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瀬川さんはネットアイドルになりたい  作者: 大橋 由希也
第三章 学校一のネットアイドル
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新企画

「は~い。集合集合! 全員集合!」

(……一体何があったんだ?)


 百合と楓は、結局ずっと戻って来なかった。もしかしたら早退したのではないかと思っていたが、授業が全部終わった夕方になり、ようやく戻ってきた。


 二人で何か話し込んでいたようだ。放課後、百合の号令により、紫苑、楓、斉藤、御堂と関係者全員が集められた。


「みんなに集まって貰ったのは他でもありません。メイプルちゃんこと、この楓ちゃんを、この学校で一番のネットアイドルにするために協力して貰います! はい、楓ちゃん!」

「み、皆さん。何卒宜しく御願いします……」

(……西沢さんがプロデュースに乗り出すのか)


 百合自身が学校で一番のネットアイドルだから、ネットアイドルのノウハウもよく分かっている。その百合がプロデューサーとして立つというのは実に強力な増援だ。


「学校で一番って、それが西沢さんでしょ?」

「お前がいたらどうやったって瀬川が一番にはならねえだろ。引退するのか?」

「それじゃ後味悪いでしょ。私は今のままで、楓ちゃんは私以上のネットアイドルになって貰うの」

「西沢さんってポイントいくつだっけ?」

「六百万」

「瀬川さんは?」

「一○○くらい……」

「無理無理。どんな奇跡を起こしゃいいんだよ。妥協しな」

「妥協なんてダメーッ! だからこうしてみんなに集まって貰ったんじゃない」

「僕達に何が出来るか分からないけど」

「まあ、話は聞いてやるよ」

「それで良いの」


 百合のパワーで斉藤と御堂も参戦することになった。


「知ってのとおり、ネットアイドル業界はとっても競争が厳しいの。殆どの人はお気に入りが十にも満たないで消えていく。その点、楓ちゃんはもうお気に入りは三○を超えて、ポイントも一○○まで来ているから、第一の壁はクリアしてる。紫苑くんのお陰だね」

「ま、まあ、頑張ったから……あれ?」


 紫苑がスマホから楓のアカウントを覗くと、ポイントは五○○○○を超えていた。


「急に五百倍に増えてる!? 一体何が起きたの!?」

「私が宣伝したからね。私は高校生全国第三位のネットアイドル。私の友達ですって記事を書いてアピールしたの。お気に入り二百万からのリンクは強力だよ♪ でもリンク張っただけで普通はこうはならないよ。半日でこれだけ伸びるってことは、それだけメイプルちゃんは力のあるコンテンツってことだね♪」


 ネットアイドル業界の特徴は、ヒットすると爆発的に伸びることだ。一日で五百倍は珍しく無い。短期間での六百万超えも無くは無い話なのだ。


「そして、ネットアイドルはリアルでの活動も大事。楓ちゃんはここが弱点だわ。怪我の功名と言うか、今日の騒ぎで楓ちゃんがネットアイドル始めたことはもう学年中が知ってる」

(……僕が騒いだからなぁ)


 クラスメイトの面前であんな宣言すれば、それは学年中の注目を集めるというものだ。今、二年生の中では紫苑と楓が一番の注目の的である。

 しかし、楓は恥ずかしそうに俯いて黙ったままだ。やっぱり楓はリアル活動には向いていない性格である。


「でも、一年生や三年生までは届いていないかも。そこで斉藤くん」

「何だ?」

「斉藤くんはサッカー部だよね。先輩や後輩に宣伝してくれない? メイプルちゃんはコンテンツとしての力は強いから、存在を知って貰えればどんどん広まるはずなの」

「それくらいなら別に良いぜ。中学の後輩と、別の高校に行ったヤツにも送っとくか」


 早速斉藤はメールを打ち始めた。斉藤は中学時代もサッカー部で、体育会系の繋がりというものがあるらしい。六百万からのリンクと比べると地味に見えるが、長い目で見るとこういう草の根活動の方が力を発揮することもあるものだ。


「そして次に、メイプルちゃんに新しい進化を加える。私的にはこれが切り札。メイプルちゃんの進化の為に、この学校で六番目のネットアイドルの力を貸して貰うわ」

(……あっ!? それはッ!?)


 紫苑と斉藤はチラッと御堂に目を配った。御堂は目を泳がせながら知らん顔している。


「御堂くん? いえ、パステルアイちゃん?」

「な、何のことかな?」

「とぼけでも無駄よ! バーチャルアイドル、パステルアイちゃんの正体は貴方よ!」

(……ウゲッ!? バレてる!?)



―――バーチャルアイドル。


 実物としての人間が存在しない、架空のキャラクターアイドルである。


 電子アイドルという概念は相当に古くから存在する。SF作品で、電子的に作られた人間が登場し、それが美少女で、かつ職業的なアイドルか、アイドルではないにしても世界観の支配者であったりするとか、ともかく人間に絶大な影響を及ぼす電子の妖精、そういったイメージのキャラクターはSF萌芽期から存在していた。


 そこからアニメのアイドルキャラやアイドル育成ゲーム経由した二十一世紀、今やコンピュータグラフィックスの時代である。今の時代においてバーチャルアイドルと言えば、コンピュータグラフィックスで描画して歌や踊りを披露するキャラクターのことだ。


 そして、アイドル特化型SNSであるカレイドスコープには、当然のようにバーチャルアイドル部門を備えている。



―――。



「バーチャルアイドル、パステルアイちゃんの中の人? 毎日精力的に更新を頑張って偉いね。今や凄い有名なバーチャルアイドルだもんね。でも、あんな破廉恥な動画をアップロードして大丈夫? 私達ってまだ未成年だよね?」

「さ、さあ、何のことだか……」

「シラを切るつもり? 全部分かってるんだからね」

「うう……」


 そう、何を隠そう、有名なバーチャルアイドル、パステルアイちゃんを作っているのは、直球のアニオタでもあるこの御堂なのだ。基本的にカレイドスコープはアダルトコンテンツは禁止だ。しかし、バーチャルアイドルは実在の人間が存在しない架空のキャラなのでアダルト規制が比較的緩い。アダルトの一線を多少踏み越えていてもアカウントが凍結されない運用になっているのである。


 それを良い事に御堂は凍結ギリギリの殆どエロ動画みたいなものを作ってアップロードし、人気を集めている。ペロペロ神にも負けない神職人の一人なのだ。


「バーチャルアイドルの中の人が誰なのかってのは追求しないのがネットアイドル界の暗黙のルールだから私も追求しなかったけどね、人の口に戸口は立てられないね。あんな動画作っているのがバレたら学校中の女子からどんな視線で見られちゃうのかな? 学校中の女子の白い視線に耐えられる? 御堂くんじゃ、ちょっと厳しいんじゃないかなぁ?」

(……うわっ、酷いッ!!)


 手口が楓と全く同じだ! 楓と友達だから似た者同士なのか、それとも近頃の女子はみんなこうなのか。セクハラで攻められると弱いという男の社会的立場を逆手に取りやがって! と言いたいがやはりこの状況では男に分が悪い。


「……ぼ、ぼ、僕に何しろって言うのさ!?」


 あっさりと御堂は折れた。


「大したことじゃないの。ただ、前から疑問に思ってたんだ。バーチャルグラフィック動画を作るって、結構難しい事だと思うのよね。普通は専門学校卒業生くらいじゃないと難しいんじゃないかな? 高校生の範疇を超えた技術力が無いと無理だと思うの。御堂くんもパソコン得意そうだけど、いくら何でもバーチャルグラフィックまでは……。しかもあんな精巧に。あの精巧さには心当たりがあるの。誰かに手伝って貰ったんじゃない?」

「う……」


 ブルブルと震える手で指さした先にいるのは、紫苑だった。


「ハハッ! そうさ! 新条に手伝って貰った十二人のネットアイドルの一人、パステルアイとは僕の事だ! 動画がエロ路線なのも新条に入れ知恵されたからだ!」

「み、御堂ッ!? お、お前ッ、裏切ったな~~~ッッッ!」

「日本全国の漢達がパステルアイの更新を待ってるんだ! 僕はそんな暇じゃない! そもそも主犯は新条だろっ! 瀬川さんがバーチャルアイドルにも手を出すなら、君がやれよなッ!」

「このキモオタが~~~ッッッ!!!!!!」

「は~い、はい。そこまで! と言うわけで、メイプルちゃんの新企画、バーチャルアイドル始めましたは紫苑くんが作ってね♪」

「ええええッッッ!?!?!?!?」

「こんなのお前がやるに決まってんだろ。やれ、新条!」

「よ、宜しくお願いします」

「わ、分かったよ。も、もちろんやるよ、僕がッ!」


 まさか3D動画のテクニックを公開する羽目になるとは。しかし、こんなことは御堂には死んでもやらせるわけにはいかない。


 楓もペコリと頭を下げる。こうして紫苑がメイプルのバーチャルアイドル版を作ることになった。

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