表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/44

完成

 インスピレーションが沸いた後の紫苑は力に満ち溢れていた。


 楓が毎日頑張っている事と言えば、勉強である。それは決してつまらない女という意味ではない。自分の理想を追い求める少女の輝き。それがネットアイドル、メイプルの心の形なのだ。


「君はこれから、毎日頑張っていることをブログに書く。それは主に勉強を頑張っている内容になるだろう。一見すると地味だ。だが、その頑張っている姿に人は惹き付けられる。君のようになりたい、君と同じように頑張りたい。君の事を応援したい。そういう人が集まってくる。ネットアイドル、メイプルちゃん。それは子供から大人へ。少女から女性へ。平凡な少女からデキる大人の女性へ。メイプルは、人類の成長のシンボルなんだ」


 インスピレーションを元にブログ作りに没頭する。創作意欲が沸いた時の紫苑のパワーは凄まじい。極限の集中力を以てもの凄い勢いでブログをカスタマイズしていく。目を血走らせて鬼気迫る勢いだ。まるで殺人鬼のようだとまで恐れられる紫苑の本気モードである。


 紫苑は一度こうなると飲まず食わずで作業に没頭する性格である。集中している時の紫苑は脳の糖分をもの凄い勢いで消費している。そして脳の糖分が枯渇すると突然倒れるのだ。それを見越して、楓の手元には紫苑の母が用意したケーキが四個もある。四個中三個が紫苑の糖分補給用なのである。


 糖分切れが近付くと、紫苑はフォークをケーキにぶっ刺し、そのまま大口を開けて一口で丸呑みする。どう見ても異様なのだが、楓は全く動じない。それどころか、タイミングを合わせて冷ましておいた紅茶にレモンを入れて差し出すと紫苑は一気飲みする。その間、紫苑は一言も発しない。無言で食って、飲んで、ブログ作りに没頭する。楓のことはほったらかしだ。楓は単なるレモンティー準備係である。


 それでも何故か、本気を出した紫苑の姿を、楓はすぐ側で嬉しそうに応援していた。


 そうして太陽が傾き、西から茜色の陽が差し込んでくるようになった時、遂に紫苑の手が止まった。


「出来た! これでどうかな!?」


 紫苑が構築した楓のブログ。


 楓の好きなライトピンクを貴重に、お勉強アイドルらしくノートと鉛筆のイラスト。しかし隅っこに可愛いクマのぬいぐるみを配置。可愛らしさとスタイリッシュの共存。少女としての側面と、大人の女性としての側面が混在する成長過程。


 それが、紫苑のイメージしたネットアイドル、メイプルの具現化であった。


「す、凄い! こ、これなの。こういうのが欲しかったの! ううん、それ以上! 自分でも分からなかったけど、きっと私はこういうのが欲しいと思っていたの! や、やっぱり、紫苑くんでなければこれは作れなかったよ!」

「が、頑張って良かったよ……」

「疲れたよね? はい、ケーキ食べて。紅茶も」

「ありがとう。モグモグ。こうやって瀬川さんに食べさせて貰えるなんて嬉しいなぁ♪ あれ、これは四個目かな? 瀬川さんのは?」

「いいの。ほら……」


 任務完了と同時に紫苑の極限力は解除されたようだ。目の色が元に戻り、どこか脳天気な紫苑に戻る。楓にケーキを食べさせて貰う為。それだけで頑張った甲斐があったとばかりの満足気な笑みを浮かべていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ