一人目の勧誘
平和回終了のお知らせ。蘇芳が全て悪い。
雪さんと待ち合わせる際に大体いつも待ち合わせ場所に使っている渋谷駅に到着した私は真っ直ぐに雪さんの元へと向かった。
「雪さーん!」
ブンブンッと手を振って雪さんにここだよとアピールする。私は【探求】で雪さんの居場所がすぐに分かるから大体私が雪さんを見つける係になっている。
「美世ちゃーん!」
雪さんが女性特有の両手を前に置いてブンブンッと振るやつをしてきたので私も真似してみたけど、慣れない動作のせいで気持ち悪い動きになってしまった。その姿はさながらキョンシー。
「美世ちゃん絶望的に女子が出来ないね。」
「知ってますよ。誘ってくれてありが…」
「美世ちゃん髪染めた!?え〜〜は〜〜!?似合い過ぎかよ…馬鹿が。」
いきなり雪さんが凄い早口で捲し立ててきたし何故かキレ出したし意味が分からない。
そんな気持ちが表に出たのか私の反応を見た雪さんの表情が固まった。
「あ、ちが、違うのよ…あまりに美世ちゃんが尊くてキレちゃった。」
「え、怖…。」
雪さんもしかしてだけど私寄りの変人?私と同類の残念枠?
「ごめんさっきのは忘れて。それに急に染めた美世ちゃんにも否がある。」
あ、はい。そうなんですね。
「ごめんなさい…。」
「謝らないで!」
どっち!?今日の雪さんは情緒不安定だ。…ちょっと騒ぎ過ぎたかな。そろそろ離れよう。
渋谷駅の切符売り場でイチャイチャしだした私達を遠巻きで眺める男性陣の存在に気付いた私はそれとなく雪さんを連れてショッピングモールに向かった。
この二人で一緒に居ると良く声を掛けられるので私が雪さんを誘導して声を掛けてきそうな相手を避けて目的地に導く役割を担っている。
(雪さん…私と出掛けているときに声を掛けてきた男性を殴りかかろうとするから私がちゃんとしていないと。)
雪さんの暴走を止めるのも後輩たる私の役割だった。
「うん、ここで食べていこうか。」
私と雪さんが入ったお店はチーズをふんだんに使用した料理が出てくる料理屋。中々の繁盛具合だ。外からでもチーズの香ばしい香りがしてくるよ。
「雪さん結構お店知ってますよね。私こういうお店入ったことないので楽しみです。」
「一度美世ちゃんと来たくてね。ここの料理は何でも美味しいよ♪」
(本当は私も初めて来たけどね。)
昨日から美世ちゃんをご飯に誘うとお店を調べに調べ尽くしてここに行き着いた。前に美世ちゃんがチーズがいっぱい使われたピザを美味しそうに食べていたから絶対にこのお店を気に入ると思って誘ってみたけど、この反応を見ると正解みたい。
そんな淡雪の配慮に気付かずにメニューを開いて何を食べようかと目を輝かしている美世を、目を輝かしている淡雪がガン見するという奇妙な構図が生まれていた。
「う〜ん…食べたい物があり過ぎる…。」
「だったらシェアしようよ。」
「いいですね!是非そうしましょう!」
ああ〜年下の美少女とランチすんのたまんない〜♡私って前世どんだけ徳積んできたの〜!もしかして前世はキリスト!?
「じゃあ…私はこれを注文しますね。」
「私はこれかな。店員さん呼ぼうか。」
人の話し声がこだまする店内では私達のような女性二人組や学生、社会人、カップルなど色々な人達が自分達の世界に夢中になっている。ここなら話していても誰も気にしないだろう。
…このタイミングしか無い。雪さんと腹を割って話すには。自分にとっても突然のタイミングだったから何も用意していないけど少しでも万全を期さなければ…
「じゃあ…これとこれを、後ドリンクは一緒で。…はい以上で。」
「雪さん、真面目な話をしても良いですか?」
「え、何なに愛の告白?」
…じゃないっぽいね。美世ちゃんの雰囲気が変わった。こんな美世ちゃん見たことが無いけど多分、仕事をする時の顔だ。
「本当に突然で申し訳ないんですけど、割と本気で答えてほしいんです…良いですか?」
こんな真剣な顔で言われたら断れないよ。
「うん。真面目に聞くよ。」
「じゃあ、その前に…」
私と雪さんのソマホをカバンの中にしまって荷物カゴの入れた。もちろん電源を落としてだ。盗聴されている可能性を考慮すればこのぐらいは必要な措置。
「“組織”絡み?」
「まあ…そんな所です。…雪さんって組織の犬ですか?」
何となくだけど美世ちゃんが言いたい内容が分かってきた。この質問は踏み絵だ。多分答え次第ではこの話はすぐに終わってランチを食べて解散になる。そして美世ちゃんは決して私に心の内を見せなくなる。
(そんなのは嫌っ!)
「違うよ。忠誠心なんて無いし私は私の出来る事をし続けているだけ。」
この構図に憶えがある。初めて会ったあの日、面接を行なった時の構図そのものだ。違うのは面接官が今回は美世ちゃんという事。
「私と組織、どっちを優先しますか?」
「美世ちゃん。」
即答…!雪さんのこの迷わない感じが凄く好き。最初からそうだったけどこのブレなさがたまらない。
「命を狙われるかもしれません。」
「それでも私は美世ちゃんの隣に居るよ。守ってくれるでしょ?」
もう私では美世ちゃんには勝てないだろう。こうやって見合っているだけで分かる。この凄みは今まで感じたことの無い領域…そしてそんな彼女が私に助けを求めている。だったら私に出来る事をするだけだ。
「絶対に守ります。死なせません。」
「それなら問題無し!ほら、ちゃんと話して。私は美世ちゃんの味方だから。」
雪さんの言葉に感極まって涙が零れそうになるのを何とか止める。まだ話は終わっていないのだから。
「ありがとうございます雪さん…。今、私の置かれている状況を話します。」
私は賭けに出た。蘇芳とやり合う為には一人では立ち向かえないと判断し他人を巻き込む最低の方法を選んで。
「先ずは、この世界…現実世界でラスボスが居たらどんな存在だと思います。」
「え?えっと…そうね。…んーー死神?」
美世ちゃんの質問の意図を図りそこねて私が一番怖いと感じる存在の名前を出してしまったけど、美世ちゃんが死神に対して好意的なのを失念してしまった。どうしよう…。
「なるほど…私は会いましたよ。それで分かりました。何でも知っている奴がこの世界のラスボスになれると。」
何でも知っている…?美世ちゃんは何を見てきたのだろう。
「この世界は情報社会です。情報を制した奴が世界を制します。」
「つまり…美世ちゃんの言うラスボスって何をしたの?」
「んー…インサイダー取引?」
「それは…駄目だねっ。」
雪さんが困ったように笑ったけど私の言った内容が悪かった。いや、確かに違法で悪いことなんだけど前置きの割にショボかった。
「ゴメン…私の言いたい事はそういう事じゃなくて、死神が脅威と感じている能力者がそいつって話です。」
「それは…!…非常にマズいわね。」
死神を一番怖いと感じている雪さんにこの説明の効果は絶大だった。
「ねえ、この話ってこんな所で話しても大丈夫なの?」
雪さんが小声で私に耳打ちするように聞いてきたけど大丈夫ですよ。
「雪さんにはちゃんと今の私の能力を話した事無かったですよね。この店内に居る人間の挙動や視線、ちょっとした動きを全てモニターできているので問題無いです。誰も私達の話は聞いていません。」
盗聴器やカメラも探ったけどそんなもは無かったしこの中に能力者も居ない。
「…美世ちゃん。その能力は便利すぎるね。」
雪さんが軽くドン引きして辺りを見回してから私の方を向いてそう言い放った。
この連休中のどこかで1日2話投稿の日を作りたいと思います。毎日投稿というセルフ地獄のおかげで執筆速度が上がって1日丸々使えるのなら2話ぐらい書けるようになったので。お楽しみに。




