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メイプルリンク

「いらっしゃい、瀬川さん。久しぶりね。あれから来ないから気になってたわ。紫苑ったらこの通りボーっとしてて自分からデートのお誘いをしたりすること出来な」

「はいはいはいはい。ケーキと紅茶は貰っていくから。終わり終わり」

「あらあら」


 この場に母は交えたく無い。用意されていたケーキと紅茶を持って速やかに紫苑の部屋に移動した。



―――。



「今日もお邪魔します」

「楽にしててね」

「はい」

(……さて、今日も女の子を部屋に引き込んでしまった)


 紫苑がケーキと紅茶を持ち部屋に入り、後ろから楓が続く。ノコノコと何の警戒心も無い。


 これで二度目になるが、やはり気持ちが落ち着かない。男が自分の部屋で女の子と二人きりという状況は、男の方が圧倒的優位に立ってしまう。これが逆に罠なのだ。女の子は圧倒的弱者という道徳的優位に立っている。だからこの状況で男は行動を起こしてはいけない。男は自制心という人間的強さが求められる。


 だが、どう心を清めても、楓はむしろ自分から誘っているようにしか見えない。内心ではOKだからこんなに無防備なんじゃないの? 普通に考えてそうとしか思えないでしょ? いや、これが既に男特有の邪念なのか? 分からない。これから一体どうなってしまうのか。


 その時、紫苑の背中で部屋に入った楓が部屋の扉を閉めた。


 カチャ。


(……ハッ!?)

「えっ?」

「えっ? な、何?」

「あっ、いや、別に……。ほら、座って座って」

「は~い」


 ただそれだけだった。


(……フェイントかけやがってッッッ!!!!!!)


 どうも自意識過剰になっているらしい。しかし、放っておくと楓が何か始めるような気がしてならないので速やかに机の前のイスを引いて楓を座らせる。紫苑も自分のイスに座って作業スタートだ。


「さて、今日は西沢さんが考えたメイプルちゃんの新企画、バーチャルアイドル始めました、だったよね」

「うん。あの百合ちゃんが考えてくれたんだもん。絶対イケるよ!」


 新企画、バーチャルアイドル始めました。これはファン層を広げることが狙いだ。


 カレイドスコープでは九八パーセントがバーチャルではない実在の人間、つまりリアルアイドルである。バーチャルアイドルは僅か二パーセントしかいない。これはリアルアイドルは女の子が自分で写真を撮れば成り立つのに対し、バーチャルアイドルは技術力が必要だからだ。また、真相は不明であるが、紫苑の友人の御堂がそうであったように、バーチャルアイドルの中の人は恐らく全員が男だ。男が妄想で都合の良いキャラを作っている。それがバーチャルアイドルだ。ネカマである。


 しかし、都合の良いキャラを作れる、それが長所だ。


 楓は歌も踊りも出来ない。しかし、バーチャルアイドルならば歌も踊りも自由自在だ。メインコンテンツである楓本人のメイプルと並行し、本人をモチーフとしたバーチャルアイドルキャラをデビューさせて、本人が出来ない歌も踊りを担当させる。バーチャルアイドル好きのファン層を呼び込む効果もあるだろう。これが狙いだ。


 リアルアイドルとバーチャルアイドルの二刀流は珍しい。斬新さという点でも特筆するものがある。中々の名案であった。


「これで私も憧れだった格好良いカリスマネットアイドルになれるのよね☆★☆★」

「架空だけどね……」

「それでね百合ちゃんと新条くんばかりに頼っちゃダメだと思って、私も設定を考えてきたの。こんなバーチャルアイドルになれたら良いな☆★☆★」

「へえ、どれどれ」


 ネットアイドルは自分の好きな事で続けることが一番良い。喉も渇いた事だし、紫苑は持ってきたアイスティーを口に含みつつ、楓の差し出したノートに目を通した。



―――魔法少女メイプルリンク。


 都内の高校に通う地味で普通な高校生メイプル。その正体は地球の平和を守る正義の魔法少女メイプルリンクである。メイプルリンクは古代地球を統治していた伝説の女王、クイーン・メイプルの生まれ変わりで、ハートの中に持っている七色クリスタルの力で変身し、色々な魔法を使うことが出来る。

 インターネットが盛んになった現代、メイプルリンクの主な活動場所はインターネットの中だ。魔法の力でパソコンの中に入り、悪の秘密結社のスーパーハッカー集団ダークプリズナーズと戦っている。

 必殺技はメイプルリンクフラッシュ。IQは二億四千万。世界百カ国語を話せる。歌とダンスが得意。料理はプロ級の腕前。運動神経も良くて、背が高くて、スタイルも良くて、モデルもやってて、声も綺麗で、忍術も使えて……。



―――。



「ブーーーッッッ!?!?!?!?」

(……何じゃこりゃッッッ!?!?!?)


 思わず茶を吹き出した。


「どうかな☆」

「な、何なのさ、一体これはッッッ!?!?!?」

「小さい頃からね、私はこういうのが良いなってずっと思ってたの。せっかくバーチャルアイドルになるんだったらバーンと大きく行かなきゃ。男の子もこういうの好きでしょ?」

「あざと過ぎだよッ! 設定盛り過ぎッ! やり過ぎッ! こんなのあり得ないからッ!」

「ええ~っ」

「ええ~っ、じゃない! こんなの出したら今まで作ってきたメイプルちゃんのイメージが台無しだから! あくまで本家はメイプル! ただ本物のメイプルは勉強で忙しくて歌ったり踊ったりは出来ないから、代わりにバーチャルキャラを作ってみました。みんな見てね。これで十分ッ!」

「ぷー」

「ぷーじゃない!」


 結局、楓の考えた案は「メイプルリンク」という名前だけが採用となった。

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