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8.猫に会った鼠


 空の旅路は快適とは言い難いものだった。

 一応、羽付き蜥蜴の魔法で風圧やらは軽減されて煩くも無いが、吾輩が居る場所が頂けない。

 落ちると危険なので念の為と、ご主人を抱き抱えたピカピカ騎士。やはり高度が高いと恐ろしいのかピカピカ騎士にしがみつくご主人。その間に挟まれた吾輩。

 鞍も無いのに上手く羽付き蜥蜴に乗れるものだと感心はしたが、蜥蜴の首の付け根に跨り、片手でご主人を抱えるというのは。いくらピカピカ騎士が筋肉ダルマだと雖も不安になるというもの。ピカピカ騎士に縋り付くような形となったご主人は仕方なかろう。

 だがしかし。

 ご主人に抱えられながらもピカピカ騎士のピカピカ騎士たるピカピカの鎧にごりごり背を押さえつけられる吾輩からしてみればたまったものではない。けれども、ご主人の安全を考えるならば大人しくしてやらねばならないというこの葛藤。吾輩は気を遣える飼い猫なのである。猫又でちょっとやそっとのことでは死なぬ故、耐えることが出来るのだ。


 あまりにも固くなっているご主人を見兼ねたのか、ピカピカ騎士は王都についてのことをポツリポツリと話し始めた。

 極度の田舎娘なご主人には興味深い話しばかりだったようで、徐々に力が抜けて吾輩も楽になる。ピカピカ騎士はデキル男であるな。褒めてやろう。

 話しは、王都の仕組みから流行り、そしてピカピカ騎士の属する場所へと移る。


「自分が所属している騎士部隊は少々特殊な部隊なんです」

「と、特殊ですか?」

「ええ。皆一芸に秀でて優秀な方々ばかりですが、その代わり協調性に欠けていたりなど…他の部隊では上手く行かなかった人達ばかり集められているのですよ」

「え、リュディ様も…?」

「ああ、いえ。自分の場合はレオンとの関係がありまして…通常、竜騎士になるには厳しい下積みの後、自ら竜と戦い友誼を結ぶものなんです。ですが、自分は2年前に偶然レオンの孵化に立ち会って繋がりを持ってしまったんです。なので、普通の竜騎士部隊に混ざる為の練度を今いる部隊で上げている最中なんですよ」

「それは、凄いですね…?ごめんなさい、なんて言ったらいいか分からなくて、月並みなことしか言えなくて…」


 ほう、ピカピカ騎士はこの羽付き蜥蜴の親代わりという訳か。それにしては親に似ず、空気の読めない鬱陶しいが。まだ生まれて2年の赤子なら仕方がないのやも知れぬな。


「いえ、ありがとうございます。ただ、すみません。レオノーラ嬢に申し上げた呪いに詳しい者も、この部隊に所属している者なんです。狼の獣人なのですが、金に煩くて…何かと金品の要求をしてきますけれど、一切気にしなくても構わないので」

「よろしいのですか?」

「ええ、あの山の謎を解明するのは騎士団の仕事の内ですし。ただ、突然言われてお困りになられてもいけないので、予め伝えたまでです」

「そ、そうなんですか…」

「他にも癖の強い者が多いので、お気をつけ下さいね。自分がお側に居られれば良いのですけれど、遺憾ながら自分は未だ下っ端で…」

「ふふ、お気遣いありがとうございます。本当なら、こうして王都へまで送って頂けるだけでも破格の対応ですよね…それなのに、呪いの事までご迷惑をおかけして」


 ご主人が気落ちしている。何を気落ちするというのだ?ご主人ならもっとこう、他人が自分に気を使うのはは当然と構えられるだろう。これから行く場所に変人が多いというのなら、ご主人が害されぬよう連れて行くピカピカ騎士が責任を持って助けるのが当たり前だというに。


「迷惑などではありません!むしろ、自分がお願いして王都へ来て頂いている立場なのですよ。それに、困っている方を放っておくのは騎士失格ですからね。レオノーラ嬢は、俺と会って運が良かったと笑っていればいいのです」

「リュディ様…」


 良い事を言う。ピカピカ騎士の言う通りであるな。

 ご主人の不安を朗らかに笑い飛ばしたピカピカ騎士にならば、ご主人を任せても良い。出会って間もないが、吾輩には分かる。ピカピカ騎士は良い奴だ。ピカピカ騎士も、吾輩のご主人である。何も文句はあるまい。

 これまでにもご主人の伴侶達はいたが、基本的にはご主人が力か金に物を言わせて娶って来た者ばかりだ。ヒトが番うのに必要なのもやはり強さである。今世のご主人は弱い。なればこそ、吾輩がご主人の力とならねばな。


「ああ、見えて来ました。あれが王都です」


 眼前に広がる、家々の群れに吾輩は決意を新たに固めたのである。


 ○○○


「貴方の手に負えるモノではありません!元の場所へ帰して来なさい‼︎」


 吾輩達を迎えたのは、捨て猫を拾って来た子供を叱る母親のような言葉だった。だが、怒る気にはならないのは、叫ぶ其奴の耳がペタンと伏せられ、尻尾も脚の間に丸まって、怯えを一切隠していないからだろう。黄味がかった白毛の、二足歩行の狼。ピカピカ騎士の言っていた、例の呪いに詳しい狼の獣人らしい。

 ピカピカ騎士曰く部隊専用の訓練所という場所に降り立った直後のことである。どうも此奴は吾輩達が来るのをわざわざ待っていたようだ。


「ちょックルトさん!何を言うんですか⁉︎」

「リュディガー、貴方のヒキが強いのは知っていましたが、よりにもよって…私は嫌ですよ!関わりたく無いんですよ!」


 錯乱したように首を横に降る白い狼を吾輩はじっと見つめた。顔は狼のそれであるのに、手は猿の様に指が分かれて、甲も毛深く、掌は肉球のような厚い皮膚が剥き出しているのが実に滑稽である。骨格からして猿が狼の顔をしていると言っても過言ではなかろう。この世界へ来て何度か獣人を目にする機会があったが、彼奴らは吾輩の理解の及ばぬ存在である。

 それはさておき、ピカピカ騎士は此奴を狼の獣人と言ったが…。


『お前、天狗んとこの金策係だろ』


 此奴は、妖である。何故斯様なけったいな変化をしているのかは分からぬが。

 吾輩の言葉にわかりやすく肩を震わせ、其奴は両手を顔に当てた。観念したな。


「すみません、取り乱しました。……リュディガー・シュトラウス。とりあえず貴方は彼女を連れて団長と部隊長に報告をして来なさい。ただし、そちらの…は私が預かります。報告後、私の部屋へ来なさい」

「情緒不安定ですか?猫、お好きでしたっけ?」

「いいえ、話を通していないのに連れて行って、何をされるか分かりませんから…そちらのお嬢さんならともかく」

「ああ、実験動物と間違われたら大変ですもんね。了解です。団長達にもネコ殿の許可をとっておきますので、その間よろしくおねがいします。…レオノーラ嬢もそれでよろしいですか?」

「え、ええ。ネコ、ちゃんとお利口にまっているのよ?」

「にぁ」


 吾輩はいつだってお利口である。

 しかし、猫が歩いていたら実験動物にしようとする不届きな輩がいるのか。

 ご主人がいささか不安だが、まああのピカピカ騎士を伴っているのだ。問題は無かろう。そして、ここに着いてから何時の間にか縮小化した羽付き蜥蜴もしれっと吾輩と残ろうとしたが、当然のごとくピカピカ騎士に連行された。


『イヤァーーー!ワガハイちゃんと居たいのにッ』

「こらレオン暴れるな!お前、本当にネコ殿好きだな」

『だってボクの運命の番だもん!』


 ピカピカ騎士の腕の中で水揚げされた魚の如く跳ねている羽付き蜥蜴の言葉に、天狗の財布は目を剥いた。


『よりにもよって、ネコ様…を?』

『吾輩は認めて居らぬがな』


 ぐるぐる呟かれた言葉に、ぺしり尻尾を叩いて否定しておく。

 吾輩はご主人一筋である。

狼はイヌ科イヌ属。ただしネコ目。

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