AIの告白
「AIって言うと、あのドラえもんとか鉄腕アトムみたいなッッ!?!? 新条くんはそんなことまで出来るの!?!?!?!?」
「い、いや、流石にドラえもんは……」
AI、人工知能。最近はAIが大ブームで、あらゆる所でAIが活用されている。
とは言え、ハッキリ言ってAIと言い張れば何でもAIである。『AIを使ったシステム』とは『ITを使ったシステム』と言っているのと同じくらい意味が分からない。
どういう所がAIなのか、もうちょっと聞いてみよう。
「AIって言うのは、学習機能を持っている処理系の事を意味するんだ。人間だって子供の頃から経験を積めば頭が良くなっていくでしょ? 同じようにシステムに色々な情報を教えることでシステムの頭が良くなっていく。これをAIと言う」
「ち、ちんぷんかんぷんかも……。どうやって教えるの?」
「基本的には大量のデータを入れていくだけさ。例えば、瀬川さんの写真を撮って、これは瀬川さんです、と入力して保存する。瀬川さんの写真を沢山集めて登録していくと、そのうち瀬川さんの写真とそうでない画像をシステムが判定出来るようになる」
「分かったような分からないような」
これを教師あり学習という。
「逆に、とにかくひたすらデータを叩き込んで行くだけ。そのデータが何を意味するのかは勝手にシステムが判断するってこともある」
「そんなことも出来るの!?」
これを教師無し学習と言う。
「これらを使って、今回は自然言語解析をやってみよう。バーチャルアイドル、メイプルリンクとお話する機能を作るぞ!」
「す、凄い……。本当にAIだ」
「まあ、学習済みのAPIを使わせて貰うんだけどね」
「はい???」
―――音声認識API。
音声データを入力すると意味を解析してくれるシステムだ。それを構築するには途方も無いデータと労力を必要とするが、今の世の中は学習済みのプログラムを提供してくれている企業があるのである。
カレイドスコープもこの分野に手を出しており、ベータ版ではあるが音声認識APIが公開されている。ベータ版なので今までのようにブラウザ操作で構築出来るようにはなっておらず、プログラミングしてAPIを呼び出す必要がある。
とは言え、基本はインターフェース方式だ。
一番難しい言語解析の部分はAPIに丸投げしており、例えば「おはよう」という趣旨の音声データをAPIに送り込むと、APIが解析して「GootMorning01」という文字列が戻ってくる。
文字列まで取得出来れば後は単純だ。その文字列に応じて指定の音声を出すようテキストを登録し、モデルのインターフェースを呼び出せば良い。
これで紫苑自作プログラム、『お話メイプルリンクちゃん』が完成だ。
―――。
「プラグインはもう登録しておいた。音声データとCGモデルはさっき作ったヤツに差し替わっているから……。まあいいや。使ってみれば分かるよ」
紫苑がプラグインを有効化すると、画面に作ったばかりの楓のCGが出てきた。
『こんにちは。メイプルリンクです。何か話し掛けてね♪』
にっこり笑った楓が話し掛けてくる。
「私が喋ったよ!?」
「今のは単に固定テキストを出しているだけだ。ここからがAIだよ。話かけてみるね」
紫苑はマイクを手に取りメイプルリンクに話書けた。
「おはよう、メイプルちゃん」
『おはようございます。今日も一日、頑張ろうね』
えいっとメイプルリングが頑張るポーズをした。
「す、凄い……」
「他にも出来るよ。おやすみ、メイプルちゃん」
『まだお昼なのに、もうお休みなの? でも、今日はあなたとお話出来て楽しかった。また明日も会いにきてね。バイバイ♪』
時間判定を持たせているとは。流石紫苑だ。芸が細かい。
「瀬川さんも話してみる?」
「じ、じゃあ……。メイプルちゃん! 僕、メイプルちゃんのことが好きです! 世界で一番好きです! 大好きです!」
(……ゲッッッ!?!?!?)
普通は「歌って」とか「笑って」とか、そういう動作の指示だろうッ! 何でそんな弾が出てくる!? しかも一球目で!?
『ありがとう。私も、貴方のこと、大好き。私も、貴方となら……。ぜひお付き合いして欲しいな……』
やっちまった!
お話メイプルリンクちゃんは、回答を用意していない質問には共通で『ゴメンネ、分からないの』と答える。しかし、変態の紫苑は告白に対する返答というパターンを作り込んでしまっていたのだ。
まさか楓にこのパターンを突かれるとは思っていなかったので油断した。出てくるテキストは全部紫苑作成の願望だ。痛過ぎる。
「は、はは……。も、もし僕がファンだったら、こんな風に答えて貰えると嬉しいなって機能があると人気出ると思って……。はは……」
(……ゲゲゲッッッ!?!?!?)
笑って誤魔化そうと思ったが、楓の両目からポロポロと涙が溢れて出てきていた。
(……まさか、泣くほど嫌だったッッッ!?!?!?)
ペロペロ神だったり、夜な夜なこんな物を作り込んでいたり。流石に気持ち悪いか? と思ってしまうのは正常な男の反応である。
しかし、楓は別にそういうわけではない。
「ごめんね、ごめんね。こんなに頑張ってくれているのに……。お返事出来なくて。私も、新条くんのこと、大好きなのに。お返事出来なくてごめんね……ッ!」
「い、いや、べ、別にこれくらい……」
(……え?)
今、自分のこと好きって言った?
「もう少しだから。もう少しで私、頑張れるから。だから、もう少しだけ待ってね……ッ!」
(……チ、チャンスだ! ここが勝負の時だッ!!!!!!)
楓は挙動が全く読めない。いつでも告白して良さそうな、いつ告白してもダメそうな、何が何だかよく分からない。だから今の今に到るまでグダグダの関係を続けてきたが、しかし今、突然、何の前触れも無くポロッとチャンスが見えた。
AIにも負けない自分の才覚と反射神経で、一瞬の勝機を掴む。
決めるのは今しか無いッ!
「瀬川さんッ!」
「はい……ッ!」
「大丈夫ッ! 僕、瀬川さんが準備出来るまで、ちゃんと待つからッ! 僕、瀬川さんのこと大好きだからッ! 安心してね。時間は掛かっても良いんだ。瀬川さんのペースで、頑張っていこう。僕、瀬川さんのそういう頑張り屋さんなところ、大好きだよッ!」
「新条くん……ッ!」
二人はどちらからともなく顔を寄せて目を瞑ると、優しく唇を合わせていた。