幼馴染み 前編
美世の周りの人間をどんどん出していこうと思います。
この時期の休日の朝はクーラーが聞いた部屋の中で二度寝しているのが一番楽しい。別に楽しい事をしている訳では無いけど幸せを実感出来るから楽しい。今こうしている間にも働いたり部活に行っている人が居ると考えているだけでめっちゃ楽しい。二度寝最高is最高。
「ラブアンドピース〜…。」
惰性とベッドインをしていると何故かスマホから通知音が鳴って震え出す。ん?休日はアラーム機能していないの何で私のスマホは動いているの?所有者に歯向かう気か?
「今のは…ライン通知音だったよね。」
もしマリナ様関係で無視したら月曜の朝から審問会を開かれてしまう。むぅ…仕方ない確認だけしておこう。
スマホを手元に何とか引っ張ってきて通知を確認する。…これは出掛けないと。
ベットから起き上がって前髪を確認する。うーん…伸びてるな。暫く行ってなかったし向こうから催促されるとは。
身支度をキチンと整えてから家を出たらクソ暑い陽射しに出鼻をくじかれたけど、私は軽やかな足取りで目的地に向かっていった。
「澪さーん。お邪魔しまーす。」
「ああ来たか、奥の椅子に座ってて。…コーヒーで良いよね。」
「砂糖とミルクたっぷりでお願い!」
私は小さい頃からの知り合いのお店にお邪魔していた。店内はステッカーや絵画がそこら中に敷き詰められたアメリカスタイルの内装で、ハサミや櫛が並べられた作業台が椅子の近くに置かれている。そう、今日はヘアーカットしに来たのだ。
「少し見ない間に色っぽくなったじゃん。はいコーヒー。」
「そうですかね?成長期なので。」
「モテるっしょ。特に年上から好かれそう〜、もう告白された?付き合ってる?」
「告白されたけどキモすぎて殴っちゃった。」
「アハハハハ!どんだけキモかったんだよ!」
こうやって私が素を出して話せる数少ない知り合いの澪さん。お母さんと先輩後輩の関係で私がお母さんのお腹の中に居た時からの知り合い。昔から髪を切るときはここで切ってもらっている。ていうかここ以外は無理。ここでは素の自分で居られる数少ない場所。いつもは人の居ない開店前に切ってもらっているから非常に助かっている。
「澪さん、またタトュー増やした?」
「あ、分かる?暑いし露出する場所を彫ったんだよね。」
澪さんの見た目はかなりパンク系で全身にタトューやらピアスを付けてかなり怖い見た目をしている。首周りなんて真っ黒だ。ど偏見だけどライブハウスに働いているスタッフで一人は居るタイプ。
髪型も女性だけど刈り上げててツーブロックにしていたりとかなり攻めっ気のあるスタイル。だからここの客層もちょっとヤンチャな人達が多い。私は絶対に場違いだからお母さんと髪を切りに来る時も開店前に来ていた。
「似合ってますよ。」
「ありがとう。でも子供達には不評なのよね〜。」
「でしょうね。」
こんな見た目でも2児の母である澪さんは色んな意味で凄い。結婚はしていないし子供達の父親は両方違うし相手も良く分からないと言う。長男はウォッカで酔い潰れて出来たから父親はウォッカだと言っているし、長女はマティーニで酔い潰れた時に出来ていたからマティーニが父親。それを聞いたあの子達の表情を今でも忘れられない。
いやーそう思うと本当に凄い人だ。それでもちゃんと二人を育ててるし、そんな澪さんだから色んな人がこのヘアーサロンに訪れる。わざわざ関西や東北からもお客さんが来たりするらしい。それぐらい澪さんは有名な人であり私の尊敬のする女性だ。
下ネタ系はこの人に教わったと言って間違いない。本当に下品で貞操観念をどこかに捨てて来てしまった女性。それがファンキーマザーである澪さんなのだ。
「あ!美世ピアス開けてるじゃん!言えよ〜やってやったのに〜。何なら今から開けるか?」
「何でそうみんなは私の耳に穴を開けたがるんですか。」
「その口ぶりだと誰かに開けてもらったの?誰々?」
「バイト先の先輩達に無理やり開けられもらったよ。」
「どっちよ。それに言葉通りに受け取れないんだけど大丈夫なの?」
「まあ合意の上だったから大丈夫だよ。」
水の入った霧吹きで髪を濡らしながら会話を続けていたら奥から中学生ぐらいの男の子が出てきた。久し振りに見たけどすごく大きくなったように感じるよ。
「母さん!俺の部屋にああいう本置かないでよ!」
「えーー、年頃の息子の為に用意してあげたのに〜使わないの?」
「使わないよ!」
「何かいつもって感じで安らぐなぁ…。」
前に来た時は机の上にAVが置かれて怒ってたっけ。
「あ、お客さん?…って美世さんっ!?」
私の存在に気が付いた男の子の顔がみるみると真っ赤に染まって挙動不審な動きをし始める。
「お邪魔してまーす。香桜くん。」
この男の子は澪さんの息子の香桜くん。ウォッカの文字を並び変えた名前を付けられた可哀想な男の子。小さい頃は良くここに泊まったりして香桜君たち兄妹と一晩中遊んでいたりしてた。つまり幼馴染みたいな関係だ。
「か、母さん言ってよ!美世さんが来るの!」
「言わない方が面白いかな〜って。」
「もういいよ!」
香桜くんはそう言い放って奥の方に引っ込んでしまった。このヘアーサロンの奥というか2階が家になっていて澪さんの家族はそこで住んでいる。
「思春期かね〜。」
「思春期ですね。」
「あいつ美世の事が大好きだからさ。カッコつけたいんだよ。」
う〜んやっぱり小さい頃から知っているからだろうか。特にドキドキ感も不快感も無い。昔は一緒にお風呂入った事あったし恥ずかしがる事も無いと思うんだけど。
「香桜くん背伸びましたね。中3ですかね?」
「そうだよ〜。今年受験。美世と同じ高校行きたいんだって。」
「本当に何も特徴の無い高校だからちゃんと進路考えさせた方が良いですよ。」
「あの子も報われないね〜。」
別に無自覚鈍感主人公じゃないから香桜くんの私に対する気持ちは分かっている。だけど私なんかと付き合わせたら香桜くんが可哀想だ。そこそこカッコいいしもっとちゃんとした女の子と恋愛してほしい。
「舞帝虹ちゃんは?」
「部活の朝練〜。もう少ししたら帰ってくるんじゃない?」
「そっかー。会いたかったけど無理そうかな…。」
「連絡入れておこうか?多分美世に会いたくてすぐに帰ってくるよ。」
「あーそれならお願いしようかな。」
その後、ヘアーカットをして貰いながらお互いのここ最近の話などをした。バイトの事とか最近ファッションを気にし始めた事とか色々ね。
「あの素材を生かさないバカ娘がやっと色気付きやがって。…好きな人が出来たの?」
「気になる人なら。でも向こうは私の事を恋愛目線では見てくれないから独り相撲みたいな感じ。」
「うわ〜美世から恋愛の話を聞く日が来るなんて長生きするもんじゃないな〜。」
「何でよ澪さん!」
「息子の恋路を応援していたからね〜。こんな親でも報われない恋なんてさせたくないからな。」
「昔は澪さんと家族になれるならそれも良いかなーって考えていたけど香桜くんに失礼すぎるから。だから告白されても私は振りますからね。」
「部屋にAVでも置いて一人で慰めさせるよ。」
なんて酷い親だ。少年の心はガラスのようにひび割れてしまうだろう。
「澪さんと違ってデリケートなんだから優しくしてあげてくださいよ。澪さんみたいになったらどうするんですか」
「あの子は多分父親似で根が真面目だから大丈夫だよ。父親知らんけど。」
本当に酷い親だ。お母さんと先輩後輩の関係だったらしいけどそれだけで家族ぐるみの付き合いになるだろうか。昔から当たり前過ぎて疑問に思わなかったけど今思うと謎だ。お母さんとキャラが違い過ぎる。どんな接点があったんだろう。
「澪さんとお母さんって先輩後輩だったんですよね?」
ジョキッ…何故か髪を切ったその音が店内で良く響いて一瞬だけ澪さんの手が止まった。
「あ〜高校が一緒でね。良く世話になったり世話焼いたりしていたよ。」
そう答えた澪さんの表情は険しかった。鏡に映らない位置でカットをしているけど私の能力なら顔色も伺える。
「へーそうだったんだ。高校のお母さんはどうでした?」
私の一言で澪さんの表情の険しさが増した。
「…ん〜…美世さあ。」
「はい?」
「髪染めてみない?」
「はい?」
伏線ばかり張っているこの物語ですが最後辺りで全部回収出来るの手筈なのでご心配なく。でも風呂敷を広げ過ぎて誰も覚えていないよねみたいな事にならないように章が終わったタイミングでキャラや設定のまとめを一話で入れようと思います。




