表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
瀬川さんはネットアイドルになりたい  作者: 大橋 由希也
第三章 学校一のネットアイドル
24/44

捜索

(……楓ちゃん、どこ行っちゃったのかな?)


 紫苑がかつて複数人のネットアイドル活動を手伝っていたことがショックだったらしく、楓が行方不明になってしまった。親友の百合が捜索に乗り出す。


 百合は性格は明るくコミュケーション能力に優れ、要領も良くて機転が利く。胸はペッタンコだが容姿は可愛く、何をやるにしても頼りになる万能な女の子だ。行方不明探しのような何をどうすれば良いか分からないような事でもキッチリやってのける。欠点は無い。


 まず百合は玄関に行き、下駄箱を調べ、楓の革靴がそこにあることを確認した。つまり、楓は校舎の外には出ておらず、中にいる。


 そこから先は推理だ。


 今は昼休みだから、生徒がいる可能性が考えられるのは、教室、食堂、図書館だ。まず、教室にはいないことは分かっている。


 次に食堂だが、この可能性は限り無くゼロだ。楓はお弁当を持ってきており、お弁当カバンが席に無い事は確認している。楓はお弁当を持ってどこかに移動している。食堂で食事を注文せず友達と一緒にお弁当を食べる生徒は多いが、楓はこれは絶対にやらない。楓は一人でお店に入れない性格をしている。一人でポツンと食事をモグモグしている姿を誰かに見られる事を極度に嫌がる。百合と楓は普段一緒にお昼を食べているが、以前に一度だけ、いつも元気な百合が珍しく風邪ひいて休んだ時に楓がどうしていたのかと聞いてみたら、目が泳いで余所余所しくなり、追求してみたところ、何とトイレで一人で食べていたそうだ。


(……トイレ!)


 キランと閃いた。楓はトイレの個室に引き籠もっている! 道を引き返して二年生のフロアである二階トイレに向かった。女子トイレに個室が六つあり、それらは全て埋まっていた。しばらく様子を見て、不自然に長く閉まったままの個室が無いかを観察する。しかし数分も待っているとどの扉も開いて、結局楓はトイレにはいなかった。


 トイレはハズレだったか。当たり前と言えば当たり前で、なんぜわざわざトイレに引き籠もらねばならんのか、という話だ。となると、残る候補は図書館だ。一人で静かにしたいなら図書館がベストである。しかし、親友の関係である百合にはどこか図書館は違うのでは無いか、という勘が働いていた。結局のところ、楓は人目を嫌がるのだ。図書館は静かなところではあるが生徒は多い。平常時ならともかく、いざ困った時に逃げ込む先が広々とした図書館かと言われるとピンと来ない。やっぱりトイレだ。狭いトイレの個室に引き籠もっているのが一番しっくり来る。親友としての勘がそう言っている。


 その時、ふと思い出した。一階一年生フロア、二階二年生フロア、三階三年生フロア、しかしこの公社は四階と五階がある。生徒数が多かった昔は使っていたそうだが、今は基本的には使っていない階層である。この未使用階層にもトイレがあるのだ。


 早速百合は四階に向かったが、この階は違う。四階だと三階の三年生のざわめきが聞こえてくる。楓はひたすら誰もいない所に逃げ込んでいくから、いるとすれば五階である。四階はチェックもしないで素通りし、五階に足を踏み入れた。


 五階は本当に誰も使っていない階層なので、物音は静かだし、匂いも違う。長い間誰も使っていない建物の匂い、鉄とコンクリートの匂いが漂っているフロアだ。足音を忍ばせてトイレに入っていくと、人の気配があった。


 カサカサ……カチッ……カサカサ……。


 息遣いと絹擦れの音がする。どうやら誰も来ないと思って扉を閉めていないようだ。よく観察すると、このトイレは水が流れていない。なるほど、トイレでお弁当を食べるなど正気の沙汰では無いと思っていたが、水が止められてトイレとして使用出来ないトイレならばただの箱である。楓も楓なりに場所を選んでいたということだ。


 一番奥の個室に迫り、スーッと物音を立てずに顔を半分だけ出して覗くと、そこには便座に腰を掛け、スマホに必死で自分が来たことに全く気付いていない哀れな少女の姿があった。


「楓ちゃん」

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッ!?!?!?」

「わわっ!?」


 ビックリしてポンッとスマホが飛んでいきそうになったので、百合は落下する前に反射神経良くキャッチしてあげた。


「ゆ、百合ちゃんッッッ!?!?!?」

「もう、楓ちゃん。一人でこんなところにいるなんて。こんなところでお弁当食べたの? もうお昼休みも終わりだし、私はご飯食べ損ねちゃった。ほら、一緒に教室に戻……」


 それは偶然だったのだ。


 楓は紫苑とのメールのやりとりに集中していて、スマホに写っているのはメール画面であると思っていた。百合は紫苑の隣で楓のメールを見ていたから、今更見てはいけないものが映っているとは思わなかった。だから何気なく楓のスマホの画面を見てしまった。


 映し出されている画面は違うものであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ