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瀬川さんはネットアイドルになりたい  作者: 大橋 由希也
第三章 学校一のネットアイドル
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修羅場

「ちょ、これ、どうすんさッ!?」

「え、わ、私に聞かれても……」


 昼休み、紫苑は修羅場を迎えていた。


『裏切り者』

『知らなかった』

『酷い』


 スマホに向かって必死で対応を考えている。メールの送信者はもちろん楓だ。


『どうりで手慣れていると思った』

『いくら新条くんでもあんなに詳しいなんておかしいもん』

『もうとっくに経験済みだったんだね』


 何だか凄く怒っているっぽい。


『私は初めてだったのに』

『一体今まで何人の女の子と経験したの?』

「うぐぐぐ……」


 何かフォローするメールを返信しようとするが、返信する間もなく楓が次々とメールを送ってきて返信出来ない状況である。


「せ、瀬川さん、凄く怒ってるっぽいよ!」

「そ、そうみたいね……」


 人生最大のピンチだ。SNSバレしたあの時よりも情勢が悪い。手段は選んでいられないので、同じく気まずくなってしまった学校一のネットアイドル、西沢 百合も召還して対策を検討していた。


「そうみたいね、じゃないよ、西沢さん! どうなってんのこれ!?」

「わ、私にも何がなんだか……はは……」

「き、君達は友達だろッ! 僕が前に西沢さんのアカウント構築をやったなんて話は君達の間柄なら当然知っているものと思ってたよ!」


 問題点は、紫苑がかつて百合のカレイドスコープのアカウントの構築を手伝った事があるという事を楓が知らなかったことだ。


 あれは一年前、入学して間もない頃だ。カレイドスコープのアカウントを作ったばかりだった百合はクラスメイトに宣伝して回っていた。自分のアカウントをリアルで宣伝するという活発さが百合の長所だ。当然紫苑もお気に入りに入れたが、当時のアカウントは全く未完成であった。

 そこから話が弾み、紫苑は百合の家に行った。百合の実家はオーベルジュを経営している。オーベルジュという宿泊施設が付属したレストランのことで、それを見学し、インスピレーションを得て百合のアカウントにフィードバックした。


 その後まもなく、百合は絶大な人気を得て学校一のネットアイドルに上り詰めた。


 だが、それは百合の個性あっての人気であるから、自分が多少関わった事を鼻に掛けるようなものではない。秘密にするつもりでは無かったが、自ら率先して誰かに語りはしなかった。


 しかし、頑張った甲斐があり百合は気に入ってくれていたようで、たぶん男の知らない女の子の会話の中で話題になっていたのだろう。紫苑のアカウントの構築の手腕はひっそりと有名になり、その後も何人かの女の子の手伝いをした。彼女達はみんな人気アカウントになった。


 だから当然、楓もその話は知っているものだと思っていた。だから自分にプロデューサーの依頼が来たものだとばかり思っていたが、そうじゃなかったなんてッ!?


 何で楓に限って知らないんだッ!


「今まで一度もあの話しなかったのッ!? 他の子は知ってるのにッ!? 普段どんな会話してるのさッ!?」

「それを言うなら紫苑くんだって、何で楓ちゃんに言ってないのッ!? アカウント構築は何度もやったことがある。任せておいて、くらい言うでしょッ!? 実績をアピールしなくてどうするのッ!?」

「そ、そ、それは違うよ! ネットアイドルってのは一人一人の個性が大事なんだ! アカウント構築は以前の作業の繰り返しじゃない。毎回毎回が新しい芸術だ。一人一人の個性を見い出し、その人が本来持っている魅力を引き出す。常に一期一会の芸術……って、それは西沢さんも知ってるでしょッ! 一緒にやったんだからッ!」

「知ってるけど、そういうところが……って、もう貴方って人はッッッ!!!!!!」

「ちょ、おいおい、何やってんだ、お前等?」

「クラス中の注目が集まってるんだけど……」

「えっ?」

「へっ?」


 気がついたら御堂と斉藤が近くに来ていた。百合と二人でヒソヒソ話をしていたつもりだったが、知らないうちに声が大きくなっていたらしい。


「また瀬川さん絡み? 君もよくやるよね」

「今度は西沢も巻き込んだのか。大変だな」

「べ、別に大したことじゃないさ。ちょっと言い忘れたことがあったみたいで……はは……」


 と話している間にも次のメールが来る。


『百合ちゃんとも関係を持ってたなんて!』

「あっ!? 何だこりゃ!? ちょっと貸せ!」

「こ、こら! 人のメールを勝手に!?」


 油断していた隙に後ろに回っていた斉藤にスマホを取り上げられてしまった。


『よりによって私の一番のお友達の百合ちゃんと!』

『私の知らない所で逢い引き!』

『ただれた関係!』

「な、し、新条ッ!? テメェ、まさかッッッッ!?!?!?」

「え、な、何だよッ!?」

「うわっ!? あちゃ~……」


 まずメールを見た斉藤が激怒し、次に御堂が額に手を当てる。


「お前ッ!? あんだけ瀬川に一筋みたいなこと言ってて何西沢に手出してんだよッ!?」

「えっ?」

「君は良い友達だと思っていたけど、流石にこれは見損なったよ」

「は?」

「きゃ~ッ!? 二人共何言ってるのッッッ!?」

「みんな~。新条と西沢が実は出来てたんだってさ」

「何だって!?」

「新条と西沢がッ!?!?!?」

「えっ? 新条くんって瀬川さんとお付き合いしてるんじゃなかったの?」

「二股かけてたんだ」

「こ、こらっ、何だ君達はッ!? 何か誤解してるよ! あっち行け!」


 教室の中で騒ぎ過ぎである。クラスメイト全員が集まってきてしまった。


「いやぁ、俺も新条って人畜無害な顔して実は……って思ってたんだよ」

「西沢さんもアイドルなのにそんなことしちゃうなんて」

「学校始まって以来のスキャンダルだね」

「不純異性交友」

「退学か」

「破滅型アイドル」

「ビデオ出たら買うから連絡くれよな」

「何だお前等ッ! いい加減にしろッ! あっち行けッ! あっち行けッ!」

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