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桃『太郎』の『鬼』退治  作者: そーた
2/17

少年の夢の中

―――…ッ郎!…ッ太郎‼


誰かが少年を呼んでいます。


家の外は騒がしく、その喧噪は家の壁越しにでもうっすらと少年の耳に届くほどです。



その音に、少年はなんだかえもしれぬ胸騒ぎを感じ、少年の心はとてつもない不安に駆られます。



そんな騒音で囲まれた家の中に、ひときわ大きな足音が駆け込んできました。



その慌ただしい足音は少年のもとまで駆け寄ると、少年が顔まで被っていた布団を無理矢理引き剥がします。


少年は怯えて思わずうずくまり、固く目をつむりますが、彼はあっさりとその者に抱え上げられてしまったのです。


走る振動に激しく揺さぶられ、さっきまでは壁を隔てて聞こえてきていた喧騒が、突如鮮明に聞こえだし―――

そのことが少年に、自分が家の外に出たということを知らせました。




外はとても騒がしく、何かが焼ける音がパチパチと聞こえ、少年は目を瞑ってはいますが、なんだか夜にも関わらず昼のように明るい感覚を覚えます。


悲鳴、怒号、泣き声、呻き声。


彼の耳に聞こえてくるおぞましいそれらは、まるでこの世の終わりの様な世界を思わせ、大量の蟲が足から這いずってくる様に、不安と恐怖が入り混じったものが皮膚の上に蠢いた様に感じさせました。


少年には、今何が起きているのかはさっぱり分からない―――

しかし、何か悪いことが起きているということははっきりと分かりました。



やがて少年は、ある小屋の中に押し込められます。


そして彼の目の前にいるその男が小屋の外から少年に、とてつもなく切迫した様子で言いました。



「お前はここに隠れていなさい!

絶対に出てきてはだめだ!」



外は朱く輝く火の灯りがまぶしく、男の顔は影にまみれています。


そしてただ呆然とする少年の肩を、男が強く掴み―――


「良いか?静かにしてるんだぞ。外にはこわーい鬼達がたくさんいる。

食べられたくなかったらここで大人しくしてるんだ。良いな?」


男の口ぶりはまるで冷静さが欠けたようなそんな強い口調でしたが、それでも何とか少年を不安な気持ちにさせまいと、おどけた言い方を努めているようでした。


少年は「言葉」というものはまだよく解りません。しかし、今目の前に居る男が自分を危険から守ろうとしていること、それだけは何となく解りました。



その時・・・


この人を行かせてはいけない―――


誰かが、少年に訴えかけます。


もう二度と会えなくなるぞ―――


いや、それは恐らく彼の心に抱く自らの直観。


彼は直観します。


この人は自分にとって一番大切な人で・・・


自分はこの人にとって一番大切な人。


その声に従うがままに、気がつけば少年は目の前の人物に手を伸ばしていました。



いかないで――


こんな真っ暗な小屋の中、独りにしないで―――



そう伝えようにも、幼い少年はまだ「言葉」というものを知りません。


だから彼は泣きました。


自らの気持ちを伝えるために。


それなのに目の前の人はただ少年を抱きしめるだけで…



「必ず、戻るから」



少年には顔は見えませんでしたが、ただ一つ判ったことは―――


その人は彼ににっこりと笑いかけ―――


「ハッ・・・!」


桃太郎はそこで目を覚ましたのでした。


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