表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
瀬川さんはネットアイドルになりたい  作者: 大橋 由希也
最終章 本当のアカウント
43/44

楓の本当のアカウント

(……全く、衝撃だったな!)


 校舎裏の木の下で告白失敗なんて聞いた事が無い! 今後も永久に無いと思う。伝説の木の下で伝説を作ってしまった。


 ひとまず楓を保健室のベッドに寝かせ、後は紫苑が何とかしろ、ということで残りの三人はいなくなった。


(……さて、ここからどう処置するか。まあ、何とでもなりそうだけど)


 あの場所がセッティングされた時点で答えは決まっているから、後は形式上の問題に過ぎない。しかし、楓はやっぱり人より二、三歩遅れる性格だ。その楓が自分から告白しようとしてくれているならば、楓を応援してその時が来るまで待つつもりだ。痺れを切らして迫るようなことはしない。


 いつまででも付き合っていける。それが自分の愛の形だ。


(……それにしても、このシチュエーション。あの時以来か)


 紫苑が思い出すのは一年前、日直当番の時の出来事だ。あの時も楓がいきなり倒れるという荒技をやってのけた。その頃から楓を狙っていた紫苑は、チャンスとばかりに楓を保健室に連れて行き、勉強と称して午前中ずっと二人っきりになって、楓の連絡先もゲットした。作戦成功だったというわけだ。


 そう言えば、ふと思い出す。あの時、楓は黒板に違う名前を書いて慌てていた。違う名前というのは、今の瀬川性ではない。別の苗字だった。


(……瀬川さん。さっき、ミラーブックに告白文を書いたって言ってたよな)


 しかし、連絡先として交換している楓のアカウントを見てもそんなものは見当たらない。そしてあの時見た別の名前。そこから紫苑は一つの推論に到った。



(……もしかして、アカウントを二つ持っているのかな?)



 思えばあの時、何故楓は自分の苗字を間違えたのか。こんなことは通常、あり得ない。あり得るとすれば、本当に苗字を二つ持っている場合だけだ。


 例えば、両親が離婚し、親権を母親が持った。または、その母親が再婚して再婚相手の姓に変わった。そうでないなら、通り名だ。何らかの理由で本当の姓を隠す必要があった。


 恐らく、楓の中では今の「瀬川」は本物ではないのだろう。あの時見た、別の苗字を本物だと思っているから、咄嗟の時に書き間違える。


 であれば、あの苗字でミラーブックを検索すれば、恐らくヒットする。それが楓の本当のアカウントなのだ。


 早速紫苑はスマホを手に取り、友達検索画面であの時見た苗字と、楓の名前を入れる。そして検索ボタンを押すところで・・・・・・、手が止まった。


(……まあいいか)


 先手を打って勝手に前に進んでしまうのは自分の悪い癖だ。楓が複数のアカウントを使い分けているのだとすれば、何か理由があるのだろう。それは楓の中ではとても大事なことに違い無い。そんな大事なことであればいつかそのうち、きっと彼女の方から話してくれる。


 その『そのうち』というのがもの凄く遅いのだが、楓はゆっくりでも最後には必ず辿り着く女の子だ。その時が来るまで待てば良い。それが自分の愛の形だ。


(……しかし、瀬川さん、いつまで寝てるんだろ!?)


 あれから時間が経ち、もう日が沈んでいるではないか。ゆっくりで良いと言っても帰宅が遅くなると親が心配してしまう。特に楓は女の子だから、なおさらだろう。


 そろそろ起こした方が良いのではないか? いや、待つべきか。楓と付き合っているといつもこれだ。


 そして急に突拍子も無いことが始まる。


「ん……」


 と、行っている先から気絶していた楓が目覚めた。


「おはよう、瀬川さん。大丈夫?」

「好きですッ!」

「へ? わっ!?」


 目覚めた楓はいきなり叫ぶと、今まで気絶していた人間とは思えない勢いでガバッと上体を起こした。


「好きですッ! 新条くんッ! 私とお付き合いして下さいッ! 大学も一緒に行きたいですッ! 結婚もしたいですッ! 子供も欲しいですッ! ちゃんと私も働きますッ! 死ぬまで一緒にいたいですッ! あの世でも一緒が良いですッ! 生まれ変わっても一緒が良いですッ! それから……それから……もう出てこないよ~~~ッッッ!!!!!!」


 今度は突然泣き出してしまう。だが、紫苑はおっちょこちょいだけで面白くて頑張り屋な楓が大好きだった。


 ベッドに腰掛けて、笑みを浮かべながら紫苑も答える。


「僕も同じ気持ちだよ。僕もずっと、瀬川さんと一緒にいたいな♪」

「新条くん……ッ! ふえ~んッ!」


 大泣きしてしまう楓を胸に抱き寄せる。紫苑は心から嬉しかった。



―――。



 保健室の扉の影で、友人達がその様子を伺っていた。


「ぐすっ、ぐすっ。良かった、楓ちゃん……」

「やれやれ、最後まで手間取らされたな、全く」

「まあ、これで良かったよ。ちゃんと丸く収まったんだから」


 散々遠回りしたが、これが本来、あるべき形だ。友人達は心から紫苑と楓を祝福した。



 結局使われなかった楓の告白メッセージ。本当はこういう風に書かれていた。



『いつも私を助けてくれる新条くん。面白くて、優しくて、私を元気にしてくれる。私は、そんな新条くんが大好きです。こんな私で良ければ、ぜひお付き合いして下さい。


 追伸 返事が遅くなってごめんね。  楓』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ