過去ログ1
今では誰でも使っているソーシャルネットワーキングサービス、SNS。楓が初めてそれにであったのは、今から四年前、中学一年生の頃だった。
当時、世の中は実名登録型SNS「ミラーブック」が大流行していた。
ミラーブックはSNS界のパイオニア的存在だ。今となっては色々なSNSが世に溢れているが、当時はそんなに数も多くなく、SNSと言ったらミラーブックを示すくらい定番として定着したサービスだった。
今の時代、子供だってスマホを持つのは当たり前。スマホを持ったら、まず電話番号。次にメールアドレス。そしてミラーブックのアカウント。ミラーブックのアカウントを持つことは、メールアドレスの保有と同列に扱われる。既に社会インフラの一部となっていた。
『○月△日、晴れ。私も中学一年生。お父さんにお願いしてスマホを買って貰いました。赤色の可愛いスマホ。まだ使い方が分からないけど楽しいです。ポチポチ』
楓の家は共働きだ。小さい頃からガラケーは持っていたが、ガラケーなんてもう古い。スマホが無ければ中学生じゃない。そして楓にもスマホが支給された。
これで楓も今時の中学生になれると思った。
『○月□日、曇り。ゲームも出来るんだよね。無料で出来るんだ。ピコピコ』
しかし、楓には決定的な落とし穴があった。
『○月○日、雨。今日もゲーム。ピコピコ。でも下手っぴ。スコアが伸びない。パズルとかは苦手です』
本人の性格が根暗だったのである。
『×月×日、晴れ。作物育てなら私でも出来るみたい。カブを育ててます。ピコピコ』
『×月△日、晴れ。毎日水をあげることが大事』
『×月□日、曇り。台風で全部吹き飛んじゃった。何これ、酷い』
スマホを持ちさえすれば今時の中学生になれるというものではなかった。
ゲームの攻略進捗しか載っていない記事が延々と続いている。しかも特にやりこみゲーマーというわけでもなく、毎日一、二時間プレイする程度のありふれた話である。
こんな日記に関心を持つものなど誰も居ない。
そしてある日、記事に異変が起きた。
『□月×日、雨。馬鹿みたい。何でスマホを持っただけで友達が出来ると思ったんだろう。お友達ゼロ。こんな記事、誰も読んでない』
『□月△日、曇り。更新。お友達ゼロ。誰も読んでない』
ミラーブックにはパブリックモードとプライベートモードがある。パブリックモードは外部から検索可能になってしまうから禁止だと親から厳命されている。プライベートモードはリアルでお友達登録しない限り閲覧出来ない。
しかし、根暗少女の楓にはリアルの友達がいない。従ってミラーブックで友達を作ることも出来ない。デッドロック。完全に詰んでいた。
『□月□日、曇り。馬鹿。心底、馬鹿』
『□月○日、曇り。私って何なんだろう? 根暗。人見知り。胸も無い。頭も悪い。運動も苦手。テストの点数も最悪。友達ゼロ。ネットでも友達ゼロ。トイレでご飯食べてる。意味無い。馬鹿みたい。本当、意味無い』
こうなってしまったらもうダメだ。こんな記事が載っているアカウントで友達登録など出来るはずが無い。使用不能である。こんなものはソーシャルでも無ければネットワークでも何でも無い。ミラーブックは楓の独り言専用サービスに成り下がった。
呆れ果てる程同じような記事が延々と続き、時は流れ……。
そしてある日、事態を一変させる記事が投稿された。
『○月×日、雨。両親が離婚した』
楓が中学二年生の頃だった。