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瀬川さんはネットアイドルになりたい  作者: 大橋 由希也
第三章 学校一のネットアイドル
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(……僕達って絶対両思いだよね♪)

「最近、新条ってご機嫌だよな」

「元々だよ。幸せな性格してるから」


 紫苑が何でこんなに機嫌が良いか、親友二人は聞かずとも察せられる。いつもニコニコしながらスマホを見ている。紫苑の調子の良さに呆れつつも、昼休み、紫苑と親友の御堂、斉藤の三人はいつものように机を並べて昼食を食べていた。



―――紫苑と楓が二人でブログ構築を行ってから一ヶ月が経過した。



 あれから楓は一日一回のペースでブログを更新するようになった。書いてある内容は、主にその日に勉強した内容だ。


『本日は英語の勉強をしました。以下の英単語を覚えました』

『今日は国語の勉強をしました。問題集を解きました』

『数学の問題集を解きました』


 最初はこんな感じに、ただ事実を書くだけであった。しかし、ブログ更新に慣れてくると楽しさを見い出すようになるのだ。


『本日は英語の勉強をしました。この二つの英単語って使い分けが難しいですよね。listenとhear。listenは能動的に聞く。hearは受動的に聞こえてくるって意味です。穴埋め問題をする時は前後の文脈で使い分けなければいけませんね』


 徐々に内容が深くなって、読者に語りかける調子になる。そして、記事を読んでいると伝わってくるのだ。楓が一番得意で好きな教科は英語だ。


 楓が憧れているのはエリートな大人の女性である。楓の中にはそのヴィジョンがあって、まず東大を卒業するくらい知的であること。そして英語がペラペラに話せて、飛行機に乗って海外を飛び回って、外国人を相手にしても臆すことなく応対し、世界を舞台に活躍出来るグローバルな人材というイメージである。


 実にステレオタイプなエリート像だ。子供がテレビを見て思いついた将来の夢みたいな理想で楓は動いている。表を見ると、東大を目指して毎日勉強ばかりしている勤勉な高校生。少し覗き込むとどこか子供っぽい夢を持っている。


 そうして、ネットアイドルのメイプルに親近感が沸いてくるのだ。


 次第に勉強以外のネタも投稿されるようになった。


『私は眼鏡を五つ持っています。こちらは学校用。黒縁で大きめの真面目な女の子風です。勉強が出来る風に見えませんか? こちらはお出掛け用。レッドのスタイリッシュなデザインでお洒落な大人の女性風です。こちらはフォーマル。結婚式とか特別な場に出る時だけ登場するレア品で……』


(……えっ、そうなのッ!?)


 楓は無趣味だと言っていたが、こうやって深く見ていくと眼鏡のコレクションという趣味と言って良い習慣があったりする。新しい発見だ。


 次第に読者も増えてきて、一ヶ月経った今では三○人くらいになっている。コメントの様子を見る限り、中学生、もしくは高校生の女子が見に来ているようだ。コメント欄も応援メッセ―ジがちらほら来ている。世界一のネットアイドルまでは遙かに遠いが、楓も楽しく運営しているようだ。


 上々な滑り出しと言えるだろう。



―――。



(……瀬川さんの私生活も覗けるし、僕と瀬川さんの距離も縮まるし、良いことばっかりだよね♪)


 最近の紫苑は毎日ご機嫌である。帰り際にあんなことがあったくらいだし、やっぱり自分と楓は両思いな気がしてならない。今や一日の半分くらいはスマホを見ている。楓のアカウントを見ているのはもちろんだが、それ以外にも楽しみが出来たのだ。


「なあ、新条。お前、さっきからずっと何見てるんだ?」

「これ? 地図だよ。アプリの」

「最近ずっとだよね。何でそんなもの見てるのさ?」

「瀬川さんの位置情報が表示されているのさ。瀬川さん、今は購買で買い物をして校庭にいるみたいだな。もう十分も校庭のベンチから動いていない。きっと僕の話でもしているんだろう。はは」

「ブーーーッッッ!?!?!?」


 二人がお茶を吹き出した。


「ちょ、お前、何やってんだよ!?」

「瀬川さんのスマホに何か仕込んだの!? 何かしなきゃ他人の位置情報を自分の所に表示させるなんて出来ないよね!? それ完全にストーカ……」

「いやいや。瀬川さんがそうしたいって言うからさ、アプリを一緒にインストールしたんだ。瀬川さんからも僕の位置が見えてるよ。瀬川さん曰く、宇宙の神様がいつも僕達を見守ってくれているんだよって。どうしても僕にインストールしておいて欲しいんだってさ♪. 最近の女の子はみんなインストールしているんだって♪.」


 紫苑は嬉しそうに語るが、聞いている二人は顔色が悪い。


「それってつまり、女に常に行動を監視されているってことじゃねえか」

「重っ……」

「別に秘密にすることも無いだろ。瀬川さん以外の女の子と秘密でデートしたりしているわけじゃないんだから。僕が二股かけていないことが分かって瀬川さんも安心するだろうなぁ」

「二股かけるわけじゃなくてもどこかに出掛ける時はあるだろ」

「別に大した所には行かないよ。平日は家と学校の往復。土日は、そうだな。母さんに付き合う時もあるかな。別にマザコンってわけじゃないよ。一人息子がスーパーやデパートに荷物持ちとして同行するなんて親孝行でしょ?」

「いや、そうじゃなくて」

「どうしても秘密にしなければならない時は別のアプリで位置情報を偽装して送ってやればいいのさ。それで瀬川さんのスマホからは僕はずっと家にいるように見える。もちろん、この手を使えるのは向こうも同じ。だけど宇宙の神様を信じ込んでいる瀬川さんはそんなことが出来るなんて夢にも思わない。彼女が出来る事はスマホの電源を切るのが精一杯だろう。でも電源を切っていると最終更新日時が止まるからそれで僕は気付くことが出来る。これが人間の知恵というものだ。宇宙の神様なんていくらでも誤魔化せるんだ。はは、ははは」


 いよいよ性根の黒さが際立って来たな、と二人は開いた口が塞がらなかった。


「まあ、偽装しなきゃいけないケースなんて無いんだからそんなスキルはあっても無くても関係無い……」

「新条。お前、そろそろ告白しろよ?」

「えっ?」

「位置情報の双方監視なんてカップルでもやらねえよ。カップルになる前にカップル以上のことをやるんじゃねえ」

「向こうは待ってるんだよ、君の告白を。位置情報を見たいってのは向こうからのアピールなんじゃないかな。瀬川さんは大人しいからね。直球の告白は出来なかったんだよ」

「お前が告るしか無え。早くしろ」

「そ、そうだね……」

(……瀬川さんって結構大胆だぞ!? そこは黙っておこう)


 まさか既にキスまでしちゃってるとはコイツラも夢にも思うまい。


 しかし、当事者である紫苑であっても、楓のあの変わり身は仰天であった。


 楓は相変わらず学校では大人しくて真面目な優等生だ。ちょっと天然が入っていて、可愛らしい。親しみを持てる女の子である。しかし、休みの日に会うとガラッと印象を変えてくる。胸も少し大きくなり、眼鏡も服装もお洒落に変わる。まるで大人のお姉さんだ。


 女というのは全く意味不明である。


 それでも、多少なりとも理解するには、やはりちゃんとお付き合いするしか無いだろう。


「そうだね。そろそろ告白のタイミングを見計らってみるか。でも、今はダメだ」

「何故だ?」

「瀬川さん、悩みがあるみたいなんだよね」

「悩みって?」

「それが分からないんだよ。でも、何か悩んでいる」


 元々聞いていた話だと、楓の悩みとはネットアイドルを始めたのにお気に入りがゼロ件であった。ところが、アカウントを構築してお気に入りが増えつつある今でも、何か気になることがあるような様子なのだ。


「悩みがあって弱っている所につけ込むわけにはいかないでしょ。何食わぬ顔して助けてあげて、元気になったら正式に告白するさ。瀬川さんとは、健全なお付き合いをするってのが大事だと思うんだ」

「君って以外と律儀な所があるよね」

「根は善人なんだよな」


 恋愛というのは相手がいる話だ。楓のペースに合わせてゆっくり進めて行く方が良い。何だかんだ言って、紫苑は良識的な男なのだ。


「でも、勉強熱心で真面目な女の子が弱っている時に優しく近づいてただれた関係になっちゃうのもそれはそれで燃えるよね♪ チュッチュペロペロ。うへへへ」

「やっぱ最低だね、この男は」

「うむ」

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