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星の見えない夜
お題は「月×山羊飼い×廃屋」です。
文字を書くことにまだまだ慣れていないので、400字を制限にしました。
400字詰めに書いているイメージで書いたので、読みづらいかもしれません。
月の、落ちてきそうな夜だった。
対して影はより深まり、その暗がりの中からは、なにか恐ろしいものがこちらを見つめているように感じていた。
どうにかその呑まれてしまいそうな木陰から目を逸らす。使われなくなった夏小屋で、独り、夜に、在りし日の想い出を眺める。草むらに吹く風、山羊。ランプの灯り、暖かな影。朗らかな声、無邪気な息子たち。もうそのどれもが色褪せて遠く、彼方へ行ってしまった。
暗がりから目を逸らし、夜を見つめても、ほんの少し目を上げれば月光が目を焼く。その眩しさは目だけでなく、胸の奥まで焦がしてしまいそうな程であった。
小屋の中からは、木の爆ぜる音が聞こえてくる。一陣の風が頬を打ち、男の目を瞑らせた。
夜を見つめる男の耳には、ただ冬の近付く音だけが、厭に染みついて離れなかった。