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瀬川さんはネットアイドルになりたい  作者: 大橋 由希也
第三章 学校一のネットアイドル
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大炎上

(……くそっ、この野次馬共め。面倒だなッ!)


 単に昔、カレイドスコープの開設を手伝っただけなのに、まるで自分と百合が付き合っていたかのような誤解をされてしまった。クラス中が大騒ぎだし、何より楓にも誤解されているような気がする。


「み、みんな誤解だって! 私と紫苑くんは別にそんな関係じゃなくって!」

「前から噂はあったんだよね」

「学校一のネットアイドルにちらつく男の影」

「やっぱり新条だったか」

「だから違うってば!」

(……これはマズいぞ!)


 百合が矢面に立ってくれているが、こういう群衆は面白おかしいスキャンダルが大好きである。一度炎上したら何が何でも有罪の方向に持って行こうとするから質が悪い。紫苑は別に失う物なんか何も無いのだが、百合は有名なネットアイドルである。ここで対応を誤って変な噂がネットに流れたらそれこそ大ダメージだ。守ってやらねばならない。


「紫苑くんも黙ってないで何か言ってあげて!」

「よ、よし!」


 かくなる上は仕方が無い。この手は使うまいと思っていたが、事態を沈静化させるためにはインパクトの大きい揺るがない報道をする必要がある。いよいよ紫苑も覚悟を決めた。


「みんな聞けッ!」


 紫苑は壁になるように百合の前に出て大きな声で宣言した。


「僕が好きなのは瀬川さんだッッッ!!!」


 何と、クラスメイトの面前で愛の宣言だ。これには流石に周囲のアホな野次馬共も「おお~っ」と歓声と共に圧倒されて黙るしか無かった。


「アイツ、やりやがった」

「瀬川さんに直接言えば良いのに、全く」


 斉藤と御堂も関心する一方でどこか呆れている。


「一部の人は知っていると思うけど、僕はパソコンとかカレイドスコープとかに少々造詣がある。だからネットアイドルを始めたいという人に何度かカレイドスコープのアカウント開設を手伝ってあげたことがあったんだ。西沢さんもその中の一人というわけさ。ただそれだけだ。そうだよね、西沢さん?」

「え? あ、う、うん……」


 紫苑が突拍子も無いことを始めたので百合もついて行けずキョトンとしている。ともかくこれで事実関係はハッキリしたことで、一番最悪な話に尾ひれが付いて広まる事態は防げるだろう。


「ここからが重要だ。実は、瀬川さんもネットアイドルを始めた」

「えっ、アイツが!?」

「俺は知ってた」

「ランキングに載ってたからな」


 楓がネットアイドルを始めたことは秘密だったが、もうランキングに載って出回り始めているので既に秘密ではなくなっているという判断だ。


「もちろん僕は瀬川さんのアカウント開設も手伝ったさ。大好きな瀬川さんのアカウント作りを僕がやらなくてどうする? 必死で頑張ったね。ただ、僕は瀬川さん以外の子の手伝いも手を抜いたわけではない。その時その時で全力で頑張った。芸術家として当然だ! ただ、瀬川さんは僕が他の子のアカウント作りもしていた事を知らなかったみたいで。それでちょっと何かおかしな誤解を与えてしまったようだ」

「お前が手伝ったってのは、西沢の他に何人いるんだ?」

「それもこれから明らかにしよう。今から瀬川さんにメールを返信する。このメール一発で誤解を解いてみせる! 僕は他の女の子に親切にしたこともあるが、僕が好きなのは瀬川さんだ! これを分かって貰わなきゃ。頑張るぞ!」


 炎上対策には公開文書。これも手堅いやり方だ。ここでキッチリ決めれば一気に沈静化する。さっそく紫苑はメールを打ち込み始めた。


「よし出来た。みんな、見てくれ!」


 そして全員に文面を見せびらかした。


『誤解だよ、瀬川さん! 僕はパソコンが苦手な女の子がいたからちょっと手伝ってあげただけだよ! ほんの十二人くらい。西沢さんが最初で、瀬川さんは十三人目。西沢さんの時は僕も初めてだったから大変だったなぁ。どうしたら良いか分からなくって、上手く出来なかった。でも一回経験しておけば後は何てこと無いものさ。瀬川さんの時は上手に出来たでしょ? 一番上手に出来たと思う。何せ僕は過去十二人分の経験を生かして頑張ったんだから!』


 そして送信する。さて、どんな返事が来るか。少し待つ。


 ピピッ……。


『信じらんない!』


「ゲゲッ!? な、何で???」

「当たり前だろッ!」

「君、論点ズレてるよ!」

「い、いや、アカウント構築は作るだけなら誰でも出来るけど、作り込むのは本当に大変なんだよ! 最初は僕も色々と全然分からなくて! でも何度かやっていくうちにコツみたいなものが掴めてね。テクニックが高まるにつれて、最も肝心なネットアイドルという芸術の部分に力を注げるようになっていった。だから最新版である瀬川さんが一番安心してアカウント作りに専念出来たはず!」

「アホか、テメー」

「開いた口が塞がらないよ」

「って言うか十二人って多過ぎ!」

「残りの十一人は誰だよ!?」

「えっ~と。ち、ちょっと待って。何せ数が多いから僕も急には思い出せない……。っていうか、本当に十二人だったかな? もっといたような気もするような……」

「ふ・ざ・け・ん・なッ!」


 非難囂々である。いよいよ大炎上してしまって、もう手が付けられない!


「あ、紫苑くん。私、楓ちゃんの所に行ってくるから。あと宜しくね♪」

「あっ!? 西沢さ~ん!」


 付き合っていられないので、百合はどこかでメールを送っている楓を探しに教室を出た。

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