洞窟ボス戦
ひたすら歩き続け、数多の罠をくぐり抜け続けること数時間。
オオオオオと重厚な雰囲気を醸し出す、前方に塞がるシャッターのような鉄扉の前に、絵井、微居、ジュエルの3人が立つ。
「音の響き方からすると、ここがたぶん最奥部になると思うんだけど……」
「ここに来るまで、いろいろありましたです……」
そう言って肩で息をしながら、ジュエルは神妙な顔で絵井からもらったう◯い棒(コーンポタージュ味)をかじる。
「そうだね……、思いっきりジャンプしないと向こう岸まで届かないのに、鉄のウニが付いた天井の罠とか」
「……ちょっとでも跳びすぎると、頭にぶっ刺さってティウンティウンだったな」
「あれを作った人は、すっごい意地悪です……」
その時の恐怖を思い出し、ジュエルは自分の腕を抱いてぶるぶると震える。
(※画像はイメージです)
「あと、敷き詰められたトゲだらけの床の上で、出たり消えたりするブロックを渡るギミックとか」
「微居さんが足場を作ってくださったおかげで、なんとか渡る事ができましたけど……」
「……普通にやってたら、初見殺しでティウンティウンするところだったな」
(※画像はイメージです)
「でも、なんだかんだでレーザー光線が微居の股下を突き抜けた時が一番ビビったね」
「……あやうく、俺の『ティウンティウン』がティウンティウンするとこだったな」
「タイトルが『ロックウーマンB』になるかと思ったです……」
(※画像はイメージです)
しみじみと遠くを見つめて思い出を語り合い、ようやく洞窟の冒険も終わりが見える。
しかし、何者をも通さぬ堅い意思を感じさせるような、鉄のシャッターが行く手を阻む。
さて、どうやってこのシャッターを開けようかと3人は思案するが。
「……ちょっと退いてろ」
ドゴドゴドゴォ!
おもむろに微居が岩の連弾を叩き込んだが、シャッターは凹むどころか、かすり傷すら負わせられない。
「……ちっ、こいつは思った以上に難関だな」
「いえ、扉である以上は開ける手段が必ずあるはずです。入念に手がかりを探ってみましょう」
ジュエルがシャッターを調べようと近づくと、ガガガガと音を立てて上がっていった。
「自動ドアでしたです」
「……シャッターの意味あんのか?」
3人は一段と狭くなった通路を進み、もう1枚のシャッターもガガガガと開く。
すると、目の前に拓けたのは薄暗くてただ広いだけの、部屋のような空間。
「ここが、終点? 宝どころか何も無さげだけど」
「シャンカラ・ストーンも見当たりません……」
「……いや、強い気配を感じるぞ?」
微居が身構えると、ズズズズと前方の地面から黒い影がせりあがって来る。
『!?』
地中から現れたものに目を凝らすと、ずんぐりとした人の型をした岩のよう。
例えるならモアイの顔に力士の胴体を繋いだかのような、身長3mはあろうかという巨体。
それがズシンズシンと地面を震わせながら、ゆっくりと近づいて来た。
「で……、デカい! 今まで出てきた、土人形の比じゃない!」
「ゴ、ゴーレムです……。こわいです、ボス感満載です……」
絵井とジュエルは微居の後ろに隠れるが、ゴーレムはゴゴゴッと大きく腕を振りかぶり、問答無用の拳を3人に食らわそうとした。
しかし。
「『我が名は、モアイ太郎。我が主の命により何人たりともここは通さぬ』だと? まだ、ここから先があるみてーな言いぶりだな」
「「えっ?」」
微居のセリフに、モアイ太郎はピタリと動きを止める。
「『き、貴様……、我が言葉を理解出来るのか?』だって? ああ、俺は岩の声を聞けるんでな」
常人にとっては無音でしかないゴーレムの声を、微居は通訳をしながら応える。
「『よもや、我が主と同じ能力を持つ者が現れようとは、よもやよもやだ……』? お前、流行ってるからって、影響されすぎだろ」
「すごい……、本当に微居さんが岩とおしゃべりしてるです」
「はたから見たら、一人言にしか見えないけどね」
いつ見てもシュールな光景だなあ、と呆れる絵井。
モアイ太郎は、空手道でいうところの自然体の構えに戻ると。
「『貴様らの目的は何だ?』って? ……ああ、俺たちはシャンカラ・ストーンを探しに来た」
「この洞窟にあると聞いてやって参りました。わたしには、どうしても秘石が必要なのです!」
モアイ太郎は、微居と必死に懇願するジュエルの顔を見比べ、ゴゴゴッと顎に手を添えて考えるポーズを取る。
ずいぶん人間くさい奴だなあと絵井は思う。
「『……貴様らが求めるものは、確かにこの先にある。だが、シャンカラ・ストーンは洞窟の力の源。おいそれと渡す訳にはいかぬ』と言ってるぞ」
「そ、そんなぁ……。でしたら、ここは一発、モアイさんに色仕掛けを!」
「するの!?」
「……ふん、上等じゃねーか」
ドガァッ!
微居は、宣戦布告とばかりに岩の一撃をゴーレムの土手っ腹に叩き込む。
『!!』
「だったら、力ずくで押し通るまでだ」
だが、岩の人型は両腕をクロスさせて防御をすると。
「『ならば、貴様らの価値を示してみろ』だと? 望むところだ……」
ヒュガガガッ!
微居は右腕の一振りで3つの岩を同時に放ち、顔面に全弾を直撃させる。
しかし、モアイ太郎はそれをものともせず、ドスドスドスと微居との間合いを詰め、豪腕を岩床に叩きつける。
ドゴォーッ!
強烈な一撃は地面を大きくえぐるが、微居は素早く後ろに飛んで距離を取る。
「パワーはあるが、遅え……」
微居はダッシュでモアイ太郎の背後に回り込み、無防備な後頭部に再び岩を放つ。しかし、全く動じる様子は無い。
「……だが、さすがに硬てえな」
「微居さん! モアイさんはゴーレムなので、体のどこかに『EMETH(真実)』と書いてあるはずです。その頭文字の『E』を削って『METH(死)』に変えて下さいっ!」
ジュエルは部屋のすみっこから、伝承にあるゴーレム攻略法を微居に伝えるが。
「『我にそんなものなどは無い。そんじょそこらのゴーレムと同じだと思うな』と、言ってるぞ」
「えっ、です!?」
モアイ太郎はバンザイのポーズを取ると、胴体と頭、両腕両足が関節ごとに分解し、バラバラの部品が空中を飛ぶ!
「うおっ!?」
微居は猛スピードで襲い来る岩を、タイミング良くしゃがんだりジャンプでかわす。振り向くと、モアイ太郎はガチャガチャと積み木を組み上げるかのように、再び元の人型に戻りつつある。
「……ちっ!」
すぐに微居は岩を投てきするも、モアイ太郎は音もなくズズズズと地面に沈んで行った。
「消えただと……? 岩の中に溶け込んだのか?」
神経を薄暗い部屋の隅々にまで張り巡らせ、微居は岩の気配を読む。
「……後ろか!」
岩の怪腕がグオンと横殴りにされるが、微居はべたっと地に伏せる。さらに叩きつけられる拳を、前方に転がって回避する。
またしても、沼にでも沈むかのように地中に消えて行くゴーレム。
「次はどこだ……?」
耳鳴りがするほどシィンと静まる部屋。再び微居はアンテナを研ぎ澄ます。
絵井とジュエルには気配を全く感じる事はできず、手助けする事もかなわない。
「……上だ!」
薄闇の中を見上げると、右腕を振りかぶりながら天井から降ってくるモアイ太郎!
とっさに横っ飛びでかわそうとしたが。
ガッ!
「!?」
地中から突き出た岩の左腕が、微井の足首をガッシリ掴んで離さない!
「しまっ……!」
ゴワシャーッ!
重量と重力にまかせたモアイ太郎から、ハンマーのような一撃で叩き潰され、微居の身体が粉々に砕け散る。
ロックマンB ~地属性モブキャラの主人公流儀~ 完。かと思われたが。
「……石像だ」
ドゴオッ!
モアイ太郎が破壊したのは、実は微居を模した石の囮!
本物の微居が現れ、ゴーレムの背中に大岩のダンクシュートをぶちかました!
「ふつう、『残像だ』じゃないんです?」
「微居の場合は『石像だ』なんだよ」