CG作り2
「瀬川さんのCGはもう作ってあるの」
「そうなの!?」
「時間が掛かるから前以て作っておいたんだ」
「ゴメンね、お手間をおかけして……」
「これくらいお安いご用さ」
(……瀬川さんの為なら何でも無いし♪)
楓をイスに座らせ直した紫苑は仕切り直ししてCG作りに着手する。とは言え、いくら紫苑でも休日の昼過ぎから着手して夕方までに完成させるのは無理というものだ。それに、芸術家肌である紫苑には紫苑の感性、拘りというものがある。まずは紫苑の感性でほぼ全部作ってしまって、楓の好みでカスタマイズを加えるという方針だ。
「もう瀬川さんのアカウントに入れてあるよ。見てみようか」
紫苑はマウスを操作し、カレイススコープの管理画面を開いた。
―――3次元コンピュータグラフィックスソフトウェア。
3DCGの歴史は古く、有名なソフトウェアの多くは1980年代に登場したと言われている。ソフトウェアと言うと今でこそパソコンにディスクでインストールするというイメージがあるが、当時はそもそもパソコンというもの自体が一般的ではなく、メインフレームと呼ばれる該当機能に特化した特殊マシンを使用していた。画像処理のマシン負荷は重い。コンピュータの処理には機械毎に得意分野というものがあり、当時の機器性能では画像処理専用に特殊構築された専用マシンでなければ実現不可能だったのである。
値段も恐ろしく高く、モノによって高低差は激しいが、余程ケチっても数千万は覚悟するくらい高かった。サイズも巨大で家の床が抜ける恐れがあるか、家の天井より高さが高い。要するに、とても個人で調達出来るようなシロモノではなかったということだ。企業が会社を投じて環境を整備するのが3DCG業界であった。
時は流れ、パソコンの時代。技術の進化は恐ろしいもので、一般家庭に配備出来るパソコンで3D処理が可能なくらい機器性能もソフトウェアの技術も向上した。それでもやはり3D加工はマシン負荷が重い。作業効率を上げるために、職人達は画像処理に特化したプロセッサを搭載した専用パソコンを構築した。普段用のパソコンとは別に画像処理用パソコンを持つくらいは当たり前であった。
更に時は流れ現在。時代は更に進化を遂げた。ネットアイドル特化型SNS「カレイドスコープ」の目玉機能の一つ、コンピュータグラフィックス加工機能だ。
何と、カレイドスコープでは一般的なWebブラウザから3DCG処理を行うことが出来る。重い3D加工処理はインターネットを経由した向こう側にあるカレイドスコープのクラウド環境サーバが行っているので、手元のパソコンに性能は全く不要。スマホでも作業出来る。ソフトウェアのインストールも必要無い。
今やコンピュータグラフィックスはスマホから無料で開発出来る時代なのだ。とは言え、作業効率の都合から紫苑はパソコンで開発している。
―――。
「いくつかパターンを用意してみたよ」
「パターン?」
「今時のCGと言えばリアルさが売り物、と言う人もいるけどね、僕としては必ずしもリアルが正義とは言えないと思うな」
「と言うと」
「多少はデフォルメするのもアリってことさ。特に瀬川さんの場合、本物が写真を出しているのに写実的でリアリティのあるCGを出しても意味が無い。写実的であることと芸術は全然違うんだ。ここはちょっとバブみを持たせて可愛らしくしようと思う。バブみっていうのは」
「あ、それ知ってる。赤ちゃんがバブバブって意味でしょ? 幼い感じが可愛いってこと」
「うん。正解。早速見てみようか」
紫苑はブラウザを操作し、複数枚の画像を開いた。最初は瞳が○で口をポカーンと広げた幼いイメージの画像だ。
「まず、二頭身。これが一番デフォルメが強い。基本的にはコメディ用だね。笑いを取りたい時とか、気楽に使える」
「可愛い♪」
二頭身はギャグキャラだ。楓は天然ボケなので実はこれで十分かもしれない。
「次に五頭身半から七頭身くらいを見てみよう」
三枚ほどの画像を並べて表示させた。
「イメージ的には、小学生高学年から中学生くらいの雰囲気かなぁ。歌って踊らせるとなるとこれくらいの頭身はあった方が映えると思うな」
「これ、例えば服装を小学生風にしてランドセル背負わせたりできるの?」
「こんな感じ?」
紫苑はヘッダーのメニュー画面から着せ替えを選ぶと、一瞬で服装が切り替わった。
「凄い! こんなことも出来るんだ。ならドレスとかも自由に選べるってこと?」
「それがCGの良い所だよね。自分で全部作ることも出来るし、カレイドスコープが用意している基本モデルを使うことも出来て、それをちょっとカスタムすることも出来る。いくつか見てみようか」
「わぁ」
オーダーに応じて服を切り替えていくと、楓は目を輝かせる。そう言えば、女の子は着せ替え人形が好きというイメージがある。自分をモチーフにしたキャラに色々な服を着せることは女の子にとっては凄く楽しいのかもしれない。
「ほ、他には!?」
「ヒューマンモデルは次が最後。七頭身半だ」
「八頭身じゃないの?」
「八頭身になると立派過ぎてスーパーモデルみたいに見えてくる。リアルの瀬川さん自身が七頭身半だし、ここが上限だと思うよ」
「ぷー」
七頭身半、高校生の楓が表示された。
「七頭身半という点は本物と同じだけど、写実的にはしないでバブみを入れて特徴をアピールする形にした。目とかのパーツも本物より大きい。これだとファンタジー風なドレスとかを着ても似合うし。どう? 今までのヤツでどれが瀬川さんの好みかな?」
「これ! 七頭身半! 全部良かったけど、これが一番大人っぽいもん!」
楓は可能な限り自分を大人っぽく見せたいようだ。超華麗なスーパースターを理想に描いているように思える。しかしそれは無理し過ぎというものだ。
「じゃあ、これをベースに服を選んで動きを付けていこうか」
「服は私が選んで良い?」
「どうぞ」
マウスを楓に渡してバトンタッチだ。服は好きに選んで貰おう。
「えーと。とりあえずデフォルトにして」
カチッ。
「あっ!?」
と思った時には既にパソコンの中の楓が一糸纏わぬ赤裸々な姿になっていた。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッッッ!?!?!?!?!? 何これッッ!?!? し、し、新条くんッッ!?!? 時間が掛かるから前以てじっくり時間を掛けて夜な夜な自分一人でこんな物を作って何してたのッッ!?!?」
「ち、違ッ!? これはカレイドスコープの仕様ッッッッ!!!!!!!! そりゃ必要に応じて水着とかも着るわけだからデフォルトは裸になってないと自由に着せ替えが出来な……」
「見・な・い・でッッッ!!!!!!」
「さ、さ、さっきは自分から進んでヌードになろうとしてた癖に……痛ッ!? 痛たたたたッッッ!?!?!?」