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決意

 一ヶ月後、お昼休み。


 百合と楓は運動場の周囲にあるベンチに二人で腰掛けていた。


「楓ちゃん! お気に入り凄い伸び出るよ!」

「うん……」

「この調子なら、遠からず学校で一番のネットアイドルだよ!」

「…………」


 いつもと同じように元気な百合と、いつもと同じようにどこかぼんやりと頷くだけの楓の姿がそこにはあった。


 一ヶ月前に新規リリースした新企画「バーチャルアイドル始めました」のバーチャルアイドルはなかなかの好評だった。


 素材となるメイプル本人が可愛らしい。それをアニメっぽくしたメイプルリンクも可愛らしい。話かけると返事してくれるのも物珍しいと話題になった。


 そしてカレイドポイントは百万に到達した。……百合は六百万だ。


(……ハードル上げすぎたかも。ヤバッ)


 百万になった楓は既に学校第二位のネットアイドルである。しかし、ネットアイドル界は格差社会だ。三位は八十万。二位の楓で百万。一位の百合だけがぶっちぎりの六百万。これくらいの極端な差は当たり前のように発生する。


『楓ちゃんを紫苑くんとくっつけてあげる! 学校で一番のネットアイドルになれば、楓ちゃんは自信を持って告白出来るよね? 学校で一番のネットアイドルの私が、楓ちゃんを学校で一番のネットアイドルにしてあげるッ!』


 と言ってしまって頑張ってきたが、結局自分が障害になっている。かと言って自分がアカウントを消すというのは無い。後味が悪過ぎる。


 楓には何としてでも自身の人気で六百万を超えて貰わなければ。しかし、数値の増加曲線から計算するに、どうも二百万くらいで頭打ちになりそうなのだ。もちろん、キラーコンテンツを追加してブレイクすれば一撃必殺で六百万超えもあり得るが、アイデアが枯渇したのが実情である。


 最後に明暗を分けたのは、時間だった。百合は一年生の最初からネットアイドルを始めて長期的実績がある。楓は三ヶ月前に始めたばかりだ。支持基盤に決定的な差があった。あと三年くらい続ければ目も出てくるかも知れないが、それだと高校が終わってしまう。一体いつ告白するの? という話だ。


「だ、大丈夫だよ、楓ちゃん! これだけ人気アイドルなんだもん。時間が経てばきっと一番のアイドルだよ! そう、時間……」

「もうういいの、百合ちゃん」

「か、楓ちゃん」


 楓は俯いてスマホをポチポチしながら物騒なことを言い始めた。


「一番になんかなれないよ。もう十分」

「あ、あ、あの……」

「馬鹿な私。本当に」

(……ひぃぃぃぃッ!?!?!?)


 楓がネガティブモードに入ってしまった! 一番恐れていた事態だ。しかし、いつもながら楓は紛らわしい女だ。次に続く言葉を聞けば、その意味は違っていた。


「私っていつもこう。偏差値がいくつ以上になったら。模擬試験の判定がこうなったら。お気に入りがいくつになったら。学校で一番のネットアイドルになったら。そんなこと言ってばっかり。結局何もしない。それがダメなんだよね」

「え、か、楓ちゃん? はい?」

「私は新条くんが好き。大好き。それだけで十分なのに、いつまでもノロノロノロノロ。グダグダの極み。いつ返事するの? 今でしょ。そうだよね、百合ちゃんッッッ!?!?!?」

「楓ちゃんッ!」


 何と、遂に楓が立ち上がる時が来た! 先ほどから楓が触っているスマホには、あのダークな内容ばかり書かれたミラーフェイスのアカウントが表示されていた。


「グズで、ノロマで、ダメ人間な私でも、自分の気持ちくらい言えるもんッ! 新条くんなら、絶対優しくしてくれる。私は今、告白しなければいけないのッ!」

「その調子よ、楓ちゃん!」

「決行は今日の放課後! だから、この日記はもう終わり。消しますッ!」


 楓がこれから削除するダーク記事の数々。その最初はこの一文から始まっていた。


『○月×日、晴れ。ミラーブック始めました。みんな、宜しくね☆』

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