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カテゴリ決定

 楓のネットアイドルとしての特色を模索するため、紫苑と楓はネットサーフィンして参考を探すことにした。


「ネットアイドルって言うと、やっぱりコスプレってイメージがあるかなぁ」

「カレイドスコープでもいるよ。コスプレアイドルって言うの!」


 コスプレをネタとするアイドルはカレイドスコープ界でも一大勢力の一つである。参考とする為の王道と言って良いだろう。カレイドスコープ内でのランキングを表示し、一番上のトップアイドルのページを表示した。


「おおっ、これ凄いね!」

「でしょ? 凄い豪華だよね! 私もこんな風にしたいの!」


 パッと開いた瞬間、壁紙が当人のコスプレである。ヘッダーには煌びやかなドレスを着たコスプレ写真。美人である。プロフィールには好きなコスプレについて自己紹介。どうやらアニメキャラのコスプレが主力らしい。記事を見ると、コスプレ写真だけでなく衣装の製作過程まで詳細に書いてある。サイドバーには写真撮影会のスケジュール。どうやらコスプレのノウハウを書いた書籍まで出版しているようだ。


 只者ではない。


「ページ全体から脈動が伝わってくる。この人はコスプレがもの凄く好きなんだな。コスプレの細部にももの凄い拘りがある。自分の好きなことをやって、その賛同者がファンになってくれる。自分の生き方、自分の価値観、それを表現すること。それがネットアイドルという芸術なんだ。この人は素晴らしい芸術家だな。きっとこの人は一生を悔いなく生きていくことが出来るだろう」

「は、はい……」


 ドン引きである。楓だが、パッと見で気に入っただけだが、紫苑はその人の生き方に思いを馳せる。並外れた感性を持っていて、普通の人とは見えている世界が全然違うのだ。


「瀬川さんはコスプレはどうなの?」

「わ、私はアニメとかあんまり観ないし、服を作るのも大変だから……」

「確かに学業と並行してこれはキツいね。ネットアイドルは無理せず長く続けていくことが大事だ。もっと無理の無い例も見てみようか」


 次に紫苑は自分のお気に入りからどこかのブログを表示した。食べ物が表示されている。


「アイドルじゃないんだけどね。これはブログの管理人がその日に食べた物を掲載しているだけのブログだ」

「な、何がしたいの、この人?」

「さあ? 日記みたいなものなんだろうけど。朝、昼、晩と一日三回、きっちり更新される。凄いのが、この人、台風で家が流されてもブログ更新してるんだよ」

「凄いね……」

「自分が食べた物を記載することに何かの意味を見い出しているんだろうね。それに、こうして人の食べ物を見ていると、何だか人の生活を共有しているような気がして読んでいるこっちも楽しい。更新があるってだけで、あっ、この人、今日も頑張ってるなって気になる」

「続けることが大事ってこと?」

「そう。ブログのテーマに善し悪しなんて無いと思うよ。自分が好きで続けられることを書くのが良い。そのうち見ている人も親近感が沸いて人気が出る。無理に背伸びすることは無いさ」

「う、うん……」


 自信を無くしかけた楓だったが、少し元気が沸いてきた。


「一番極端な例を見てみようか」


 紫苑はマウスを操作する。次に表示されるのはいつも見ているつぶやきSNSだ。もちろん本人のアカウントが表示される。


「ペロペロ神だね……」

「うん……」


 二人共赤くなって俯いてしまう。


「こんなアホなアカウント、自分でも呆れちゃうよ。でも人気はあって大勢の人が見ているんだ。多分、僕の本気が伝わるんだろうね」

「本気……なの?」

「本気だよ。僕はいつもこの委員長の事を考えているから……」

「…………」


 紫苑の遠回しな再告白だった。ちゃんとアタックを仕掛けてくる男である。しかしやっぱりどこか押しが弱い。二人揃って恥ずかしがっているうちに、紫苑の方が口を開いた。


「ま、まあ、とにかく、ネットアイドルとして人気を得る為には、その人の本気で好きな事、それを続けることが一番ってことさ。無理せず自分のペースで続けられる。そこがリアルのアイドルと違う、ネットアイドルの良さだ。瀬川さんにとっても向いていると思うよ」

「う、うん……」

「瀬川さん。君は日頃、何を考えているのかな? 何が一番大事? 何を頑張ってる? それでネットアイドル、メイプルちゃんの姿が決まるよ」

「私の一番大事なもの……」


 そう言われると、楓の中にも何かが沸き上がってきた気がする。


「私は……勉強だけのガリ勉女……。でも勉強だけは頑張りたいの……」

「どうしてそう思うようになったのかな?」

「それは……」


 楓は少し上を見上げる。何か遠い昔を思い出しているようだった。


「私は、何の才能も無い平凡な女の子。でも、東大に行けば……、こんな私でもきっとみんなに認めて貰えるようになれるよね」

「地を這うイモムシとして生まれ、物音を立てないサナギとして勉強ばかりの学校生活。でも大人になったその先には美しく羽ばたく蝶としての未来。いつかきっと叶うと信じている自分の理想。それを追い求めているサナギの女の子。それがネットアイドル、メイプルの色彩。そう解釈して良いのかな?」

「そうなの! そんな感じなの! ネットアイドルとして人気が出れば、私はチョウチョなの!」

「そうだったんだ。よく頑張ったね。上手く言えずに苦しかったよね? もう大丈夫、僕にもインスピレーションが沸いたよ」

「紫苑くん……ッ!」


 いつの間にか名前の呼び方が変わっていた。


「よし、いよいよ作るぞ。優秀なデキる大人の女性。それに憧れて頑張るサナギの女の子。それがネットアイドル、メイプルの色彩。カテゴリは、学習・教育部門だ!」

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