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美少女ヒロインキャラとの出会い

 サラサラとせせらぎの音と、ピーヒョロロローと(とび)の声。

 そして、食欲をそそるジャンクフードの香しい匂いが、鼻腔をくすぐる。


「ううーん……、美味しそうです……。はっ?」


 倒れていたピンクの髪色の少女が、ガバッと身を起こす。


「あ、目が覚めたみたいだね」

「……世話が焼ける奴だな」


 少女はペタペタと自分の顔や体を撫で回し、少年たちの姿をみとめると。


「あれ? わたしは崖から落ちたはず……。という事は、ここは天国? あなたたちは天使です?」

「君は助かったんだよ。助けたのはあいつだけど」

「こんなモブ顔の天使がいるか」


 絵井が親指で微居を指差すが、当の本人はそ知らぬ顔で黒い岩を磨いている。

 絵井は少女を警戒させないように、笑顔を浮かべ。


「俺は()()、あいつは()()。君は?」

「わ、わたしは……」


 すると、ぐうーっと音が響き、少女はお腹を押さえて顔を赤くする。


「あはは、そう言えばお腹が空いてるって言ってたね。ちょうど出来たばかりだから、これを食べなよ」


 そう言って絵井は、少女に割り箸を乗せた赤いロゴのカップラーメンを差し出す。

 少女はキョロキョロと2人を見比べ、おずおずと受けとると、空腹に耐えきれずに一気にかき込む。


「熱いですっ!」

「出来立てだから、気を付けないとヤケドするよ?」

「……おっちょこちょいな奴だな」


 微居の悪態を気にも止めず、少女はあふっ、うまっ! とあっという間にカップラーメンを平らげた。


「はふーっ、生き返りました。美味しかったです。お料理上手なんですね」

「カップ麺で料理上手と言われたのは初めてだなあ」


 と、言いつつ絵井は、できあがったシーフード味のカップ麺の前で、微居とじゃんけんをする。

 絵井がパー、微居がグーで絵井の勝ち。


「んじゃ、お先」

「……ちっ」


 いそいそとカップ麺を食べ始める絵井と、しぶしぶと岩磨きに戻る微居。


「えっ? 微居……さんは食べられないのです?」

「いや、これを分け合うつもりだよ。カップ麺は2個しかないから」

「そんな……、わたしのために?」


 絵井はズズッと麺をすすると、すぐにカップを微居に渡す。

 少女はなんて良い人たちなんですと感動しながら、またしてもぐーっとお腹を鳴らしてしまう。

 微居は、顔を赤らめる少女を見かねて。


「……ほら、食え」


 青いロゴのカップを少女に差し出した。


「え? それは微居さんの分では?」

「俺はいい。そんな腹を鳴らしてる奴の前で食えるかよ」

「重ね重ね、もうしわけないです……」


 深々とお辞儀をするとカップを受け取り、少女はずぞぞぞぞっと麺を食べ、スープも飲みきる。


「はふふーっ、ありがとうございました。微居さんはとってもお優しいです」

「…………」


 そっぽを向いてシャカシャカシャカと岩を磨き出す微居に、少女は不安そうな顔をしながら。


「わたし、何か微居さんの気に障るような事でも……?」

「あはは、あいつは照れてるだけだよ。ところで君は……」

「あっ、申し遅れました。わたしは『ジュエル』と言います」

「ジュエル? それは本名?」


 彼女の風変わりな名前に、思わず聞き返す絵井。


「はいです! 宝珠の『珠』、玉へんに英語の英で『瑛』、瑠璃の『瑠』で『珠瑛瑠(じゅえる)』です。えへへ、ジュエルちゃんって呼んでください」

「……すげー、キラキラネームだな」


 いかにもヒロイン風な名前に微居は率直な感想をこぼし、それを聞いた少女はムッとする。


「じゃあ、あなたたちはどんなお名前です?」

「俺の名字は、絵井」

「……俺の名字は、微居」

「「名前はまだ無い」」

「夏目漱石です?」

「それで、ジュエル……ちゃんは何でこんなところに?」

「え、えーっと……」


 ジュエルは言うか言うまいか迷う様子を見せたが、カップ麺の恩もあるので、意を決して語り出す。


「ひ……、『秘石』を探しに来たのです」

「秘石?」

「……だと?」


 話によると、ジュエルが探しているというのは『シャンカラ・ストーン』というもの。

 伝承では、とある僧侶が最高神シバから授けられた、邪悪を打ち払う力が秘められた5つの『秘石』。

 今では世界中に散らばり、ほとんど行方知れずになっているが、5個全てを集めると世界を支配する力を得る事ができる。……と言われているらしい。


「そんなドラ◯ンボールみたいなものがあるなんて。微居、知ってた?」

「……伝承くらいならな。確かシャンカラはシバの別名だったか? 実在するとは思わなかったが」

「そして、わたしが突き止めたところによると、その内の1つがこの千葉県肘川市にあるということなのです!」


 ジュエルはシャキーンと、日曜8時半の変身ヒロインのようなポージングを取る。


「……急にローカルな話題になったな」

「その、ジュエルちゃんは秘石を集めて世界を支配しようとしているの?」

「あ、いえ、わたしが欲しいのは1つだけで、1つだけでもケガや病気の治療とか、恋愛の成就に絶大な効果があるみたいですから」

「「恋愛成就……?」」


 そこまで話すと、ジュエルはやにわに。


「あのっ、お二人を見込んでお願いがあります! もし、良かったらわたしの『秘石探し』を手伝っていただけませんか!?」

「「えっ?」」

「絵井さんも微居さんも肘川の方なんです、よね? 地理に詳しい方がいらしたらわたしも心強いです。是非とも、どうかお願いします!」


 エビのように編み込んだピンクの髪をぷらんと下げて、ジュエルは必死に頭を下げる。


「そりゃ、道に迷うくらいだからそうだろうけど、そんな急に言われても。微居、どうする?」

「気が向かなけりゃ、断りゃいいだろ」

「そんな!? あっ、そうだ。お二人に色仕掛けをして、秘石探しを手伝ってもらうのです!」

「「は?」」


 ジュエルは頭の後ろで両腕を組んで、胸とおしりをくねくねと振りながら。


「あっはーん、うっふーん♡ おっぱいぷるーん。わたしのお願いを聞いてくださらなーい?」

「いや、もう『色仕掛け』って聞いちゃったし」

「……だいたいお前、『おっぱいぷるーん』って言うほど胸ねーだろ」


 微居の(あっ)(こう)に、ジュエルはバッと自分の胸を隠し。


「そんな! たしかにわたしはAカップしかないですけど……」

「断崖絶壁じゃねーか」

「ひどいです!」


 絵井と微居はコクンとうなずき合うと。


「「じゃあ、この話は無かった事に」」

「えー! 普通ここは、『俺たちが力になってやるよ』ってならないんですー?」

「だって俺たち、しがないモブキャラだから」

「そういう話は『主人公の者』に当たってくれ」

「ええー! 女の子に恥をかかせておいてあんまりですー!」


 肩をすくめる絵井と黒い岩を磨く微居の背中に、ジュエルは必死にすがりつく。


「いやー、恥をかいたのは俺たちのせいじゃないし。それに……」


 絵井は突然、表情を厳しいものに変えると。


「君、俺たちを騙そうとしてるだろ」

「えっ?」



 *



 沢の空気が寒々しく張りつめ、絵井の指摘にジュエルは狼狽する。


「えっ、えっ? な、何の事です?」

「うーん、騙すというか、俺たちに隠してる事があるのかな? 知られたら協力を得られないような何かを」

「や、やだなあ。そんな、隠し事なんてないのです、よ?」

「誤魔化そうとしても、俺には分かるんだよ。残念だけど、俺は信用が置けない人物と行動を共にする気はない」

「そ、そんなぁ……」


 ジュエルは絵井から拒絶され肩を落とすが、ふと微居が紙ヤスリで磨いている黒い岩が目に入る。


「それは、『(ばい)()(せき)』です?」


 ジュエルのつぶやきに、ハッと微居は彼女を見る。


「……分かるのか?」

「黒い地に白い斑点が梅の花を描く、北九州は()()名産の『梅花石』。しかも、こんなきれいな紋様が入っているのは珍しいです」


 ジュエルは微居に近寄り、黒い岩に刻まれた白い紋様をなぞる。

 確かに微居が持つ岩は、ジュエルが言うとおりの産地と名前。

 しかも、石灰質で出来た白い点や溝が、見事な梅の木を描いた貴重なもの。


「……良く()ってるな。お前、岩が好きなのか?」

「はいです! こう見えてわたしのお父さんは地質学者なのでわたしも結構詳しいし、好きなのです」


 えっへんですと、ジュエルは薄い胸を張る。

 微居はぶるぶるっと肩を震わせると、岩をパーカーの懐に入れて。


「……その『シャンカラ・ストーン』は、肘川のどこにあるのか分かってるのか?」

「え? あ、はい。調べたところ、おそらくこの山のどこかにあるとの事ですが、まさか?」

「同じ岩好きの(よしみ)だ。付き合ってやるよ、その『秘石探し』って奴にな」

「微居さん!」

「!?」


 ジュエルは微居の両手を握って、思いっきり顔を寄せ。


「ありがとうございます! やっぱり、あなたは天使です! むしろ神様です?」

「……近い、離れろ。こんなモブ顔の神様がいるか」

「おい、微居!」


 さっきまでダルそうだった微居の変わり身に、絵井は慌てて釘を刺す。


「ついさっき、俺がこの娘は嘘をついてるんじゃないかって言ったの覚えてる?」

「まあ、こいつにもいろいろ事情があるんだろ?」

「いや、そんな簡単に片付けられても」

「『岩好き』に悪い奴がいるはずがねーだろ。とっとと行くぞ」

「はいです!」


 微居は心当たりでもあるかのごとく、ジュエルを引き連れて行こうとする。


「あっ、こらっ! ったく……、あい変わらず岩が絡むと見境ないんだから」


 絵井は急いで火の後始末をし、二人の後を追った。


「まあ、あいつの『岩投げ(ちから)』があれば、たいがいの事はなんとかなるか……な?」

(登場人物紹介)


珠瑛瑠(じゅえる)(ジュエル)

 挿絵(By みてみん)

 絵井・微居コンビの前に現れた、いかにもヒロインなピンク髪の美少女。

 『シャンカラ・ストーン』を巡る冒険に二人をいざなう。

 物腰は丁寧だが、ちょっと変な娘。地質学に詳しい。


(ジュエルのヒロイン属性)

・エビ編みにしたピンク髪

・腹ペコ娘

・しゃべり方が変(『です』の用法がおかしい)

・おっちょこちょいでドジっ娘

・空(?)から降って来た

・天然

・貧乳(Aカップ)

・パーソナルスペースが狭い

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[良い点] 断崖絶壁が断崖絶壁から落ちましたか。 [気になる点] 微居はジャンケンでグーしか出さなそうですね! [一言] 言葉遊び的な仕掛けが散りばめられていて、流石マックロウ様ですね!
[一言] >カップ麺で料理上手と言われたのは初めて このセリフに大爆笑しました。
[良い点] 微居くん…… いいヤツぅぅぅ!! >名前はまだない。 確かにそうですねw 今回も面白かったです!
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