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瀬川さんはネットアイドルになりたい  作者: 大橋 由希也
第三章 学校一のネットアイドル
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悩みは尽きぬ

 翌朝の七時五五分。またいつものように紫苑は教室のドアの隙間から先に来ている楓の様子を覗き見していた。

 ドアの隙間から覗き見える黒髪の美少女は、今日も一人、胸の前に手を組んで目を閉じ、お祈りを捧げていた。


(……このところ毎日だ。瀬川さん、やっぱり何か悩んでいるんだ)


 長い付き合いの紫苑は知っている。楓のお祈りポーズは、困っていることの証だ。悩みがあったり、緊張したりして、精神にストレスが加わるとあのポーズになる。

 特に紫苑がネットアイドルのプロデュースを始めてからは毎日なのだ。


(……瀬川さんのお願いどおりにしてあげたつもりだったけど、逆に何か煽ってしまったのかもしれないな。何を悩んでいるんだろう? う~ん)


 紫苑から見て、楓が持っていそうな悩みなど無い。可愛いし、胸も大きいし、学業成績も上々。ネットアイドル活動も華々しい成果を上げている程ではないが軌道には乗った。全て順調である。快適に毎日を暮らせているはずなのだ。


 唯一、例外的に悩みの発生源として残ってしまっている余地としては……。


(……や、やっぱり、僕、なのかな?)


 自分である。


 やはり、ペロペロ神バレは痛かった。


(……僕が瀬川さんを好きってことはもうバレてるんだ。でも瀬川さんからの返事はハッキリしない。瀬川さんも僕の事を好きなら、もちろんすぐにOKするでしょ。でも今、それが保留されているってことは、やっぱり瀬川さんは僕の事をそういう相手とは思えないって事なんじゃないか!?)


 恐れていた事が現実になってしまったとしか思えない。


 楓から見て紫苑は、比較的仲の良いクラスメイトではあっても、恋愛の相手として見る対象ではないというパターンだ。その場合、楓の引っ込み思案な性格ではハッキリと断ることは出来まい。断るに断れずいる状況であるとしたら……。楓が悩む理由としては十分である。そして、重い。ドスッと重い。


『新条くんにはずっと仲の良いお友達でいて欲しいの』


 とかって。最悪過ぎる。

 考えるだけで鬱になってしまいそうだ。


 しかし、である。そうだとしたら、ネットアイドルを始めるとか言って自分の家に来たりするだろうか? キスもしちゃったし。それってやっぱりまんざらでも無いって意味なんじゃないの? 好きじゃなければそんなことしないでしょ? 絶対OKの前振りなんだって。ならば、だ。


『私も新条くんのこと好きかも。ぜひお付き合いして欲しいな』


 何でこれが出てこない?


 分からない。女という生き物は分からなさ過ぎる。


 とりあえず覗き見にはこの辺りにして教室に入り、席に着く。そのうち楓もお祈りを終えたようだ。すると、楓はまっすぐ自分の元に来る。紫苑はこの瞬間が本当に好きだ。楓も自分の事を好きだ、と感じられる一番の瞬間である。真っ暗な曇り空に太陽が差し込んだように気分が晴れる。

 すぐに席を立ち上がって自分から楓をギューっと抱き締めてあげたい気分だが、流石にそれは出来ない。何食わぬ顔して話し掛けられるのを待つ。紫苑はいつもこれを繰り返している。


「おはよう、新条くん」

「おは……」

(……えっ?)


 そして話し掛けられて、待ってましたとばかりに顔を上げると、そこにはいつもと同じ笑みを浮かべていない楓がいた。ピクピクと引きつった笑みを浮かべており、明らかに怒っている。


「新条くんはとんでもないことをしてしまいました」

「ど、ど、どうしたのさ!?」

「どうした、じゃないよ。これ見てッ!」


 紫苑の目の前に突き出されたのは、やっぱりカレイドスコープの一ページだ。表示されているのはランキングのページである。どうやらこの学校の女子生徒という括りでランキングが出力されているようだ。


「これが?」

「これが、じゃないよ! 私のアカウントがランキングに登録されてる。しかも最下位で!」

「ん~?」


 ページを下に動かしていくと、確かに『メイプルのお部屋』が一番下に表示されていた。


「おお、遂に載ったんだ」

「私、ランキングなんか参加してないのにッ! 何で勝手にランキングに載ってるの!? しかも最下位で! 新条くん、何かしたよねッ!?」

「何もしてないよ! っていうか、何もしてないからでしょ。カレイドスコープはランキングに参加しないってチェックを明示的に入れないと勝手にランキングに載るよ。瀬川さんはアカウントを作った時からずっとランキングに参加していたんだよ」

「な……な……」


 楓はインターネットやSNS、カレイドスコープのカラクリを分かっていないから、これくらいの勘違いは軽くやってのける。


「で、でも、昨日までは載ってなかったもん! 今朝になったら急に晒されたよ! しかも最下位で!」

「載せる価値も無いようなカスアカは勝手に弾くんだよ。そういう風になってるの」

「カ……カス……」

「でも毎日更新を頑張ってお気に入りも増えたから、ようやくランキングの載せて貰えたんだ。良かったね、これで世界一のネットアイドルのスタート地点に立ったんだ」

「良くないよッ! 私がこの学校で最下位のネットアイドルだってことが白日の下に晒されちゃったじゃないッ! 今頃全校生徒がランキングの一番下に出現した私のブログを見て笑い者にされている。こ、こんなに辱められて、私もう生きていけないッ! 責任取ってッ! 責任ッ! 責任ッ! 責任ッ! 責任ッ!」

「だ、大丈夫だって。責任は取るからッ! 大丈夫ッ!」

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