プロローグ
マザコンメンヘラポジティブシンキングヤンデレ地雷ポップガールの地雷原の話です。対戦よろしくお願いします。
大好きなお母さんとご飯を食べる。その言葉の響きだけで幸せな気分だ。心が満たされた私は目をつむる。でないとこの時間を楽しめない。今はこの時間に身を委ねれば良い。
右手で茶碗を持って左手で箸を持つ。そうするとお母さんに箸の持ち方を叱られる。お母さんが右手で箸の持ち方を教えてくれるが私は左手で持つからわからないよーとおどけた。
お母さんが右手から左手に箸を持ち変えてまた私に教えようとするが、慣れない左手で持った為に上手く箸を使うことが出来ず私よりひどい有様だった。
それを見たわたしはまたわからないよーと笑い、お母さんもわからないねーと笑い食事を始める。いつもの光景。わたしたちの日常。
ご飯を口に入れる、幸せ味が口に広がる。今度は目玉焼きを口に、これも幸せ味。次は嫌いな野菜のサラダ…残すとお母さんがうるさい。
お母さんの視線がわたしの箸先に注がれる。嫌だけど口に運ぶしかない。口に入れて噛んでみると幸せな食感がする。最後に味噌汁…おかあさんの味だ。懐かしさのあまり持った茶碗が震える。
優しくて大好きな私だけのお母さん。お母さんにありがとうと言いたい。…言いたい?何だろうこの感情は、何に対してありがとうと言うのか。いつもの光景いつもの食事。ありがとうではなくごちそうさまが相応しいのでは無いだろうか。
見なければならない事実から目を逸らしてお母さんとの食事を楽しむ。…違う、これも要らない感情に考え方だ。
楽しむ必要はない。なにしろこれが普通なのだから。特別な時間じゃない。明日も明後日も続く日常だ。お母さんが私に笑いかけ私の名前を呼ぶ。
「美世、泣いてるの?」
溢れる涙が私の視界を歪める。ダメだ、これは夢だと認めてしまう。
必死に否定しようとするが、ありえない事だという事は自分が一番分かってる。
私だから、私の能力がお母さんがいないことを教えるから、…こんな能力要らない。
お願いです。いい子になります。お箸もちゃんと持てるようになります。だから、この夢を終わらせないで…
「まことーそろそろおきなさいよー」
私の意識が覚醒する。階段の下からあの人の声が聞こえる。カーテンから漏れる朝日とスマホから表示される時刻が私に現実を突き付けた。いつもの夢、いつもの朝、いつもの日常。目に違和感を感じ手で触る。涙の後、布団に顔を埋めて全身に力を入れる。
どれくらいの時間が経っただろうか、一分か二分だろうか、意識が微睡んだ辺りで私の能力が隣の部屋にいるあの子の意識が覚醒したことを知らせる。
そこからの私の動きは早い。私は直ぐにベッドから起きて制服に着替えハンカチをポケットにしまいスマホと学校指定カバンを持ち部屋を出る。
部屋を出た先には直ぐに階段がある。その階段を降りると洗面台までは目と鼻の先だ。
洗面台では私は始めに顔を洗う。あの人達に涙の後を見られないために、タオルで目頭を入念に拭きカバンからブラシを取り出し髪を整える。
鏡にはぼやけた少女の顔が映り、目の周りが少し赤くなっているように見える。目を伏せ、前髪で隠す。お母さん譲りの真っ直ぐな髪質のおかげで大した労力もなくブラッシングを終えられた。
ブラシをカバンにいれ愛用の眼鏡入れから眼鏡を取り出しつるを耳にかける。そして最後に鏡で目の周りを確認。鏡には感情が読み取れない冷たい顔立ちの少女が映っていた。よく笑いかけてくれたお母さんと自分とを比較し嫌になる。
「ふぅ…」
深呼吸しながら気合をいれ洗面台から離れる。これはタイムアックだ。あの人達のところに向かいながら能力で皆の位置を確認する。
…あの子も活動を始めた。すぐに朝食をとって家から離れたい。目線を下げたままリビングに入る。
テーブルには朝食が置かれ父とあの人が並んで座り先に食事を済ませて2人でコーヒーを飲んでる。
私は父の対面に座り目線を下にしたまま子供のころから使ってる茶碗を持ち、朝食を口に放り込む。視界にあの人を入れないようにしつつテレビで天気予報を確認。
(夕方から雨か…急いで食べ終えないと。)
あの子の位置。そろそろ部屋を出るな。私はすぐに食器類を洗うため席を離れる。バタバタと階段を降りる音と一緒にあの子が降りてくる。
「ママ!靴下は!?」
そこからを皮切りにあの人達の会話が始める。私はその会話に混ざらず、食器と洗剤と水の音を混ぜる。会話の内容はタンスにしまっただとか、おはようだとか何でもないことを大きな声でやり取りしている。朝からうんざりする。
「まこと、今日クラブの日よね?あなた、まことの迎えお願いできる?」
「いいよ。じか…」
「えーいいよ!みんなと電車で帰るから!」
…うるさい。
「ダメよ!最近物騒なんだから。昨日だって女性が遺体で見つかったてニュースで…」
「誠も母さんの言うこと聞きなさい。」
「…母さん今日レギュラー発表あるんだ。」
「え!そうなの?選ばれそう?」
無神経な会話に気分が悪くなる。私が居る中で良くもそんな事が言えるな。
この場を離れる為に私は洗面台に向かいあの人達の音をかき消すため歯を磨く。
早く家を出よう。ここに私の居場所はない。
歯を磨き終え鏡を見る。そこには顔を顰めた少女が映り、朝から酷い顔だなと自嘲する。お母さん似の顔に絶対にしないであろう表情のアンバランスさに笑いが零れた。
笑ったのはいつぶりだろう。もうこの家での笑い方は忘れてしまった。
靴を履き玄関のドアノブに手をかける。行ってきますの一言もなく家を出る私に対して声を掛ける者など居るはずも無く、ただリビングからは楽しそうな家族の会話が聞こえてくるだけだった。
ここからどんどん主人公の人生が歪んでいきます。