺し屋として世界に寄与する  作者: アナログラビット
3.サイコパスの青春
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コソ練

コソ練ってプライド高い人ほどやりますよね。美世はその点、コソ練しそうでしなさそうでするタイプ。

地下室に奇妙な音が鳴り響く。


ビシッ  ビシッ   ビシッ


何かが高速で撃ち出される音…それが夜の地下室で鳴り響き続けていた。


「…これじゃ駄目だ。」


ここは組織が所有するとある建物の地下室。能力者が己の能力を練習する為に開放されている施設の1つで頑丈で防音、あるのは明かりと空調設備のみ。そんなコンクリートで囲まれた広い空間で伊藤美世は自己鍛錬に打ち込んでいた。


(これぐらいじゃ無能力者ぐらいにしか効果がない。)


美世の左手の中には小石が握られておりそれを親指で弾く指弾という技を練習していた。


彼女の能力の性質上、近距離中距離長距離共に対応する事が可能なので本来はこんな技術を身に付ける必要性はない。だがそれは死神から借り受けた能力あってのもの。これから先、死神とやり合う事を考えれば自身の能力だけでどうにかしなければならない状況が出てくる。


その為に自身の肉体で射程距離を伸ばす努力をしていたがあまり良い結果は生まれていなかった。


美世の身体能力で指弾を撃つとコンクリートに擦れた白い跡が付くぐらいで殺傷力は無い。牽制や戦いのちょっとしたアクセントには使えるが死神相手にはあまりに頼りない。


(わざわざこの場所を借りたのにこれじゃあ駄目だ。)


先生にマッピングされていない場所で訓練を行う為に色々とソプリを使って見つけたのは良いけどやっている事が児戯に等しい。


「これなら実戦でも使えるのに…。」


左手に怪腕を再現する。怪腕の手は私の手より遥かに大きく体積で言うと約3倍ぐらいある。その怪腕を左手首から先だけ再現し私の左手に重なるようにして小石を掴む。怪腕自体は軌道なので私の左手に干渉はしない。ただ事象を、因果を確定させるだけの能力だから。


怪腕を指弾の構えに操作し小石を撃ち出した。小石がコンクリートの壁に激突し、コンクリートの壁と小石が破壊される。壁には人差し指の第一関節が埋まるぐらいの穴が生まれてその威力の高さとこちらのリスクの無さが伺えた。


「まあ…これじゃなくて良いんだけどさ。」


怪腕を銃に構築し直して引き金を引いた。壁には拳が埋まるほどの大穴が空いて辺りにコンクリートの欠片が散らばっていく。


「とてもじゃないけど、これじゃあ先生とは戦えないな。」


今やった事は先生だって出来る。そしてパスを切られれば私は出来なくなる。先生と戦う事はそういう事だ。私は先生の能力が無ければそこそこの戦闘力を持った能力者に過ぎない。この問題を解決するにはやはり私のもう一つの能力、異形能力をどうにかするしかない。


もう…自分一人ではどうしようもない。本当は一人でどうにかしたかった。私にだってプライドがある。でもそのプライドは先生の能力を上手く使用する事が出来たから生まれたもの。今の私は先生の能力を上手く扱えるから強いのであって私由来の能力は現状そこまで強くない。


だから異形能力を早く使いこなせる様になりたい。なんの系統の能力かも分からない現状は私にとっても結構ストレスになっているし早くしないと蘇芳の存在に先生が気付いてしまう。


これは私の憶測でしか無いけど先生は蘇芳の事はまだそこまでマークをしていない。私を蘇芳に紹介した時点でその事を伺える。だって危険だと思っている能力者に私を紹介する訳がない。でも先生は蘇芳の能力を知っていた。でも放置しているのは彼女が誰にも情報を渡していないから…だと思う。


先生は平穏な世界を創り出す為に蘇芳は障害にならないと考えているのだろう。それが先生の判定基準。例え脅威と感じても平穏な世界に邪魔にならなければ先生は動かない。


蘇芳はその事を知っていると仮定してのらりくらりと躱して活動している…と思う。でもそう遠くない未来に蘇芳は先生の判定に引っ掛かる。その理由は分からない。蘇芳が動きすぎて先生にバレたか、完全に先生と敵対したかのどっちかだろう。


やっぱりあの人に教えを乞うしかない…なら行くか。


ーーー京都に…。


「てな訳で稽古、お願いします。」


「天狼さん、今日は居ないわよ。」


道着を着た理華が道場で稽古をしていた。彼女が居たのは分かっていたので来たけど天狼さんは居ないのか…。


「え〜…じゃあ理華で良いや。」


「突然来てその言い草は何なの?なんならこの前の続きやる?」


怒りマークが浮かび上がる程に怒り心頭の理華が挑発して来たけど理華とやり合っても肉弾戦しか…


「理華って能力何なの?」


「え?急に何?」


「いや、理華の能力が気になって。」


「わ、私が気になるのっ!?」


急に挙動不審になる理華、もしかして能力の事を聞かれて警戒した?


「ご、ごめん。話したくなかったら話さなくて良いよ。あまり人に話すものじゃないし…」


「いや良いよ!話す話す!」


(あいの風が私に興味を持ってくれた!やったーっ!)


「え、良いの?ありがとう。」


笑顔で言っているし別に隠していなかったのかな?ていうか理華ってこんな奴だったっけ?初対面の時はすっごいキツかったけどな…。


「私の能力は光学型なの。」


「光学?光だよね?」


「そう。」


理華がベルガー粒子を操作して手の中に光の粒を生成した。


「うわぁ…綺麗。」


純粋な光と言っていいのか。電球のような光源から発せられる光ではなく宝石の中に煌めく光を抽出したようなきらびやかな光だ。


「綺麗なだけじゃない。見てて。」


理華の手の中にある光が屈折して光の色が変わっていく。そして光が空気に溶け込むように消えたと思ったら理華の手も消えた。手首から先が視認出来ない。


「これって…光学迷彩?」


「そう。この能力を使えば全身を透明にして相手に奇襲出来たりするけど美世には通じないかな。」


確かに肉眼で視認は出来ないけど【探求(リサーチ)】では彼女の手を認識出来ている。


「まあ私の能力がそういう事に特化しているしね。…その代わり直接的な戦闘力が無いけど。」


「でもあいの風は強いじゃない。あれだけ動けるのなら…」


「あれじゃあ勝てない。そんな相手だってこの世には居るの。」


理華がポカンとした表情をする。私はここ最近の自分の能力に対して自信を無くしている。それが言葉として出てしまって理華の言葉を遮ってキツく当たってしまった。


「…ゴメン、ちょっと嫌な奴だった。見せてくれてありがとう。今日は帰るね。」


このままだと関係の無い理華に対して当たってしまうと思った私は道場を後にしようとした。だけどそれを理華が制止した。


「待って。あんたのそんな弱々しい姿、見たくない。中央に来て。」


「え?」


振り返ると理華が道場の中央まで向かって歩き続けている。…ついて行くしかないか。


「あんたが勝てないって言うぐらいのその相手、死神ぐらいしか思いつかないけどそうなの?」


ピンポイントでその名前が出てくるのか…理華にとって私を高めに捉えているな。そんな事無いのに。


「私より強い奴なんて結構居るよ。それに私が先生に勝とうと思うのは間違っているし…。」


「教え子が先生を超えようとするのって何か問題あるの?」


「え?」


顔を上げて理華の顔を見たら真っ直ぐこちらを見抜いていた。


「私はいつもチャレンジャーとして稽古している。いつも挑む側の精神でね。いつか私は天狼さんを超えるつもりでいる。」


あの天狼さんにか…それは凄い目標だ。


「挫折なんてしょっちゅう。才能の違いを見せつけられるのも経験した。この前の戦いで私のプライドは真っ二つに折れた。でも私は稽古を止めない。」


「…強いね理華は。」


「あいの風って負けた事無いでしょ?特に完膚なきまでにはさ。…今のあんたは心が負けてしまっている。」


確かに彼女の言う通りだ。負けを認めてしまっているのかもしれない。自信も無くただこの先の展開を読んで、もう負けたと思っている。


「私があいの風に教えてあげられるのは負けからの這い上がり方。あいの風、()()()()()()()。負けてから本番。そこからどう成長していくかが問題。」


負けてから…負けてから本番か。


気がついたら握り拳を作っていた事に気が付いた。どうやら彼女の励ましに反応してしまったらしい。


「だからあいの風は私に勝ち方を教えて。この前の戦いみたいに美世が勝つためにした事を私に教えてよ。」


負け方を知っている彼女と勝ち方を知っている私か。


…面白い。彼女の口車に乗るのも悪くない!


「ありがとう。ちょっと元気出た。」


「ふん。あんたはそんな顔がお似合いよ。」


理華に言われて私の顔を認識したら口角を上げて笑っていた。数ヶ月前まで笑う事なんて滅多に無かったのに、今じゃ笑っている方が良いとまで言われる。


「うっせ。私、厳しいから覚悟しておいて。」

昼間暑すぎて最近寝てます。だから執筆出来るのが早朝と夜しか取れていないです…。明日明後日曇りませんかね。

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