魔王とゆかいな仲間たち
はいどうも、サタンです。
早速だけど、人間ってのはなかなか酷いもんだよね。
こんなしがない神様の僕に、サタンだなんだって言って魔王をやらせるだなんて、畑違いもいいとこだよ。
僕はサトゥルヌス、畑にいるのがお似合いな農耕神だったのにさ。
うん、農耕神だけに畑違い・・・うん、これ笑うとこだね、笑えないけど。
僕は人々に農耕技術を教えていただけだったのにさ、みんなは人が神の恵みに感謝しなくなっただの、やれ知恵をつけすぎただのっていちゃもんもいいとこだよ。
そのおかげで供物の量が増えたり、食べ物がおいしくなったり良いこと尽くし。
僕は知ってるんだぞ、みんな文句言いつつもお忍びでおいしいもの食べるために、ちょくちょく下界してること。
ほんと、恩恵に感謝してないのはどいつだってんだ。完全にブーメランじゃないか。
とにもかくにも、今はもう農耕神としての信仰は完全になくなっちゃったんだよね。
代わりに僕にあるのは、魔王サタンとしての畏怖だけさ。
そういえばあれ、僕の代わりに信仰を集めている神様、えーとあれなんだっけなあ。
そうだ、大地の神ガイア様だ。自分の信仰に僕の信仰が加わって、地母神だの母なる神だの呼ばれて喜んでた女神様だ。
でも彼女、自然の恵みは与えられても農耕の知識は全くないはずなんだよなあ。
確か千年前くらいに、言ってたんだよ。
「大地より生まれた者たちは、大地からの恵みでのみ生きられるのです。自然を愛し、ありのままであることこそが最も彼らのためになるのです。」
うん、何を寝ぼけてるのかなって思ったね。
人間の増え方はすでに自然じゃないんですって、文明と技術があってこそ人間の数はここまで増えたんですよーってね。
不安だよなあ。超天然で頑固で、そのくせ神も人間も愛してやまないからなおのこと質が悪い。
なんで自然の恵みだけで足りると思うかな、神でさえ脂肪と糖にメロメロなのに。どこぞにアル中もいたしな。
おっと、神様の悪口は心の中でもあんまり言うもんじゃないよね、うん今更。
まあ僕も神様だった訳ですし?もう神なんて関係ない訳ですし?ちょっとやそっとの悪口ぐらい許されるってもんですよ。
そんなことより、神から魔王になって何が変わったかですよ。
信仰がなくなって神様友達もいなくなって、神界にもいられなくなりました(物理)。
いや、居づらいとか居場所がないんじゃなくてね、信仰がなくなると神界から真っ逆さまに落っこちてしまうなんて、誰が思いつくんですかね。誰かさんが筋斗雲に乗れなかった時みたいに、真っ逆さまに落ちました。
ほんとにあれは、一瞬死を覚悟しましたよ。もうやだ、思い出したら神界帰りたくないよほんと。まあ、帰れないんだけれども。
それと持ち物とかも変化したね。
僕のお気に入り、草刈り鎌のデイザー君が巨大化して物騒な大鎌になっちゃったんだ。こんなもんで草刈れとか、畑仕事舐めてんのか。
番犬のケルちゃんとベロちゃんとスーちゃんは合体して三つ首になっちゃうし、それでもかわいいけどさ。でもそれぞれ犬種が違う分、見た目のバランスがすんごいことになってる。それが理由で地獄の番犬として連れていかれちゃうし、もうやんなっちゃう。
まあ、連れてったのは真面目で義理堅いハデスさんでしたから、いじめられたりひどい扱いを受けることはないでしょうけどね。逆にあっちに懐いてたらどうしようっていう意味でとっても心配です。
とりあえず今の僕は魔王ですし?人のいるところに住むのは気が引けちゃいますし?誰もいないだだっ広い砂漠を全面占拠して住んでます。
とまあ、これだけ聞いてると僕って超不幸ですよね。
ところがどっこい、さすが魔王は伊達じゃない。
なんと魔族さんが創れるんですのよ、すごくない?神様でも協力し合ってやっと人間を造ったのにさ、魔王すごくない?
あ、魔族ってのは僕が勝手に名づけた僕の眷属の総称ね。天使でも堕天使でもないし悪魔でも魔物でもない、魔王の眷属ってことで魔族。
最初に気付いた時はテンションだだ上がりだったね。いきなり三人も創っちゃったくらいだよ。
初めて創ったはずなのに彼ら、神様並みに性能いいんだよ。外見はほぼ人間にしてあるから、買い物なんかも頼めそうだよね。
火を操り水を操り風を操り、何よりも仲が良いね。そこが神様天使とは大違い。
そんな彼らが造り放題ときたもんだ。うん、僕にあった信仰全部をもってしても余りある能力だと思うね。
でね、今の能力の中にとっても重要なものありましたよね。
そう、水を操れる子が造れたんですのよ。すばらしいねー。
今ここ砂漠よ?オアシスなんてその辺にあるとでも思った?残念無念、全然ないの。
なんてったって、大地の神に見放された人っ子一人寄り付かない不毛の地ですからねえ。見たところ神様も寄り付かないっぽいし。
神じゃなくなった僕には、きっつい環境なんだよ。
スイカ割に水遊び、三食食べて昼寝もちゃんとしたいよね。
よく寝てよく食べよく育つ。寝る子は育つって、人間たちも言ってるじゃないか。
ん?僕子供だよ?魔王一年生の一歳さ。赤ちゃん赤ちゃん。
まあそんなこんなで、三人の魔族たちと頑張って砂漠で生きてまーす。
どんどん魔族増やしちゃおうとも思ったんだけど、まだいいかなあって。
技術的なものは元農耕神たる僕の得意分野だし、火と水と風を操る魔族たち。絶対に何とかなる自信しかないね。
「フレアちゃん、ごはんできたー?」
「はーい、魔王さま。すぐに準備できますよー。」
「ありがとフレアちゃん。僕は作業中の二人を呼びに行ってくるから、準備は任せたよ。」
「お任せください、魔王さまー。」
フレアちゃんは火を操る、お料理のできるお嫁にしたい系なうちの紅一点。ピンクのさらさらショートヘアがかわいいんだよね。お昼ご飯が楽しみだ。
今日は他の二人に畑づくりを進めてもらってるんだよね。
え、砂漠で農業は無理だって?農耕神(元)を舐めるんじゃない。
僕は神としての権能よりも、知識に重きを置く神だ(った)からね。神でなくてもぶっちゃけ能力あんまり下がってないんですよ。神とは何ぞや(笑)
作物が育つのに必要なものはわかってるし、向き不向きもわかってる。
何よりも水を使える子がいる、これが一番重要。あれ、重要なの僕じゃない?神とは(笑)
「シャルパさん、ハルヤくん、もうすぐごはんだって。」
「かしこまりました、ただちに向かいます。」
「えー、区切りのいいとこまでちょっと待ってもらえません?」
シャルパさんは水を操る超真面目な銀髪ストレートのイケメンくん。僕を自分の創造主として、ガチで崇め奉りそうなぐらいの忠実さが時たま怖いです。
ハルヤくんはちょっと子供っぽくて、風を操る自由な子。たまに駄々をこねることもあるけど、柔軟な発想力には目を見張るものがあるね。お父さん、将来がとっても楽しみだ。
「わかった、フレアちゃんにちょっと遅れるって伝えておくね。」
「さっすが魔王さま、ありがとうございまーす。急いでやっちゃいますね。」
「魔王さま、フレアには私から伝えますので。ハルヤ、魔王さまは私たちと共に食事をすることを好む。可能な限り急げ、時間がかかるのなら私も後で手を貸す。」
「大丈夫大丈夫。もうちょっとだから、シャルパは先に行っててよ。」
「そうか、ではお待たせしました魔王さま。フレアのところへ行きましょう。どうかしましたか、何やら楽しそうですが。」
「ん?いや、何でもないよ。ほら、フレアちゃんもう待ってるかもしれないから。ハルヤくんも早く来てね?」
思い出すな、神も人間も最初はこうだった。数が少ないうちは、みんな協力して仲良しだったはずなんだ。
このまま、魔族を増やす必要はないのかもしれないね。
でも表情に出ちゃってたか。気を付けないと。
彼らにとって僕は神のようなものだ。神でなくなっても、神の役目はわかっている。
信じてくれる子たちを不安にさせちゃいけない、僕が迷えば彼らはもっと不安になる。
そういえば、魔王の役目ってなんだ?
「フレアちゃん、ただいまー。」
「フレア、遅くなってすまない。悪いが、ハルヤはもう少し遅れる。」
「おかえりなさいませー、魔王さま、シャルパ君。そっかー、ハルヤ君には悪いけど冷める前に食べてほしいから、先に食べましょうか。」
「そうだね、もうちょっとらしいからそれでいいと思うよ。僕もうお腹空いてきちゃったからさ。」
「はーい、では魔王さまはこちらにお座りください。」
おー、今日もおいしそう。
「フレア、何か手伝うことはあるか?」
「んー、あとはメインを運ぶだけだからシャルパ君も座ってて。」
「わかった、もし手伝えることがあれば遠慮なく言ってくれ。」
イケメンだな。顔だけじゃなくて性格もイケメンとか、僕が知らないうちにハーレムとか築いてたらどうしよう。おまけに一番重要な水が使える。
僕、下剋上とかされちゃわない?
「魔王さまが空腹ならば、何もしないわけにはいかないからな。魔王さま、我々に気を遣う必要はございません。先にお召し上がりください。」
うん、大丈夫そうですね。
「あはは、お気遣いなくシャルパさん。お腹が空いてるときに、みんなで食べるご飯が一番おいしいんだ。一緒に座って待ってようよ。」
「かしこまりました、失礼いたします。」
固いなあ。シャルパさん見てると天使たちを思い出すんだよなあ。彼ら神の言うことはなんでも素直に聞くのはいいんだけど、融通が利かないうえに無表情だし会話とかしないから明らかに仲悪いんだよね。
ちょっと失敗した仲間をその場で処分しようとしてたのは、さすがに僕も焦ったよ。
「・・・シャルパさん、仲間は大事にしようね。」
「?心得ております。皆魔王さまに使える仲間ですので。」
まあ、固いけど二人のことをちゃんと仲間だとは認めているし、気遣う様子もあるし大丈夫かな。
「うん、そうだね。」
ふふ、シャルパさん不思議そうな顔してるなあ。
「魔王さま、お昼の準備ができましたよー。」
「ありがと、フレアちゃん。じゃあ座って座って。よし、」
「「「いただきます。」」」
もうすぐ食べ終わっちゃうけど、ハルヤくんまだ帰って来ないのかな。
「んー、ハルヤくん遅すぎない?」
「魔王さま、もう一度私が呼んできた方がよろしいのでは?」
「でも、すぐに行くって言ってたんだよね?」
ハルヤくんは子供っぽいところも多いけどうそをつくような子じゃないし、まだ帰って来ないのはおかしい。とはいえ、風を操れるハルヤくんをどうこうできるような輩はなかなかいないだろうし、そんな大物が来てたらさすがに元神の僕が気づくでしょ。
「よし、フレアちゃんはお昼の残りを包んでハルヤくんに届ける準備、シャルパさんは食器の片づけ。それが終わったらみんなでハルヤくんを迎えに行こう。あ、もちろん僕も手伝うよ。」
「いえ、魔王さまはここでゆっくりお待ちください。すぐに済ませますので。」
「そうですよ、魔王さま。さっさと終わらせちゃいますからね。」
「うん、じゃあ任せるね。」
となると、僕は何もすることがないという訳だ。まあ、のんびり待つしかないか。
「魔王さま、終わりました。」
「早いねっ。」
「水を扱えますから、皿洗いなど一瞬です。それをわかっていて私に片づけを頼んだのでは?」
「いや、わかってはいたけど思ってた以上に早すぎて。」
家事もできるイケメンかあ。強い。
「魔王さまー、こっちも終わりましたよ。」
「うん、二人ともありがとう。さあ、ハルヤくんを迎えに行こう。」
「「はい。」」
うーん、さっきはシャルパさんの手際の良さに驚いて突っ込めなかったけど、突っ込んだほうがいいか。
「ところでフレアちゃん。ちょっと聞きたいことがあるんだけど。」
「何ですか、魔王さま?」
「なんでそんなに大荷物なの?」
ハルヤくんのお昼だけで、そんな抱えるような大荷物にはならないでしょ。
そしてシャルパさんは何も言わずに、風呂敷の後ろを支えているイケメンっぷりときた。
「ついでなので、みんな揃ってデザートに甘いものでもと思いましてご用意してきました。」
「ああなるほど、それはいいね。」
でも、そんなにかさばる甘いものってなんだろう・・・うん、気になるけど考えても意味はないかな。
「で、畑に着いたまでは良かったんだけど。」
「ハルヤが見当たりませんね。」
視界の広い砂漠で入れ違いになんてならないよね?
だとすると、ハルヤくんはもっと向こうに行ったってことだ。
「魔王さま、こっちに大きな足跡がありますよー。多分動物が迷い込んだんじゃないかと。」
「なるほど、じゃあハルヤくんはその動物を追い払ってる最中なのかな。って、ほんとにでかい足跡だね。」
でも足跡の数は多くないから、群れが来たわけじゃなさそうだ。うーん、群れからはぐれた狼とか?
「魔王さま、畑以外の足跡はすぐに消えてしまいます。急いで追いかけましょう。」
シャルパさんが焦ってるところ初めて見たなあ。でも焦るほどのことでもないと思うんだよね、ハルヤくん強いし。
こういう時に思うんだよね、神でなくなったとはいえやっぱり僕は神だ。本当の意味で不安なんて感じない、執着なんてしない。本当の意味で誰かを愛してなんかいないんだって。
感覚が違いすぎる。
「うん、そうだね。ハルヤくんが心配だ、早く追いかけよう。」
「「はい、魔王さま。」」
でも、今の僕はあくまで魔王。まだまだ魔王になりたての一年生なんだし、今は仲のいい魔族たちもいる。まだまだこれからだよね。
畑を抜けてすぐ、ハルヤくんと対峙する大きな黒い塊が見える。
「え、あれは。」
黒くてふさふさした毛、ハルヤくんの二倍はある全長、何よりも・・・
「ハルヤ、助けに来た。」
「え、シャルパ?」
「ハルヤ君、けがはない?」
「フレアちゃんまで?ってことは、魔王さまも?」
「そんなことよりもハルヤ、こいつは私が相手をする。お前がてこずるのなら、フレアでは相手にならないだろう。その間にフレアにけががないか見てもらえ。」
「いやいや、みんな何か勘違いしてませんか?」
そう言っているうちに、黒い塊は僕に飛び掛かって来る。
「魔王さま、お逃げください。」
焦ってるなあシャルパくん。でも、逃げる必要はないね。
だって
「おいで、ケル、ベロ、スー。」
「ワゥゥゥゥ。」
痛い痛い、じゃれついてくれるのは嬉しいけどでかくなってるの忘れてた。
でもこれうっかりしたら踏みつぶされるな。かわいいけど。
「ま、魔王さま、今お助けします。」
「シャルパさん、心配しなくて大丈夫だから。おーよしよし、お前はかわいいなあ。」
「しかし、」
「大丈夫だって、シャルパは心配性だなあ。」
「そうだハルヤ、けがは大丈夫か?」
「いや、けがなんてそもそもしてないって。それになんでみんなここにいるんだよ?」
「ハルヤ君がなかなか帰って来ないから、お昼ご飯の宅配に来ました。」
「フレアちゃん。え、ごはん?ほんとに?よかった、僕すごくお腹空いてるんだ。」
「ハルヤ、本当にけがはないのか?あのケルベロスとやらと戦ったのだろう?」
「ないってば。それに、僕は別に戦ってないよ。僕はあいつが畑で穴を掘り出したから、ここまで追い払ってただけだよ。でも魔王さまのペットだったみたい。」
「ああ、それは穴を掘ってたんじゃなくて土をかき混ぜてたんだよ。」
こんなにかわいい子たちが悪さなんてするわけないじゃない、それに何よりも農耕神の番犬だもの。
「あ、魔王さま・・・顔がにやけまくってますね。」
「そりゃあ、愛犬との感動の再会だよ?久々のもふもふだよ?フレアちゃんも一回撫でてみ」
「魔王さま、その大きな三つ首の犬はもしや。」
「うん、前に言ったことがあったよね?僕の飼ってた番犬のケルとベロとスーだ。」
「もうそれケルベロスで良くないですか?」
なんだと?こんなにかわいい子たちを地獄の番犬扱いする奴は、いくらハルヤくんでも・・・
「魔王さま、無言でハルヤをにらみ続けるのはおやめください。半泣きで私の服の袖を掴んでいます。フレアもそれを見て笑わない。」
「いえいえ、シャルパ君がお母さんみたいだなあなんて、私ちっとも思ってませんから。」
「?私たちを生み出したのは魔王さまだ。母というのなら魔王さまの方だろう。」
「ぷっ、シャルパさん、そういうことじゃないから。それにせめてお父さんにして。ひとまずこの話題はややこしくなるから置いておこう。」
シャルパさんは天然だなあ。
そんなことよりも、ケルとベロとスーのことだね。
確かハデスさんが面倒を見ていたはずだから、逃げられたり捨てたりするような神じゃない。
となると、なんでこの子たちはここにいるんだ?
「ワフゥ」
「おいベロ、なめるなくすぐったいぞ。」
ベロはかまってちゃんだからなあ。かわいい。
そうだよな、こんなにかわいい子たちが自分で会いに来たんだから選択肢は一つだよね。
「よし、飼おう。」
なんてったってもともとは農耕神の番犬だ。ふりふりの尻尾で僕を癒してくれるに違いない。
あ、今なら大きくなってるから尻尾に巻かれるという天国が・・・
「ダメです。」
なんだと。一番の忠臣、シャルパさんが反対するなんて。
ついに謀反が起きるのか?下克上、下克上なのか?
主人公をサタンと呼ぶのはなんとなく違和感があったので魔王さま