インターフェース
「け、結構出来上がってきたね……」
「ありがとうございます……」
それからしばらくは紫苑の作業だった。
七頭身半モデルをベースに楓が指定した白のタンクトップとミニスカの衣装を着せる。次に、録音した音声をベースに雑音を抜いて微調整する。
この作業は紫苑の自制心が要求される。編集作業は細かい部分を追求すればどれだけ時間があっても足りない。作品は細部まで拘るのが紫苑の性格だが、それをやっていると日が暮れてしまうため、今日の時点では楓とイメージが合わせられる程度のレベルで妥協し、細部の作り込みは後日とする。
続いて楽曲だ。
「音楽はどうするの?」
「カレイドスコープ内にメニューがあるから、それを選ぼう」
音楽と言っても、自ら楽曲を作成するなど楓どころか紫苑でも無理だ。かと言って勝手に市販の人気曲を使用するのは著作権法違反である。しかし、そこは世界的な大企業であるカレイドスコープのパワーだ。カレイドスコープはレコード会社と契約を結んでいて、企業買収も行っている。カレイドスコープ内であれば好きに使って良い楽曲一覧がメニュー化されているので、その中であれば著作権を気にしなくて良いのだ。
「好きな曲はある?」
「コレ! コレ! 絶対コレ!」
楓が選んだ曲は有名な日本の音楽バンドの曲だった。
(……いつかきっと理想の自分に生まれ変われる日が来る。ふむ)
この曲は有名だが自分達が生まれる前の曲だ。沢山の音楽が並んでいるにも関わらず迷わずこの曲を選んで来るとは。余程好きなのだろう。楓のこのセンスには何か意味を感じたが、特にそれに対し深く尋ねることはしなかった。
「曲はこれで決まり。振り付けとかダンスとかは最初から付いてる。カスタマイズも可能だけど、最初はこのままで良いと思う」
「便利だね~」
メニュー一覧の曲は音楽データだけでなく、CGモデルに対応する振り付けデータもセットになっている。
カスタマイズも可能だが、それでも振り付け全体を完全カスタムするのは余りにも大変過ぎるので、振り付けを部品に切り分けて一部を差し替える形でカスタムするのが主流だ。
例えば、「手を上げる」というCGモデルを作って登録しておけば、曲の特定タイミングで自動的に「手を上げる」の挙動が呼び出され、キャラクターが手を上げてくれる。変わった使い方としては、「手を上げる」という動作名で、手を上げてようとして転ぶアクションを登録しておくと、曲の途中でキャラがコケる。
指定した動作名で処理を登録しておけば、実行側がその名称で紐付けて処理を呼び出してくれる。これを「インターフェース」と言う。
「背景はどうしよう?」
「背景が宇宙で、下がお月様とかって出来る?」
「月面ステージを選択、と」
月面や宇宙空間など、現実ではあり得ない条件をセット出来るのはバーチャルアイドルならではの長所である。
こうしてスポットライトの挙動なども調整して、遂に歌って踊れるバーチャルアイドル、メイプルリンクが完成した。
「素敵!!!!!!!! 私、こういうのが欲しかったの! これで私も歌って踊れるアイドルなんだ♪♪♪」
「気に入って貰えて良かったよ」
楓は目を輝かせて喜んでいる。頑張った甲斐があったというものだ。
「それでね、これは僕からのプレゼントなんだけど、モデルと音声データがあれば作れるかなって思って作ってみたんだ」
「作ってみたって?」
「ズバリ、AI機能だッッッ!!!!!!」
「AI~~~~ッッッッ!?!?!?!?」