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1.犬猫にも馴染めば思う

初投稿です。よろしくおねがいします。



 吾輩は猫である。名前もネコである。

 吾輩を飼っていたご主人がとんでもなく適当なヤツであったので、とくに名前も付けることなく、おいネコ、やれネコだのと呼んでいた。他にネコと呼ばれていた野良も辺りにはいなかったので、もう吾輩の名前はネコで良いんじゃないかという次第である。


 さて時に、吾輩のご主人は物凄い悪でもあった。

  口は悪いし、手も早い。奪う盗むは日常茶飯事、女は奪い、男は殺す。

 獣よりも獣じみた男であった。

 そして、憎まれっ子世に憚るとはよく言ったもので、ご主人は枯れ木のような風体になってもカクシャクとしてご主人のまま。いつものように強盗に押し入った翌日、寿命で眠るようにあの世へ逝った。


 そんな非道極まりないご主人の、唯一の美点は猫好きだったことだろう。人間にはとことん暴虐を極めたご主人だったが、なぜか吾輩だけには甘かった。

 富士額で白足袋を履いたような吾輩の白黒の毛並みを、色白美人が粧し込んだようだと褒め称え、黄金を溶かし込んだ瞳の色を縁起が良いと覗き込み。寒ければ懐に入れてくれるし、旨い魚が手に入れば真っ先にくれる。毛づくろいも上手ければ、按摩など天にも上るような巧さだった。

 おかげでどんな箱入り娘よりも大事に可愛がられた吾輩は、有り得ぬほど長命で。ご主人が身罷(みまか)ったその日に、黒白上下二色の尻尾は白と黒の二つに裂けた。


 目出度く、長寿により猫又へと転身したのである。


 (しか)(なが)ら、猫又に転身したからといっても、とくに吾輩の生き様が変わるわけでもなかった。

 何しろご主人がほんの少ししてから生まれ変わったからである。

 (ごう)の深かったご主人は、あの世からもすぐに追い出されたらしい。記憶をなくして多少は丸くなったご主人の側で、裂けた尻尾を妖術で隠してぐーたら生活を満喫し。丸くなったといっても以前よりは多少ということで、相も変わらず悪人なご主人の側で平穏に暮らしていたわけである。


 それからもご主人が天に召されて、あの世から追い出されて、この世で吾輩と暮らして。ご主人の人生に寄り添って吾輩は似たような生活を何遍も何遍も繰り返した。

 政事(まつりごと)の中心が奈良から京、京から江戸へと移り変わり、江戸が東京へと名前を改めて、生活様式も様変わりしても。吾輩の側には、常にご主人がいた。ついでに数百年生きて(ようや)く気づいたが、どうやら猫又という化け物になった吾輩には寿命などなくなっていたようだった。


 ご主人は生まれ変わる度にどんどん善人に近づいていたが、なぜか吾輩をいつでもネコと呼ぶ。ご主人が男に生まれようが、女に生まれようがである。

  もうこれはあれだ、ご主人には名付けの才能とやらが無いのだろう。


 まあ吾輩としてみれば、ご主人に甘やかされて按摩さえしてもらえればなんでも良いので気にはしていない。こちとら面倒な野生に戻るなど真っ平ゴメン、筋金入りの飼い猫だ。

 逆にいえば、そのためならばなんだってするのである。


 それが、例え異なる世界に転生してしまったご主人を、追いかけることであっても。


 ○○○


 異なる世界へ渡るのは、案外簡単であった。


 千年近く寄り添っていたために、べったりと吾輩の匂いがご主人の魂についていたからである。また、馴染みの(あやかし)連中よりも歳を重ねているにもかかわらず、碌々使わず溜まりに溜まった吾輩の妖力は、ご主人の魂を追いかけて時空を捻じ曲げるのに充分であった。


 計算外といえば、やや強引に世界を渡った際に(しるべ)にした、ご主人の直前の前世の記憶とやらをうっかり引き出してしまったことぐらいだろうか。

 …まあ、思い出したといっても、たかが一個ぐらい前の人生だ。最初のご主人の記憶が蘇っていれば精神衛生のためにも封印してやっても良かったが、傲慢で高飛車でいじめっ子な我儘(わがまま)娘だったことを思い出したぐらいなら別に構わないだろう。因果応報が如く若くしてざっくり刺殺されていたが。


 …やはり、ご主人の善人度が上がっているから大往生できなかったのかもしれない。


 閑話休題。


 はてさて、今世のご主人はというと、現在十五歳。気の強そうな悪人顔は今世も変わらず、けれど花も恥じらう美しい乙女に成長していた。そして、歴々悪人だったご主人にしては珍しく、性根は真っ直ぐ素直な善人となっていた。


 どうやら思い出した前世の記憶が衝撃的すぎて、今世は真っ当に生きると決めているらしい。ご主人が3歳の時、自業自得で刺された記憶を思い出した時、つまり吾輩がこちらの世界に渡って来た時には、恐慌状態に陥って三日三晩の熱に(うな)されていたから、仕方ないやもしれぬが。


 そんなご主人は今、ぐつぐつと煮えたぎる青臭い鍋を掻き回していた。


 ご主人の今世の生まれは孤児だ。そして、山奥にすむ薬師のような魔女に育てられた、自称魔女の薬師である。

 産まれてすぐに山の麓に捨てられていたとご主人は魔女に聞いていた。果たして本当に捨てられていたのか、それとも魔女がご主人をどこからか攫って来たのか吾輩にとってはどうでも良いことである。魔女本人も二年前に老衰で身罷っている為、確かめようも無い。

 

 吾輩がこの世界でご主人に飼われてから十二年。傍らでずっと見てきたが、ご主人はどうやら真っ当に生きるという意味を履き違えているらしい。聖人君子の如く、行き過ぎた奉仕精神とでもいうべきだろうか。前世で我儘に振舞って、恨まれて刺された記憶は随分と根深いようだ。今世のご主人は我儘を言わず、他者の目を異様に恐れて、誰かの為に生きねばならぬと思い込んでいる。ご主人の我儘らしい我儘といえば、運命の出会いによって巡り合った吾輩を飼いたいと言ったことぐらいなものか。当然、運命は演出するものである。


 今回のご主人はつまらないことこの上ない。以前迄のご主人はいつだって自由だった。最初のご主人は自由がすぎて大悪党になりはしたが。時代が移ろい、善人度が上がってもいつだってご主人は自由に、我儘に振舞っていた。


 ご主人の記憶が蘇ったのは吾輩のせいであって、運命や神とやらがご主人に(あがな)わさせるためではないというのに。

 まあ、それを直接伝えないのは、化け物と謗られてご主人に捨てられたくない、吾輩の我儘のせいだが。吾輩はかつての大悪党の飼い猫ゆえ、飼い主に似たのであろう。


「にぁ」


 鍋で煮詰めていた薬を瓶に移し終えるのをキチンと待ってから、一本に見せた黒白の尻尾を軽く振って、撫でろとご主人に擦り寄る。


「なあに、構って欲しいの?」

「うなん」


 吾輩の望みなど、ご主人の飼い猫であることだけだ。

 ただ願わくば、変わらぬ世界でもご主人が、幸せであるように。これからもご主人と共に有れるように。化生(けしょう)のモノとヒトとが近いこの世界でなら、吾輩が多少の手を出しても構わないだろうか。

 蕩けるようなご主人の按摩の中で、ぼんやりと感傷に愚考を巡らせる。


「可愛いわねぇ、ネコったら」


 余談だが、今回も吾輩の名前はネコである。


雌猫の平均寿命15歳(人間換算76歳)

猫又約1000歳(人間換算約4016歳)

※猫の一歳=人間換算20歳とする場合。

(猫の年齢-1)×4+20で計算。

諸説有り〼

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