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瀬川さんはネットアイドルになりたい  作者: 大橋 由希也
第三章 学校一のネットアイドル
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ランキングの神様2

「ランキングの神様!?」

「そう。カレイドスコープのランキングは、人工知能と言う名の神様が作っている。そういう風に考えておいてほぼ間違い無い」


 ここで言う『人工知能』とは、ドラえもんのようなSFレベルの話ではない。楓のブログを構築した時に教えてあげた行動ターゲッティング広告もそうだったが、最近のネット界はユーザーの動向を分析して勝手にマッチングする。カレイドスコープの場合は勝手にアイドルを採点してお勧めのアイドルを提案してくる。この機能を人工知能と称する。


 人工知能がいつどこで何を根拠としてそういうマッチングを行っているのか、それはブラックボックスになっているので誰にも分からない。広告を運営している企業自身も統計学的に傾向を把握しているだけで厳密に管理しているわけではない。


 何がどうなっているのか不明だが、とにかく人工知能は常にネットユーザを監視し、勝手に裁きを下している。


 正に神様である。


「ま、まさか時代はそこまで進んでいたなんて……」


 カラクリを知っていれば技術の一種でしか無いが、そんな知識など全く無い楓にとっては、SFか神様を見ているようにしか思えないだろう。


「ランキングの神様は高性能だ。ちゃんとアカウントの内容を見ている。始めたばかりでスカスカのアカウントはランキングに載らない。ランキングが読む価値の無いゴミで埋まったら読む人が不便だからね。瀬川さんのアカウントが今まで載っていなかったのはこの為だ」

「ううっ……」

「その他、犯罪を匂わせていたり、ヘイトスピーチで溢れていたり、スパムアカウントだったりとか、カレイドスコープにとって有害なアカウントはランキングに載らないようにフィルタリングされている。有害ってのが何を以て有害と決めているのかは分からないよ。神様が決めることだからね。タチの悪過ぎるアカウントはランキングに載らないどころか停止。追放だ」

「お、恐ろしい話ね……」

「普通に使っていればそういうことにはならないよ。また、ランキングの序列も神様が決めている。ランキングにはポイントが表示されているよね?」


 楓がスマホを確かめてみると、確かにお気に入り数とは別にポイントが表示されている。お気に入り数は三一、ポイントは六四である。


「このポイントって何なの?」

「神様がみんなのアカウントを見て点数を付けてるんだ」

「ええっ!?」

「カレイドスコープのランキングはそのポイントが高い人ほど、上位に来る。お気に入り数とか、コンテンツの充実度とか、ファンの質とか、色々と鑑みて、その合計が点数になる」

「お気に入り数だけじゃないの!?」

「違うんだなぁ、それが。お気に入り数だけで決まるなら単なる集計でしょ。良質な内容でお気に入り数が多いとランキングが上がる仕組みだ。まあ、内容が良質でなければお気に入りなんて増えるわけないんだから同じことだけどね。数字ばかり気にしないで楽しい内容を配信しろってことだよ」

「ううううっ……」

(……改めて考えると酷いシステムだな、全く)


 何でこんなに作り込まれたランキング機能があるのかと言うと、もちろんネットアイドル間の競争を過熱する為だ。ネットアイドルはこのランキングが上がったり下がったりすることに一喜一憂し、少しでもランキングが上がるように切磋琢磨する仕向けているのである。


 ネットアイドルなんてタダの趣味なんだからランキングなんて気にせず気楽にやってりゃいいんだ、と紫苑は考えているが、当の本人達はそう思っていない。そのうち現実の自分よりネットアイドルとしての評価を気にして鬱になったりする。ランキングの神様に認められることが人間としての評価であると考えるのだ。


 そんな困ったネットアイドル達の中でも、特に踊らされているのが目の前のこの女である。


「ど、ど、どうすれば点数貰えるのかな!?!?!? 傾向と対策とか無いの!?!?!?」

「なかなか良い質問だね。対策はある。それをSEOと言う」


 SEO(サーチエンジン最適化)とは、検索エンジンで検索した時に自分のサイトが上の方に来るように調整する作業のことだ。ネット上でビジネスをやっている企業にとっては死活問題である。


 カレイドスコープのランキングは検索エンジンではないからSEOと表現するのは厳密ではないが、判定を行っているアルゴリズムの特性を分析してそれに適合するようにコンテンツを変えていく、という本質部分では同じである。


「ランキングで高得点を取る為の対策とは、ランキングの神様の好みに合わせてコンテンツを作っていくことだ。無法図に作るよりもその方がポイントが高くなる」

「好みって!?」

「厳密には分からないけど、特徴となるキーワードを散りばめたり、カレイドスコープ内で提供するパーツを多く使ったり、文章だけじゃなく写真や動画を多く使ったりすると高評価になる傾向がある。でも、それはもうやっているよ」

「えっ? そうなの?」

「この前、僕が手伝った時にSEO対策を考慮して設定を行ったから、対策をしていないアカウントよりもいくらかポイントが優遇されているはずだ。実際、もうランキングに載っているからね。そのランキングでは最下位かもしれないけど、ランキングに載っている時点で全体から見ればもう上位者なんだ。お気に入りも三十を超えていて、ポイントももう少しで一○○になる。瀬川さんは今、ちょうど全体の真ん中くらいまで位置を上げてきているんだ」

「そ、そうなんだ……」


 楓はポカーンと改めてランキングを見直すと、何となく頬を赤らめた気がする。恥ずかしがっていのか、嬉しいのか、よく分からない。


 なお、カレイドスコープは『課金』はポイントに影響しない。課金は広告が外れたり、人気の背景画像を変えたり、ディスク容量が増加したりといった面で効果を発揮する。広告が外れたことでページが見易くなり、結果としてお気に入りが増えるという相関関係はあるのかもしれないが、金を多く積めばランキングが上がるという程の効果は無い。

 課金でランキングが上昇する制度にしてしまうと、借金してでも金を注ぎ込むようなとんでもないネットアイドルが出現する可能性があり、社会問題になりかねない。ネットアイドルの競争意欲を煽ってくるが、物事の限度というものも配慮している。だから楓のような無課金ユーザでも問題無く戦えるし、それ故に参加者が増えて競争が過熱する。


 カレイドスコープは実に優れた運営手腕を持った組織なのだ。


「そこまで考えていてくれたなんて、流石は新条くんだね。それに比べて私ときたら……」

「後は瀬川さんの頑張り次第だね。今後も今までと同じように更新を続けていくことが一番大事。更新頻度と継続期間もポイントに影響しているから。人間と同じで、よく話たり、昔から知っている相手の方が好感度が高いんだ」

「は、はい。頑張ります! 更新は一日一回、写真付き。そ、それで、も、もし私がこの学校で一番になったら……、一番になったら……」

(……一番になったら、何なんだろう?)


 何故、楓がこんなにランキングの順位に執着するのか、紫苑にはサッパリ分からない。クラスでの様子を見ていても、別に負けず嫌いでも無ければ序列を気にする方でもない。東大に入学することだけが目標で、それ以外は執着しない性格だ。だが、カレイドスコープのランキングだけは何故か気にしている。


 何か秘密があるのだと思うが、紫苑には手がかりが無かった。


「で、でも、先は長そうだね……」

「ランキングなんて知らないうちに上がっているものだから、気楽に続けてごらん」

「そ、そうだよね……。コツコツ頑張ることにするね……」

(……でもなぁ。流石に学校一は難しいだろうなぁ)


 紫苑が見る限り、楓のアカウントは良質だ。人気を得るだけのパワーを秘めている。そこそこの人気アイドルになるのは可能だろう。だが、学校一だけは厳しい。


 と言うのも、実はこの学校には全国的に有名なネットアイドルが既にいるからだ。しかも紫苑と楓の同級生で、楓の隣の席に座っている。


 学校でぶっちぎりのナンバーワントップアイドル。全国高校生ネットアイドルランキング第三位。あと三十分くらいすれば登校してくるだろう。

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