洞窟ダンジョン
「…………?」
「どうした、絵井?」
「いや、何か耳障りな音が聞こえた気がしたんだけど……」
絵井は立ち止まり、光が射し込む洞窟の入口を振り返る。
「えっ? ここは本当に洞窟です?」
「「!?」」
ジュエルの声に2人が前を向くと、赤茶けた岩でできた天井と、壁と床が定規を引いたかのように正方形にくり抜かれた空間になっている。
「すごい……。RPGのダンジョンみたいです……」
「微居、こんな四角い洞窟って良くある物なのか?」
「……いや、さすがの俺もこれは初めて見る」
「あれっ? 入口が閉まってるです?」
「「!?」」
ズゾ、ズゾ、ズゾゾゾゾッ!
さらに後ろを振り向くと、自動ドアが閉まるかのように岩の引戸が入り口を塞ぎ始める。
「えっ! なんで閉まるの!?」
「まずい、閉じ込められるぞ!」
絵井と微居はあわてて入口があった場所に走るが、あえなく扉が閉じられる。
そして、もともと入口など無かったかのように、スーッとただの岩壁と化した。
「完全に塞がった……?」
「……どうやら、出迎えが来たようだぞ」
「わっ?」
微居が示す洞窟の前方から、ガウガウガウと野犬の群れが現れる。
ヴヴヴヴヴと唸りながら、闘犬のように雄大な体格をした犬たちは総毛を立てて3人を威嚇する。
「ワンちゃん(?)が十匹以上はいます! こんなのに襲われたら一たまりもないです!」
「……俺がやる。絵井はそいつを頼む」
「ジュエルちゃん、こっちへ」
「えっ、えっ?」
慌てるジュエルを絵井は洞窟の角に引っ張って行き、1人残った微居は徒手空拳で犬の群れに立ちはだかる。
1人で何ができる? とばかりに、ニイィと笑いながら野犬の一匹が飛びかかって来る。
微居は表情も変えずに右手を軽く揺すると、小ぶりな岩が手品のように掌の中に現れる。
それを大きく振りかぶり、襲いくる野犬の顔面に叩きつける!
ボンッ!
微居が放った一撃は、野犬の頭を粉々に吹き飛ばし、主を失った胴体がドサッと地面に落ちた。
「うわっ! ちょっと、微居!」
「微居さん!?」
再び微居は右腕を閃かせ、怯んだ犬たちに岩を投じると、ボボボンッとまとめて2匹の胴体を貫通する。
さらに矢継ぎ早に岩を放つと、ボッボッボンッ! と犬の頭を破壊し、肢を吹き飛ばし、スプラッターな光景を繰り広げて、あっという間に野犬の群れを殲滅した。
シーン……。
「……ふん、たわいもねえ」
「じゃないよ! やりすぎだ!」
「あわわわわ……、残酷描写です……。早く『R15』のタグを付けるか、『ミッドナイト』に作品を移さないと運営からBANされてしまうです……」
「……お前ら、あれを見てみろ」
すると、死屍累々の野犬の群れがサラサラと地面に還って行く。
「えっ?」
「消えた、です?」
微居は残された犬の牙を模した石を拾い上げ。
「どうやら、こいつらは土や石で出来た人形のようだ。いや、犬形とでも言うべきか?」
「えっ、土人形? どういうこと?」
「……さあな。中に機械が入っている訳でもねーし、俺が聞きてえ」
予想外の出来事に全く理解が追い付かない絵井と、首を傾げる微居にジュエルが。
「おそらく……、土人形が動いていたのは、この洞窟が魔力的なフィールドになっているからだと思います」
「「魔力……?」」
微居はしゃがみこんで床を撫で、天井を見上げる。
「照明無しでも、洞窟の中が明るいのはそういう事か?」
周りを見渡すと、光も射し込まない密閉状態でありながら、それぞれの姿や洞窟の壁面の模様すら、細やかに見て取れることに気付く。
「あ、言われてみれば確かに」
「それも、おそらくフィールドに働く力が関係していると思います。もしかしたら『シャンカラ・ストーン』のしわざかも……」
「なるほどな。理解した」
「いや、受け入れるの早くない?」
岩が絡むと途端に順応力が高くなる微居に、呆れる絵井。
「……ふん、面白えじゃねーか。この先に何が待ち受けてるか楽しみだ」
「まあ、どのみち帰り道が無くなったから、前に進むしかないけどさ」
「でも、微居さんが動物虐待をするような人じゃなくって良かったです」
ニコニコしながら近寄って来るジュエルに、微居は迷惑そうな顔で。
「……俺がそんな事するかよ。俺は生き物には優しいんだ」
「その優しさを、リア充カップルにも向けてやってくれよ……」
*
「へえ、ジュエルちゃんも高一なんだね」
「……なんだ、タメじゃねーか」
「微居さんもです? えへへ、わたしたちみんな『同い年』だったんですね」
雑談を交えながら、洞窟の先へと進む3人。
床は平坦なので、非常に歩き易くはあったが、すぐ目の前に行き止まりが現れる。
「あれ、一本道だったよね? もう終点?」
「いえ、上を見て下さい。あそこから登れそうです」
ジュエルが示すとおり、壁が段差になっており、登れば先に進めそうではある。
しかし、段差は身長よりも遥かに高く、簡単には登れそうにはないが……。
「……どうした、早く登って来いよ」
「「早っ!」」
すでに壁を登りきっていた、微居がひょっこりと顔を出す。
「お前、どうやって登ったんだよ」
「岩壁のそことそことそこを蹴って登ればすぐだろ」
「分かんないよ、どこだよ!」
「うーん、うーん、登れないです……」
ジュエルは一生懸命、壁に向かってカエルみたいに飛びついてみるが、ズルズルと滑り落ちるばかりで登れそうにもない。
まったく、手がかかる奴らだぜとぼやきつつ、微居は上から大きな立方体の岩をドスドス落とし、階段状に積み上げる。
「……ほら、これならお前らでも上がれるだろ」
「微居さん、これは?」
「あ? もっとテ◯リスっぽく積んだ方が良かったか?」
と言いつつ、テト◯ス棒を落とそうとする微居。
「そうじゃなくて、この岩はどこから用意したんです?」
「……用意なんかしてねーよ、岩の方から俺に寄って来んだよ」
おかしな事を言う微居を、目を丸くしながら指差すジュエルに絵井は首を振る。
「長い付き合いだけど、あいつの『岩』については未だに良く分かんないんだよな」
絵井とジュエルは微居が作った階段を登り、洞窟の先へと進む。
途中、土人形のコウモリの群れや、安全第一のヘルメットをかぶった亀のような敵が現れたが、それらも微居が岩投げで難なく退ける。
「微居さんって、すっごいです! 魔法使いみたいです!」
足元もなだらかなので、順調に歩を進める3人。
ジュエルはるんるんとスキップをしながら、先頭に立つ。
「……調子に乗るな。こういうところは」
「きゃあ!」
突然、床から飛び出して来たネットに、ジュエルは絡め取られる。
「ジュエルちゃん!」
「ちっ!」
微居は平べったい岩を手にすると、手裏剣のように投擲する。
スパッ! ドサッ!
天井にぶら下げられていた網が斬られ、ジュエルは地面に落ちるが事なきを得た。
「あいたたた……。あ、ありがとうございます……」
「……調子に乗るなと言っただろ。こういうダンジョンには罠があるのが相場だろうが」
「まあまあ、ジュエルちゃんも好きで引っ掛かったわけじゃないんだし」
「面目ないです……。今度から注意して、絶対にひっかかりません!」
カチッ!
ジュエルが足を踏み出すと、床に設置されたスイッチが起動する!
シュルルル、シュルルル!
シュルパッ、シュルパッ!
「きゃあーっ!」
四方八方からつる草が絡み付き、ジュエルはまたしても天井に吊し上げられた。
「ひーん、誰かほどいてくださいですー」
しかし、絵井も微居もジュエルを凝視したまま、微動だにしない。
「はっ、助けようとする気配がない……。もしかして、わたしが身動きできないのを良いことに、酷い事する気です!? 薄い本みたいに? 薄い本みたいに?」
「「いや、全く」」
手を振り、首を振り、即否定をする絵井と微居。
「……普通、こういう罠はお色気シーンのはずなんだがな」
「全然そんな気がしないのはなんでだろうね?」
「……おそらく、ツタが食い込む事で強調されるはずの『胸』が無いから、だろうな」
「なるほど、それはなぐさめの言葉が見つからない……」
「ひどい分析してないで、早く下ろしてくださーい!」
挿絵 by サカキショーゴ 様
(おまけ)
「微居さんは、一体どうやって岩を出してるんです?」
ジュエルは瞳をキラキラさせながら、微居に近づく。
「……何だ、やぶから棒に?」
「さっき何も持ってないところから、魔法のように岩を出していましたよね?」
「そうだな、俺も知りたい。たまに見るけど、速技すぎて良くわからないからな」
絵井まで話に乗っかって来たので、微居は面倒くさそうな顔をするが。
「……別に大した事はしてねーぞ。服の中に仕込んだ岩を出すだけだ」
微居が軽く腕を揺すると、何もない手の平に拳大の岩がヒュパッと現れる。
「わっ、すごい!」
「さらにこれを応用して、投げた瞬間に次の岩をリロードすれば、連続で投げる事ができる」
微居がオーバースローで岩を投げると、ドドドンと3個の岩が同時に放たれた。
「どうだ、簡単だろ?」
「どうだ、って言われても、誰でも出来ることじゃないけどな」
「コツとしては、まずは『岩とトモダチ』になれ。話はそれからだ」
「キャ◯テン翼です?」