悪役(ヴィラン)の者
ウリイイイイイィィィィィーーーッ!! とメタルマンは、再登場の喜びを顕に雄叫びを上げる!
「あ……、歩武さんの、コレクションが……」
「!! あの野郎……っ!」
ぶち抜かれた壁の一角が崩れ去り、そこに陳列されていた岩々が瓦礫の山と化していた。
わななくジュエルの震える声に、微居はギリッと歯噛みをする。
男は、彼らが手に入れた緑色の秘石を一目見るなり。
「おォ、ラッキーッ! 秘石持ってんじゃねェか! とっととそいつを渡しやがれェ!」
「お前なんぞに、誰が渡すか」
シャンカラ・ストーンを後ろ手に隠し、微居は要求を撥ね付ける。絵井もジュエルをかばいながら、抗戦の構えを見せた。
しかし。
「あァ? モブのくせにヒーロー気取りかァ? てめェら、感想欄から偶然生まれた存在のくせに、『あきぼく』の主要人物ぶってんじゃねェぞ、ゴラァ!」
「「ゲボーッ!!?」」
絵井と微居の口から赤色が飛沫く。メタルマンの発言に、2人は噴水のように吐血する!
「えっ!? 絵井さんっ!? 微居さんっ!?」
「それから、てめェらの名字はAとBが元になってるようだが、『い』が被ってるせいで作者がちょっぴり困ったそうじゃねェか。あと、11万種類ある日本の名字の中に、『絵井』と『微居』という名字は無ェ!」
「「ゴハッ!!」」
ドガッ!
見えないハンマーで殴られたかのように吹き飛び、絵井と微居は壁面の岩棚に叩きつけられる!
「う……、ぐ……っ!」
「絵井さんっ! 微居さんっ!」
ジュエルの呼び掛けに2人はなんとか立ち上がるが、ガクガクと生まれたての小鹿の様に膝が震える。
「テーツテツテツ! かなりメンタルにキてるようだなァ!」
「お前……、なぜそんなメタな事を……?」
「忘れたか? 俺様の名前は『メタルマン』だァ! 俺様の頭脳のネットワーク機能で、メタな情報は取り放題なんだよォ……。メタるぜェ?」
殺戮機人はオラつきながら、自らのCPUをコツコツと指差し。
「そんじゃ、てめェらに絶望をくれてやらァ。絵井・微居の『あきぼく』初登場は『番外編その12:席替え』、感想欄の初出は『番外編その1:ダブルデート①』。つまりッ! 時系列で行くと今の時間軸に、そもそもてめェらは存在しちゃいねェんだよーッ!!」
ガガーンッ!
「「ぐわあああぁぁぁーーーっ!!」」
メタルマンのメタ発言が洞窟内に反響し、絵井と微居の精神を刃の様に刻む。
すると、2人の身体に異変が!
「あ、あ、あ……、俺たちの身体が……?」
「足元から消えていく……?」
「テーツテツテツ! どうやら存在を保てなくなったようだなァ! からのォ、マルノコブレイドォーッ!」
間髪入れずに放たれた円刃が、消えゆく絵井と微居を容赦無く襲う。
「危ないですっ!」
ドドッ!
ジュエルは、2人にまとめて高速タックルをお見舞いし、寸での所で斬撃をかわす!
「「うわあああああーーーーーっ!」」
「絵井さんっ、微居さんっ!」
地面が透けて見えるほど存在が薄くなり、ジュエルは悶え苦しむ2人の手を束ねて握り寄せ。
「絵井さん、微居さん、気をしっかりです! たとえモブキャラでも、誰が何と言おうと、あなたたちは今この時、この瞬間を確かに生きているんですっ!!」
「「うあああぁぁぁぁぁ……」」
絵井と微居は、ジュエルの励ましと柔らかな手の温もりに勇気づけられ、消えかけていた姿に再び色を取り戻す。
はあはあと2人は肩で息をしながらも、ゆっくりと立ち上がった。
「あ……、ありがとう、ジュエルちゃん……」
「……すまねえ、今度ばかりは本気で助かった」
「どういたしましてです」
しかし。
「テーツテツテツ、その程度で存在がグラつくたァ、所詮モブだなァ! ザマぁねェぜ!」
「くっ……」
「……ちっ」
辛くも攻撃を耐え抜いた絵井と微居に、嘲り笑いを浴びせる悪役の者。
そんな彼らに追い討ちをかけるがごとく、地面が沈む。
ズズンッ!!
「きゃっ!」
衝撃でビシビシと壁面に走るヒビ!
「うわっ!」
「地震か!?」
大きな揺れはいったん収まったものの、小刻みな震動は続き、パラパラと天井から岩の破片が降り注ぐ。
「おおォ、そろそろ限界が近いようだなァ」
「……お前、一体何をした!」
ゴゴゴゴゴ……と地鳴りが響く中、敵から放たれたのは衝撃の台詞。
「ああァ、てめェらを探して派手にぶち抜き回ってたからなァ……。もうすぐ洞窟は跡形もなくブッ潰れるだろうぜェ!」
「な、に……?」
「な……、なんて事をです!」
「まあ、俺様は何時でも脱出できるがな。だが、てめェらはどうだァ? 理解ったらとっとと秘石を寄越して、命乞いをしろォ! 俺様の足の裏でも舐めてみるかァ!?」
ギュイイイーンッ! と腕のドリルを振り回し、メタルマンは卑怯な交換条件を迫る。
もはや一刻の猶予も許されない中、微居の選択は。
「……絵井、こいつを頼む」
「わっ? これは……?」
微居は絵井にシャンカラ・ストーンを投げ渡し。
「……奴は俺が食い止める。お前はそいつを持ってジュエルと逃げろ」
「えっ、です?」
「おい、なに言ってんだよ。お前一人を置いて行ける訳が……」
だが、微居は背中越しに絵井に語る。
「……俺たちが今、一番優先すべきは何だ?」
「それは……」
洞窟内の至る所で響く落盤の音を感じながら、絵井は不安そうな表情のピンク髪の少女と、手の中の緑色の岩を見た。
「…………分かった。微居、死ぬなよ?」
「そのつもりは無い。俺もじきに追いかける」
「微居さん……。お気をつけて……」
「……お前もな。シャンカラ・ストーンは託したぞ」
「はいです!」
行け、と微居が促すと、絵井とジュエルはダッシュで聖堂の出口に向かう。
「テーツテツテツ、やらせるかァッ!」
それを阻止しようと、メタルマンがマルノコブレイドを構えたが。
ドゴドゴドゴドゴゴンッ!
岩の5連弾を縦一列に叩き込まれ、大きくのけぞる!
「……お前の相手は、俺だろうが」
「あ゛あァッ! ナメんじゃねェぞ、ゴラァーッ!」
「ナメろと言ったのはお前だろ? 足の裏じゃねーけどな」
怒りに震える悪役の者に対し、無事に逃げおおせた絵井とジュエルを見送った微居は、口元だけでニヤッと笑った。
*
徐々に崩れ行く大聖堂で、岩使いと鋼の機人が相まみえる。
「カアッ、喰らいやがれェ! マルノコブレイドォーッ!」
高い跳躍から、メタルマンは3連続で円盤の刃を放つ!
「……おらあっ!」
装填にかかる時間は0.01秒。微居が右腕を揺らして手の中に岩を出現させると、一度の挙動で同時に3つの岩弾を発する。
さらに左腕で2発を放ち、計5つの岩がマルノコブレイドを迎撃する。
ガギガギ、ギィンッ!
「!」
だが、全ては相殺できず、微居は撃ち損じの鋼刃を横っ飛びでかわす。素早く体勢を立て直し、追撃に備えるものの。
「……くそっ、一撃の威力が足りねえ」
「逃げるのだけはうめェじゃねェか。だが、何時まで持つかなァッ!」
微居は立て続けに迫る円盤を走りながら避け、岩を返すものの、鋼との硬度の差を埋める事が出来ない。
「テーツテツテツ! まともにカチ合って、岩が鋼に勝てる訳がねェだろうがァ!」
「まともにカチ合う? ……そうか!」
「何をブツブツ言ってやがる! とっとと喰らって、死にやがれァーッ!」
再び襲い来る鋼の刃。だが、なぜか微居はその射線とズレた方向に岩を放つ。
「ハーッ、ど下手くそがァ! 何処投げてやがるッ!」
しかし、掠りもしないかと思われた岩弾は、急激に軌道を曲げてマルノコブレイドの側面を弾く!
「!!」
ドゴドゴドゴォッ!
円刃はあらぬ方角に跳ね飛び、変化球で弾幕をすり抜けた微居の岩は、残らずメタルマンに叩き込まれた。




