表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/25

悪の流儀と岩を呼ぶ男

「ガアアアアァッ!」


 メタルマンは野獣のように()え、纏わり付く岩を弾く。

 しかし、眼前には既に更なる微居の岩弾が迫っていた。


「ちいィッ!」


 微居の利き腕から岩が右に曲がる事を予測して、メタルマンは左へ(はし)る。


 ギュウンッ!


 だが、岩は追尾するかのごとく、左に変化!

 シュート回転の岩が、右変化(スライダー)を躱したつもりの敵の背面を撃つ!


「ッ! クソがァッ!」


 被弾をモノともせず、メタルマンは横投げ(サイドスロー)でブレイドを放つ。フリスビーのような横回転の刃が唸りを上げて微居を狙う。

 しかし!


「おらあっ!」


 ガチガチガキィンッ!


 微居は高めに岩を投じ、下変化(フォークボール)の軌道で上から鉄盤をねじ伏せる。

 残りの岩弾は、機人に向かってダイレクトアタック!


 ドゴゴゴォッ!


「っだあーッ! 調子こいてんじゃねェぞ、ゴラァーッ!!」


 メタルマンは激しい怒りのままに腕を振り回し、(めっ)()()(たら)な鋼の刃で攻勢をかける。


「……おらおらおらおらおらあっ!」


 ドガガガガガガガガッ!


 微居も持ちうる限りの岩の連弾で、迎撃に迎撃を重ねる。

 弾ける円盤、砕け散る(がん)(れき)


 ビシュビシュッ!


 撃ち損じたブレイドが微居の頬と肩を掠め、裂けた傷口に一条の血が滲む。

 一度たりともまともに食らえば即死に至り、一瞬たりともひるむ事を許されない、鉄刃の脅威は彼から体力を奪う。

 それでも。


「おらおらおらおらおらおらおらあーーーっ!」

「ぐッ……、ぐわあああああァーーーッ!!」


 手数で上回った微居の岩は速射砲のようにメタルマンを攻め立て、ついに敵を積み上げた岩山(ピラミッド)の中に封じ込める!

 シンと、戦場を静寂が包み込んだ。


「はあっ、はあっ……、どうだ……?」


 ドッゴァーッ!!


「!!」

「効くかァーッ!!」


 両腕を突き上げながら、メタルマンは岩山を弾き飛ばして立ち上がった。


「ほとんど、無傷だと……?」

「モース硬度8.5の鋼鉄のボディだァ! ヤワな岩なんぞじゃ、かすり傷すら付くかあッ!」


 モース硬度とは、鉱物に対する硬さの尺度。

 並みの鉱石など歯牙にもかけぬ、鋼鉄の肉体を誇示するメタルマン。サイボーグゆえか、体力的な消耗も伺えない。

 一方の微居は肩で息をするが、未だ勝算があるかのごとく不敵に笑う。


「……相当ぶち当てたはずだがな、やはり()()を使うしかねーか?」

「雑魚がァ……、まだ俺様と()りあうつもりかァ!? モブならモブらしく黙って死んどけェ!」


 男は積み上がった岩に、左腕のドリルを叩きつけて砕き飛ばす。

 微居は飛来する岩の破片を片手で受け止め。


「……俺はモブだが、雑魚じゃねえ。俺が雑魚なら、お前は犬だろ」

「んだとォッ!?」

「『救国の光』の飼い犬のくせに、いちいち吠えるな。キャンキャンうるさくてかなわねえ」

「ああァ……?」


 微居の挑発に、メタルマンは(おき)()のような、赤く(ほの)(ぐら)い光を湛えた眼で睨む。


「あんなクソヤロウどもと一緒にすんじゃねェよ……。俺様はよォ、救国の光(やつら)に『身体が丈夫そうだ』という理由だけで拉致られてなァ、勝手に改造(いじくら)れちまったんだよ。身体はおろか脳まで機械になァ……」

「……」

「俺様ァ、奴らに反逆する機会を狙ってたんでなァ、そしたらよォ、世界を征服できる秘石(シャンカラ・ストーン)っつうのがあるってェ話じゃねェか。こんな都合の良いモンが他にあるかァ!?」


 テツテツテツと、メタルマンは肩を震わせて嗤う。


「救国の光をブッ潰して、俺様が世界を奪取()ってやらァ。俺様こそが『世界最強の超悪(あく)』だァァーーッ!!」


 天に刃を突き立てるかのごとく、雄叫びを上げる鋼鉄の殺戮機人。その咆哮は洞窟をビリビリビリと激しく揺らす。

 対する微居は冷静に、自分の心臓あたりをコツコツと指差し。


「……その割にはお前、救国の光のエンブレムを大事に付けてんだな?」

「あァ?」


 ベキイィッ!


 メタルマンは、胸に打ち込まれた太陽を模したプレートを自ら(えぐ)り取り、地面に落としてゴリッと踏み潰した。


「これで、文句あるかァ?」

「……」


 ズズン……ッ!!


 グラグラと再び地面が大きく浮沈し、ガラガラと天井から(れき)が降り注ぐ。

 土埃が舞う中、刻一刻と迫るタイムリミット。


「さァて、そろそろてめェをブッ殺すとするかァ……。『マグネット・ストリーム』ッ!」


 メタルマンが右腕を天に掲げると、ズズズ……と機人の頭上に黒い渦が立ち込める。


「……マズい!」


 ヒュガッ!


 只ならぬ気配に、クイックモーションで敵の顔面に岩をぶつける微居。しかし、メタルマンは顔に砕けた岩の欠片を被りながらも(ひる)みもせず。


「すぐに終わらせてやるからよォ……。焦んじゃねェよ、ソー(ロー)野郎がァ……」


 黒い渦は激しく回転しながら、円盤状に姿を変える。それは砂鉄で形作られた、直径5m超の巨大な丸ノコ!


「喰らいやがれェッ! (ごく)(さつ)ッ! ブラック・ブレイドォーッ!!」


 黒い豪刃は聖堂を断ち切るかのごとく、ゴオウッと一直線に微居に向かう。


「ちいっ!」


 すかさず微居は連続で岩を撃ち込むが、巨大な刃はそれらをことごとく飲み込み、その勢いを殺す事が出来ない!


「しまっ……!」


 ドグワシャーッ!!


 …………。

 …………。

 …………。


「……お、お前ら?」

「何だとォッ!?」


 2人から驚愕と困惑の声が上がる。

 赤、青、黄色、緑、紫、輝く虹色。

 微居が両断されると思われた瞬間、突如カラフルな岩壁が割って入り、ブラック・ブレイドの斬撃を防ぐ。


 微居を守ったのは、洞窟の主が集めていた岩のコレクションだった。



 *



 微居は千個以上の岩たちが形成する、色鮮やかな『ぬりかべ』に向かって語りかける。


「……俺を助けてくれたのか?」


 本来なら返事があるはずも無いが、微居は岩たちの微かな声を聞く。

 あいつは聖域を侵し、仲間たちを傷つけた。必要ならば力を貸そう。と。


「……ありがてえ、だったら一瞬で良い、奴から(スキ)を引き出してくんねーか?」


 微居の依頼に、なぜかザワつく岩たち。


「……あ? 『ラブ』の方じゃねーよ。誰があんな奴()()になるか」

「何をゴチャゴチャ言ってんだァ?」


 (はた)からから見たら独り言にしか見えないが、微居は岩たちと二言、三言会話をかわし。


「頼んだぞ!」


 意を得たとばかりに意思を持った石たちは、ポルターガイスト現象のようにフワフワと宙に浮く。

 そして、空中で隊列を組み、一斉にメタルマンに襲いかかった!


「何だァッ!?」


 ヒュドドドドドドドドドドッ!


 色とりどりの岩の吹雪が、聖堂の中を荒れ狂う!


「しゃらくせェッ!」


 機人は左腕のドリルを振るい、飛来する岩をことごとく打ち落とす。

 だが、それは助攻(おとり)! 長蛇の陣で回り込んだ主攻部隊の岩たちが、敵の背後から躍りかかる。


「視えてんだよ、こちとらよォ!」


 ギャーンッ!


 メタルマンは(ショルダー)のドリルを反転し、背面攻撃にも対応する。


「……」


 微居は、早撃ちガンマンのようなスタイルで攻める機会を伺っているが、メタルマンの鉄壁の守りは崩れない。

 岩コレクションズが放つ、360度の全方位攻撃ですら。


「マグネットストリームッ!!」


 メタルマンは右腕から磁気を放ち、砂鉄でドーム状のシェルターを創成し、全ての攻撃を弾き返す!


「……くそっ、たった一瞬だけで良いのに、まるで隙が見当たらねえ」


 機人の足下には、砂のように砕けた岩々が散らばり、ついに友軍はあと(わず)か。


「テーツテツテツ! 数が増えたところで、しょせん石ころよォ! 鋼鉄(おれさま)に敵う訳があるかァッ!」


 残りの岩たちは一丸となって最後の突撃を敢行したが、ドリルの一振りであえなく散った。


「……」


 ()(じろ)ぎ一つせず、微居は諦めたかのように目をつぶり、無言で佇む。


「テーツテツテツ、もう言葉も出ねェようだなァ! 今度こそ、()めェだァ!」


 殺戮機人は左腕にドリル、右腕に砂鉄の渦を回転させながら、微居を破壊するべくスパートをかける!


「土手っ腹に、風穴ァ開けやがれェーッ!!」


 ガクンッ!


「!!?」


 突如、床から伸びた岩の手が、メタルマンの足を封じる。

 その一瞬を逃さない!


「ここだ!」


 カッと微居は眼を見開き、掴んだ岩を右の本格派(オーバースロー)から小細工無しのジャイロボールで放つ!

 青い岩は、銃弾のように抉るような回転で、メタルマンの胸部に直撃!


「何度()ろうが、俺様に石ころが通用する……、があッ!?」


 メキッ、ビキビキッ……、ドンッッ!!


 蒼い光芒を放ちながら、機人を一閃!

 メタルマンを貫通した蒼玉は、その背後の壁に突き刺さった。


「あ……、が……?」


 拳大の空洞から、パリパリパリと火花が散る。

 呆然と穴の空いた自らの胴体を見つめながら、膝をつくメタルマン。

 決着を(しら)せる風の音が、聖堂を舞う。


「……風穴が空いたのは、お前の方だったな」

「バカな……。何で石ころが、俺様に……」


 微居は鼻を鳴らしながら、壁にめり込む青い岩を指し。


「……そいつは(ただ)の岩じゃねえ、モース硬度9.0の『サファイヤ』の原石だ」

「な、に……?」


 サファイヤは、ダイヤモンドに次ぐ硬度を持つ青い貴石。その硬さは、硬度8.5の鋼鉄を凌駕する。

 また、メタルマンが微居の挑発に乗って、『救国の光』のプレートを自ら引き千切り、装甲を弱めていたのも敗因の1つであった。


「お前は、散々バカにしていた『石ころ(モブ)』に負けたんだよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読みいただきありがとうございます!
ブックマーク評価感想
レビューをいただけると狂喜乱舞します。

小説家になろう 勝手にランキング

『明らかに両想いな勇斗と篠崎さんをくっつけるために僕と足立さんがいろいろ画策する話』
i410077
間咲正樹様作のすごいラブコメディです!

『肘川叙事詩』
有志による『あきぼく』世界のSS集です!

『水兵チョップ海を割る ~西の島国の英雄譚~』
i410077
海洋バトルアクションファンタジー(完結済)です!
― 新着の感想 ―
[良い点] 「俺はモブだが、雑魚じゃねえ」 静かに熱いセリフが良いですね! 中盤からの怒涛の洒落ラッシュ、お見事でした。
[一言] >「あんなクソヤロウどもと一緒にすんじゃねェよ……。俺様はよォ、救国の光に『身体が丈夫そうだ』という理由だけで拉致られてなァ、勝手に改造れちまったんだよ。身体はおろか脳まで機械になァ……」 …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ