ランキングの神様1
「はい、じゃあネットの勉強の時間だよ。席着いて」
「は、はい……」
アカウントがランキングに載ったことで楓が狂乱状態になってしまったので、カレイドスコープがどういうカラクリになっているのか教えてあげることになった。
(……やれやれ。自分の使っているアプリがどんなものか分からないで写真とか上げまくってるんだから。とんでもないな)
危なっかしいとは常々思っていたのだ。こういう機会に少しずつ知識を身につけさせていくのが良いだろう。授業形式で進行するため、紫苑が黒板の前に立ち、楓は席に座った。二人きりの勉強時間である。
「まず、瀬川さんはネットのランキングというものをどういう風に思っているのかな?」
「一番上に来ている人が神様で、一番下に来ている人が生きている価値も無い人って意味ですッ!」
(……女ってのはどういう生き物なんだよッ!)
人間とは序列を気にする生き物であるが、ここまで極端に執着している人も珍しい。
「ランキングが人間社会に対しどのような影響力を持つかはさておきとして、まず機能の説明から入ろうか。瀬川さんはこう勘違いしているんじゃないかな? ランキングというのは、そのランキングに参加したい人がランキングの管理人に参加を申し込むことで参加出来る。政治家が選挙で立候補するみたいにね」
「違うの?」
「そういうランキングもあるけど、カレイドスコープはそうじゃないんだ。カレイドスコープはアカウントを作った時点で全員強制参加だ。意図してランキングに参加しない設定にすることも出来るけど、基本は全員参加。そういうコンセプトなんだよ」
ネットアイドル特化型SNS『カレイドスコープ』は、絶大な支持を得ているだけあって運営手腕にも定評がある。
リアルのアイドル業界でも『総選挙』などと称してアイドルの人気投票を行い、支持者も巻き込んで競争心を煽るという、人間の欲望という心理を巧妙に突いたマネージメントを行う事務所があるが、カレイドスコープも同じ発想で運営されている。
まず、アカウントを作った時点で勝手にランキングに参加させられている。設定画面の隅っこに『ランキングに参加しない』というチェックボックスがあるが、こんなチェックボックスがあること自体知らない人が多い。こうすることで『カレイドスコープに参加する以上、ランキングで戦うのは当然!』という風潮を生み出す。
そして肝心の『ランキング』も、全ての会員がお気に入り数の多い少ないで一列に並ぶような単純なものではない。何十万人もいるネットアイドルの全員が一つのランキングに密集したら競争過剰過ぎる。だからカレイドスコープは『歌が上手なネットアイドルのランキング』『踊りがが上手なネットアイドルのランキング』『スタイルが良いネットアイドルのランキング』と、実に色々な切り口でランキング表を生成し、格付けしてくる。
ネットアイドルは全員参加バトルロイヤルではなく、自分の得意な分野でランキング上位を狙う、という楽しみ方なのだ。
これをやってのけるのが、IT業界に名だたる技術力を有するカレイドスコープの機能の一つ、『カレイドランキング』だ。
「カレイドスコープのランキングはカレイドスコープ特有のアルゴリズムが自動生成しているんだ。そうだな、例えば……。瀬川さん、メガネっ娘のランキングを見てごらん」
「メ、メガネっ娘?」
紫苑に促されて楓はスマホを操作する。すると。
「あっ!? こっちにも私が出てきたよ。そしてやっぱり最下位ッ!」
「でも、瀬川さんは別にメガネっ娘ランキングに登録なんかしてないよね。カレイドスコープには、私はメガネっ娘です、と登録する機能は無い。でも勝手にメガネっ娘ランキングに入っている。何故か?」
「何故でしょう?」
「カレイドスコープのアルゴリズムが検出しているんだ。瀬川さんは眼鏡をかけた画像をいくつも投稿しているし、眼鏡のコレクションが趣味、みたいな記事もある。人間が見れば瀬川さんがメガネっ娘であることは明らかだ。そしてカレイドスコープのアルゴリズムは人間と同水準の判定をして、自動的に瀬川さんをメガネっ娘にカテゴライズしている」
「そんなことが出来るのッ!?」
「出来るんだ。人工知能関連の技術の一種でね、機械学習という技術の上で実現出来る。人工知能がカレイドスコープ内を巡回して、人間を評価し、振り分け、コンテンツとして成立するくらいの人数の単位でランキングを自動的に作り上げている。これはSFじゃないよ。ランキングは人工知能任せ。人間より人工知能の方が強い」
「ま、まさか、もう人間は人工知能に支配されていたというの……?」
「気付いていないだけで似たような機能はあっちこっちにあるよ。その一つがカレイドランキングの自動生成アルゴリズム。瀬川さん風に言えば、ランキングの神様だね」