覚悟を持てなかった者の結論
【忠告を聞き届けなかった者たちの末路】の最後に出てきた第二王子の婚約者のお話。
その日、私は王妃になることを選ばなかった。
朗らかな陽気のその日、私は王城に呼ばれた。
ともに呼ばれた父は理由を知っているようだが、私には詳しい事情は話せないようで、ただ「お前が選べばいい。」とだけ言うと馬車から外を見つめたまま黙ってしまった。
王城の会議場では陛下や大臣が何事か言い合っている。
険しい雰囲気に少し怖気づいたものの、進む父に従ってついていく。
中にアリア様と婚約者であり第二王子であるウィル様を見つけほっとする。
二人を含め、ここにいる人間は皆、険しい顔をしているが、同じ年周りの人間がいるというだけで心強いというものだ。
私たちに気が付いた陛下たちが会議を一時中断させた。
「パーシヴァル侯爵、急に呼び立ててすまないな。」
「陛下のお呼びとあらば。」
父の言葉に頷きで返した陛下は険しい表情のまま、私を見ると、その表情を深くした。
「ソフィア嬢。今日はそなたに話がある。そこにかけてくれ。」
私は陛下に促されるまま、父とともに会議場の席に着く。
ここは基本的には国王夫妻と大臣しか座れない特別な席。少しの高揚感を覚えつつ、陛下の話を待つ。
「此の程、バーナードは廃嫡となった。残る直系王子はウィルフレッドのみ。よってウィルフレッドを立太子させることとなる。」
バーナード様が廃嫡となったことは聞いていたので、ウィル様が王太子になることは想定していた。それが私と何の関係があるのだろうか。
「ついては」
「父上、その先は私から話させていただけませんか。」
「いいだろう。お前に任せる。」
くるりとこちらを向いたウィル様はいつも通りかっこいい。
うっとりとしている私にウィル様は話し始めた。
「父上がおっしゃった通り、私は立太子することとなった。現状、私の婚約者はソフィア、君だ。そこで君に選んでほしい。このまま私の婚約者として王太子妃、ゆくゆくは王妃となる道。あるいは修道院にて神に仕える道。どちらを選んでくれても構わない。」
そう問われてはっと気が付く。そうか、私はウィル様の婚約者。つまり、王妃となる道が開けたのだ、と。そう気が付いたら、体が震えだした。
「もし君が修道院に行くのであれば、婚約者はアリア嬢がなるので心配はない。さぁ、どうする。」
返事をしない私を急かすウィル様。気が付いた時点で私の中で結論は決まっていた。けれど、次々と言いたいことが湧いてきて、なかなか言葉をまとめることができない。会議場にいる誰もが私の答えを待っている。重苦しい空気がのしかかってくる。
「ウィルフレッド様。ここで決断を迫るのは少々難しいかと思われます。別室にて、お二人でゆっくりお話しされてはいかがでしょう。」
そんな中、やさしい言葉をかけてくださったのはアリア様だ。険しい表情の大人たちの中、いささか精彩を欠いていたが、微笑んでくださった。相変わらずお美しい。思考が一瞬脱線したが、「そうだな。」という言葉で現実に引き戻された。陛下に席を離れる許可を取ったウィル様に促されるまま、私は会議場から連れ出された。
連れてきてくださったのは温室だった。私のことを気遣ってくださったのだろう。ここを気に入っている私は、ほっと一息ついた。
「さっきはすまなかった。その場で急に決められることではないのに。」
「いいえ。ウィル様も大変だったのでしょう。気が急くのも仕方ありません。」
「まぁ、急なことだったからね。今までは一応、王位を継ぐ可能性はあるという程度の教育しか受けてこなかったから。貴族としては十分な教育を受けていたけれど、王位となるともっと知らなければならないことが多くなるね。」
少し疲れた様子のウィル様。公爵夫人になるための勉強でいっぱいいっぱいだった私に、「一緒に勉強しようね。」と余裕そうに支えてくださったウィル様が大変だと仰る勉強。それはどれほどのことなのか。
「ウィル様は昔から頑張り屋さんですもの。きっと大丈夫です。」
「ありがとう。ソフィーにそう言ってもらえると頑張れる気がするよ。」
やっといつも通り微笑んでくださったウィル様。この先もきっと苦労されるのだろう。支えていけたらとは思う。けれど、先ほど選択を迫られたときに、私はすぐに思ってしまったことがある。この笑顔は私の答えによって曇ってしまうのかしら。
考え事をしていた私の頭をウィル様は撫でてくださった。そちらを見れば、大丈夫だよというようにうなずいてくださる。
「ウィル様。」
「大丈夫。わかっているよ。ソフィーのことだもの。」
「ごめんなさい。」
それからしばらく二人は何も話さなかった。
美しい花々を見ながら、しばらくぼーっとした。今までウィル様と過ごすときにはこうだった。
将来いただく予定の領地は風光明媚な場所だったから、「ゆっくり過ごせるね。」なんて話もした。私はあまり賢い方ではないけれど、「のんびり屋なところもかわいいね。ほっとできる。」と褒めてくださった。
私はウィル様のことが好きだ。政略的な婚約だったが、ウィル様は大切にしてくださった。多分ウィル様も私のことを憎からず思ってくださっている。そんな自信がある。
父は、のんびりしているお前に合わせてくださるなんて良い方だな、とよく言っていた。母は将来、公爵夫人として振舞えるのかしらと心配しながら、屋敷の采配についていろいろと教えてくれた。教師たちは公爵夫人としては申し分ない知識をお持ちですよ、と褒めてくれた。第一王子の子が生まれるまでは妃として過ごすのだからと、王室についても勉強した。私なりにウィル様と一緒にいるために勉強してきたつもりだ。
でも、どれもこれも将来は「公爵夫人」という立場になる予定での話だ。
「ウィル様。ごめんなさい。私は王妃にはなれません。」
「うん。」
「私、昔っからちょっとのんびりしていて、将来、嫁いでもやっていけるかしらって両親から心配されるほどでした。でもウィル様が婚約者になって、ウィル様がいれば大丈夫ねって両親が言ってくれて。私もそう思っていました。でも……。」
「うん。大丈夫。言って。」
「……でも、それは公爵夫人になる予定だったからです。国のために働くには、王妃と聞いて歓喜ではなく恐怖に震えた私では、覚悟が足りません。勉強が足りません。いいえ。覚悟にいたっては欠片もないです。できるとも思えない。あなたが隣にいてくれても、王妃として一人で立って戦う勇気なんてないです。覚悟が持てるまで待っていてと言うことさえできない。一生懸命知識を付けようと思ったとしても、公爵夫人としての勉強さえ手に余った私では、無理でしょう。こんな私では王妃など到底なれません。」
「アリア嬢や母上のような王妃を目指さなくてもいいんだよ、と言っても無理なんだろうね。」
「王妃は王に次ぐ権力者。時に王を後押しし、時に止めなければいけない立場。あなたに強く出ることのできない私では力不足も甚だしいです。」
眉を下げた情けない表情になったウィル様。
「僕はね、のんびりだけど、一生懸命に頑張っているソフィーが好きだったよ。でも、王族として国を動かしていくには、非情さや冷静さ、決断力が求められる。そして有事には王妃にもそれは求められる。もしソフィーが王妃になり、それを求められたとしたら、きっと君は決断してくれる。けれど、その決断はソフィーの心を壊してしまうと思う。そうなるって分かっているのに、やってくれとは言えないね。」
「ウィル様。弱くてごめんなさい。」
「ソフィー。」
二人でまた沈黙してしまう。
あぁ。とウィル様はうなだれる。
「ソフィーになんで王室の勉強させちゃったんだろう。それさえさせていなければ、ほかの婚約者を探すこともできたのに。」
「妃となる以上、必要なことだったんですもの。仕方ないでしょう。」
「でも、そのせいで君は他の貴族たちに嫁げない。王家とつながりのある家ならできるけど。」
「私のために何の問題もない婚約を壊す必要はないわ。」
「だってこのままじゃ、君が。」
珍しく駄々をこねる子供のような態度をとるウィル様に心が温かくなる。
これは私のことを思っていてくださるからだ。
だから、ウィル様の心が軽くなるようにと、できる限り明るい声で話し出す。
「ねぇ、ウィル様。私ね、新しくウィル様の婚約者になるのがアリア様でうれしいの。だって、あの方は私の憧れだから。」
「昔から言っていたね。」
「昔はバーナード様、ウィル様、アリア様、私の四人でお茶会をすることもあったでしょう?その時にバーナード様にのろいって言われて」
「僕が兄上に殴り掛かった。」
「そう。その時にね、アリア様は所作がきれいねって褒めてくださったの。その日は新しく習ったきれいに見える所作を一々確認しながらお茶を飲んでいたの。だから、いつもより動きが遅くなっちゃって。バーナード様にそれを見咎められて恥ずかしかった。ウィル様にも気づいてもらえなかったし。」
「それは……ごめん。」
「ううん。いいの。自己満足だから。でも、アリア様は気が付いて褒めてくださった。あの頃の所作なんて、気を付けたって些細な違いだったと思うの。でも気を付けていることに気が付いて、褒めてくださる。あぁ、この方が将来この国を先導していくんだな、と思うとそれだけで心強かったわ。この方ならきっと大丈夫。私みたいなのでも受け入れてもらえる国になっていくって。あの時から、私はアリア様に付いていこうって思ってた。」
「アリア嬢はよく気が付く方だよね。学園でも女性たちが集まっているし、相談している人たちもいるし。」
「そう、女性たちの憧れの方。今回だって言葉足らずのままに離れることになりそうだった私たちが話せるように、と時間を作ってくださった優しい方。だから、ほかの方ではなく、あの方が王妃になることはうれしいこと。わかるでしょ。」
「わかるよ。とても頼りになる人だ。情のある人だし、綺麗だし、家族として過ごすこともできる。必要なこととして子をなすことに異存はないよ。アリア嬢だってそのあたりは割り切って考えているだろう。でも、僕はソフィーと家族になりたかった。」
「ありがとう。」
それ以上、私たちは言葉を交わすことはなかった。
私は王妃になる覚悟は持てなかったが、修道女になる覚悟はすでに持っていた。というよりもウィル様に言われた時点で、王妃である自分ではなく、修道女である自分を思い浮かべていた。唯一心配だったのは、私のようなのんびりした者でもなれるのかだったが、行くのは王家の管理する修道院で、そもそも王家の事情があってのことだ。よっぽどでなければ、大目に見てくれるだろう。
言いたいことを言え、聞きたいことが聞けたからか、晴れやかな気持ちで会議場に戻った。
会議場にいた皆様にお待たせしたことを謝罪し、婚約解消を申し出た。
それで皆様は分かったようだった。
会議場を辞した私と父に声をかけたのはアリア様だった。
振り向けばウィルフレッド様もいる。
「パーシヴァル侯爵様。少々よろしいでしょうか。」
そう声をかけてきたアリア様は、少し離れたところで父と話している。
父はアリア様の話を聞き、驚いた様子で何か返事をしたようだ。
アリア様はさらに言葉を連ねていらっしゃるようだが、内容までは分からない。
「ウィル、フレッド様は何かご存知ですか?」
私からの呼び方が変わったことに、少し顔を顰められたが、何も言わずに首を振られた。
ウィルフレッド様も知らないとなると何だろうか。
しばらくして帰ってきた二人は、私をまっすぐと見た。
先に口を開いたのは父だった。
「ソフィア。お前の好きにしていい。」
これは朝、馬車で聞いた言葉だなぁなどと思っていれば、続いてアリア様が口を開いた。
「ソフィア様。あなたにもう一つの道を示しに参りました。」
もう一つの道。そう言われてもピンとこない。が、ウィルフレッド様は分かったようだった。
「待ってください、アリア嬢。あれは却下したはずです。あれはソフィア嬢にもアリア嬢にも失礼な話です!」
「お静かになさってください。あなた方男性陣は女を見縊りすぎなのです。そもそも決定権はソフィア様に委ねられていますわ。これは陛下も、そしてパーシヴァル侯爵からもご許可いただいたこと。黙って見ていらしてください。」
割って入ったウィルフレッド様をぴしゃりと撥ね退ける姿はとても凛々しい。
お美しい方だなと改めて思う。
「ソフィア様。あなたは王室について学んでしまわれた。王家ゆかりの方に嫁ぐには問題ありませんが、ウィルフレッド様との婚約を解消することとなりました。そして、ほかにゆかりの方がいない今、あなたは嫁げる方がおらず、修道女になろうとされています。」
現状を確認するように口にされるアリア様。
間違いはないので、頷く。
「ですが、もう一つあなたには選択肢がございます。それを提示せずに決定を促すことはあなたへの、そしてわたくしへの冒涜というほかありません。いいですか。ウィルフレッド様はこの度、王太子となられました。そしてゆくゆくは国王陛下となられます。いくつかございますが、国王にのみ許された特権の中の一つの婚姻に関することを覚えていらっしゃいますね。」
「国王の特権……。まさか。側妃でございますか。」
「その通りです。あなたは王室について学んだ高位貴族女性です。魔力量も問題ないがために、ウィルフレッド様と婚約されました。知識についても公爵夫人になるには申し分ないとのこと。特に観光事業などについては熱心にお勉強なされたとか。」
「それは、将来の領地が観光に適している場所だったからです。」
「だとしても、そのために勉強し、知識を得ていくことができるのは素晴らしいことです。そんなあなたが修道女になるというのはもったいない、とわたくしは考えています。大臣の皆様方はわたくしたちを小娘と侮って、そんな提案すれば癇癪を起すと思っているのです。ですから最初から提案の中に入らなかった。」
「そんなことで癇癪なんか」
「その通りです。わたくしはウィルフレッド様に側妃ができたとしても、その方が側妃として相応しい方であれば認めるつもりです。そしてソフィア様も、そんな提案されたからと言って癇癪を起されるほど幼い方だとわたくしは思っておりません。もちろんこれから先、あなた以外の方の名が挙がったとしても。」
侮られた。それが悔しくも腹立たしくもある。
「ねぇ、ソフィア様。あなたに得意なこと、苦手なことがあるように、わたくしにも得意なことがあれば苦手なこともありますの。ですから、もしよければ、わたくしとこの国を支えていきませんか。あなたが支えてくだされば、きっとわたくしは完璧な王妃として、わたくしを侮る大臣たちの前に立つことができると思います。」
「わたくしが、アリア様を?」
「そこは僕じゃないんですね。」
大人しく聞いていたウィルフレッド様が、思わずといったように口を出す。
「あなたはわたくしが支えますもの。まぁ、もし、側妃の件を承諾していただけたときには、ソフィア様をあなたの安らぎのための要員としてお貸ししますが。」
「婚姻を結ぶのは僕なんだけど。」
「ソフィア様とわたくしを侮り、この提案をしなかったあなたなど、二番目扱いで十分でしょう。」
「二人を思ってのつもりだったんだよ。」
「知りませんわ。いじけないでください。邪魔です。」
在りし日を思い出す。のろいといったバーナード様に飛び掛かったウィルフレッド様。その二人を放って仲良くお茶をしていた私たちに、ウィルフレッド様は仲間外れにするなと仰って。それにアリア様はあなたが勝手に外れていったんでしょうと返した。そこにむすっとした表情で戻ったバーナード様は、侍女が入れ直した紅茶とそこにあったお菓子で機嫌を直して。
今は。文句を言うウィルフレッド様。はっきりと意見を仰るアリア様。それを楽しく見ている私。
あの日の光景には一人足りないけれど、それが少し悲しいけれど、わたくしが傍にいることでもし役に立てるのなら。
「アリア様。どのような予定になりますか?その準備を始めなければなりませんから。」
私は側妃となることを決めた。
私の言葉に、にっこりと微笑んだ、これ以上ないほど美しいアリア様。
複雑そうにしながらも、少しうれしそうなウィルフレッド様。
そして今まで静かに成り行きを見ていた父は、少しほっとしたように見えた。
それから半年後。ウィルフレッド様は立太子式をされ、そのさらに半年後にはアリア様と婚姻を結ばれた。
それから三年後。私がウィルフレッド様の側妃として後宮に入るころには、アリア様とウィルフレッド様は男の子と女の子を一人ずつ授かっていた。
私が来ても気兼ねしないようにとアリア様が気遣ってくださり、度々子供たちとも交流を取っていたため、叔母のような立場を手に入れた。アリア様はよく、子供たちに向かって「ソフィーママが来ましたよ」などと仰っていたが本気ではないだろう。おそらく。子供たちはアリア様の真似をして「ソフィーママ」と呼んでくださる。それを恐れ多く思いながら、こっそり喜んでいたのは秘密だ。
私もウィルフレッド様との間に子をなした。かわいい女の子で、ウィルフレッド様もアリア様も、お二人の子も家族として受け入れてくださった。
私は最初のお約束通りアリア様をお支えした。
アリア様は熱心に教育改革に取り組まれた。いろいろな意見が聞きたいからと言われれば、私の意見や友人たちの意見をまとめてお伝えした。アリア様は意外なことに友人と呼べる方が少ない。将来の王太子妃として、同年代よりも年上の方々と付き合ってきた弊害だ。学園で多少はご友人が増えたとは言っていたが。私は将来の公爵夫人として、近隣領地や侯爵家と取引ができるであろう家の方などとお付き合いをしてきた結果、さまざまな身分の方と交流がある。お力になれることがあって、やってきたことが無駄にならなかったと誇らしかった。もちろん対外的にはアリア様がすべて行ったことにして、完璧な王妃様として臣下の前に立たれた。
ウィルフレッド様がお疲れになっていらっしゃれば、お話をお聞きした。私が見計らってお声をかけるということもあったが、大抵はアリア様が「明日までに使い物になるようにしてくださいませ。」というお言葉とともに、私の部屋にウィルフレッド様を投げ入れに来るのだ。そうした時には昔のようにのんびりとお過ごしになる。お部屋で過ごしている間は昔のウィル様だが、次の日には無欠の王ウィルフレッド様として元気に出ていく。これも最初の約束通り、私をウィルフレッド様に貸しているということになるのだろう。
長く過ごしていればアリア様とウィルフレッド様が対立することもあった。在りし日とは違い、ウィルフレッド様が一方的に言われ続けるということはなかったし、私も見ているだけではなく仲裁に入った。そんなところに時間の経過を感じた。
私は時折、あの側妃となることを決めた日を思い出す。
もしあの時王妃となることを決めていたら。
もしあの時側妃すらならず修道女になっていたら。
私は、私たちはどうなっていただろうか。
もし私が王妃になっていたら、きっと私は王妃としてしか過ごせなかっただろう。自分の力不足を自分が無理をすることで押し通して。優しいウィルフレッド様はきっと私の補佐としてアリア様を側妃になさって、私のために側妃になってくださったアリア様のことを、側妃を立てたウィルフレッド様のことを恨んでいた。きっと今みたいなウィルフレッド様との穏やかな時間は作れていなかった。
もしあの時修道女になっていたら、きっと私はアリア様とウィルフレッド様のお子の誕生を心から祝福できなかっただろう。自分が隣に立てないからと辞退したのに、自分は可哀想だ、バーナード様のせいだ、お二人が憎いと考えずにはいられなかった。今のように心穏やかに暮らせていなかった。
私が側妃となることを決めた日から多くが変わった。その中で変わらないのは、私の選択が最良だったという自負だけだ。在りし日はもう遠くなってしまったが、決して忘れないように心に残して。
誤字脱字等ございましたら、お知らせください。
本来は第一王子を脅かすことの無いよう、野心家でなく第二王子と相性のいい女の子としてソフィーが婚約者となりました。
公爵に臣籍降下する予定でしたから普通の公爵夫人になれる程度の教養があれば、または多少力及ばずともウィルフレッドがフォローできる程度に女主人として過ごせればよかった。
しかし、王妃となれば政務は付いてくる。他国との外交にだって顔を出す必要が出てくる。
のんびり屋な彼女は、それでも現実が見えていないわけではないので、「愛があれば大丈夫♥️」みたいなテンションにはなれなかった。後の流れは本文通り。
側妃だなんて可哀想という感想を【忠告】でいただきましたが、これは彼女の結論です。
受け入れていただければ幸いです。