表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
桃『太郎』の『鬼』退治  作者: そーた
3/17

桃太郎とおじいさん

「どうしたんじゃ桃太郎。よく眠れなかったのか?」


その日はとてもよく晴れており、桃太郎が布団から起きてくると、おじいさんは部屋で薬草を作っていました。


「実は昨日少しこわい夢を見てしまって…

それよりおじいさん、今何を作っているのですか?」


「薬を作っておるのじゃ。生活は苦しいが、なんとか生計を立てんといかんからのう。」


おじいさんが薬草をすり潰すと、見る見るうちに粉の様になっていきます。


桃太郎は感心しながらおじいさんの隣に座って、作業を眺めています。


「それより桃太郎よ。さっき、怖い夢を見たと言ったな。」


おじいさんは尚も薬草をすり潰しながら聞きました。

すると桃太郎はにわかにその表情を陰らせました。


「はい・・・。あれは、僕が小さいころの夢でした。

村が大変な事になって・・・たぶんおじいさんがいつも言っていた、村が鬼たちに襲われた時の夢だと思います。」


するとおじいさんの、薬草をすり潰す手が止まります・・・


「あの時、僕は確か小さな小屋の中に隠されたのですが・・・。

その人が誰だったのか、あの後どうなったのかが思い出せないのです。」


桃太郎が何とかそれを思い出そうと、頭を抱えていると・・・


「・・・おじい、さん?」


「・・・思い出さんでええ。」


おじいさんは一言そう言うと、桃太郎を優しく抱きしめました。


「怖いことは、思い出さんでええんじゃ。

怖いことは、忘れてしまったら、ええんじゃ。」


桃太郎はしばしポカンと目を丸くしていましたが、彼は次第にその眼を細めていきました。


「・・・。」



なんだか…懐かしい感触―――




そう思った途端。


桃太郎は昨日の夢がとても温かく思えて・・・



とってもこわい夢だったはずなのに―――


とっても哀しい夢だったはずなのに―――



おじいさんは僕にとって一番大切な人で・・・


僕はおじいさんにとって一番大切な人。


自分を抱きしめるおじいさんが、今どんな顔をしているのかは分かりませんが、

おじいさんから匂う土臭い薬草の臭いが、とてもいい匂いだと桃太郎は思いました。



その時でした。



おじいさんは・・・大切な人―――?



自分を包むおじいさんの両腕の中で、

彼は夢の続きを思い出したのです。



彼は絡まった糸を手繰り寄せるように、『あの後』の記憶を辿って行きました。



小屋に一人取り残された後―――



彼は真っ暗な空間の中で独り、膝を抱いていました。


あれからどのくらいの時間が経ったのだろうか。


彼には分りません。


ただ、あれだけ騒がしかった外は、今はもう既に静まり返っています。



―――必ず、戻るから



彼にはその「言葉」はとても力強く、とても頼もしく思えました。



絶対に帰ってくる。

絶対に約束を守ってくれる。

絶対に僕を………


彼はその事だけを信じ、『あの人』の帰りを待ち続けていると・・・



暗闇の中に一筋の光が射したのです。



ほら…やっぱり帰ってきた。


小屋の扉を開けたその人物。


その人影に抱き上げられ、小屋の外に連れられると、

既に外は眩しいほどに明るくなっていました。



そして、光り輝く太陽が、『この人』の顔を照らした時・・・


ああ。

やっぱりそうだ―――


彼にとって一番大切な人で・・・

彼の事を一番大切に思っている人。


小屋から連れ出してくれたその人とは―――


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ