召喚ミスと思ったら並行世界に迷いこんだ件
連載用に考えていた設定を試験的に短編にまとめたものになります。拙い文章ですが読んでいただけると幸いです。
僕の名前は中條京也。仲の良い友達からは京なんて呼ばれている。そんなことより突然だが、聞いてほしい。
短い冬休みが昨日で終わり初日の今日、珍しく少し早めに学校に登校した教室でひとり座っていると、足下に突然光る模様が浮かび上がってきて光続けているんだ。
普段遅めに登校する僕は滅多なことなんてするもんじゃないなと思いつつも、もしかしてこれはラノベでよく見る展開の異世界召喚というやつだろうか、そう思い少し期待に胸を膨らませワクワクしていると光が強くなり輝きだし辺り一面に光が広がり僕は目を閉じた。
◇
きっと召喚術を使ったお姫様か魔法使いが話しかけてくると思い、期待を最大限に膨らませて目をゆっくり開けるとそこは……、目を閉じる前とまったく同じ教室が広がっているのだった。おもわず僕は、
「何でなやねん!」
話したこともない大阪弁でだれともなくひとり突っ込みをいれる。あの膨らんだ期待を返せと思いつつも教室でひとり突っ込みを入れている様を想像し少し寂しくなった僕は机に伏せって少し不貞腐れた。
そうしていると教室にクラスメイトがやってくる。僕は顔をあげてみるとガラッと戸を開けて入ってきたのは委員長だった。だれにでも人当たりが良く面倒見の良い彼女が話しかけてくる。
「あれ中條くんおはよう。今日は珍しくすごく早いのね。どうしたの?」
「今日から学校と思うと早く目が覚めちゃって。」
「あはは、そんな遠足前の子供じゃないんだから。」
まだ中学生の僕たちは大人から見るとまだまだ子供では?と思いつつも、こういう時には大人しくしていることに限ると知っている僕は「ははは、そうだね。」と彼女に返す。
◇
朝足元が光輝いた以外はあれからなんら変わったことは起きず、学校が終わるのだった。朝が早かったため幾度か襲いかかる睡魔に打ち勝ちようやく乗り越えた僕は自分の席で少しボーッとしていると、友人の佐藤隆志がやってきて、
「京、何ボーッとしてるんだよ。ゲームセンター寄って帰ろうぜ。」
そう誘ってくる隆志に僕は「ごめん」と柔く断りを入れる。この後とくに用事があった訳ではないが、朝早く起きたことで眠たかったこともあり、今日はそのまま家に帰ることにした。今日の朝の出来事をもう一度振り返りたかったこともある。
「そうか。」と言って去っていく隆志を見送り、僕も家に帰るのだった……。
◇
今日の出来事を考えながら電車に揺られていると、いつの間にか家の地学の駅に到着していた。慌てて電車から降りて、駅の出口に向かう。
駅を出て近くにある大型家電量販店の横を通ると展示してある最新のテレビからCMが流れてくる。
「……情報産業のリーディングカンパニー、アユハラエレクトロン!!」
聞き覚えのないその社名に、あまりテレビを見ない僕は、そんな会社あるんだ、とボーッと聞き流す。
駅から歩いて自宅に着くと一番に自室に向かう。自室のベッドに転がり今朝の教室で起きたことを考える。あのときは興奮と期待を裏切られた喪失感で深く考えなかったけれど、
(というか、深く考えなくても普通じゃないよね、あれは……。)
どちらかと言えば超常現象の類いだ。冷静になり思い返すと今更ながら少し怖さを感じる。
(まあでも、何も変わってないみたいだし……。)
僕以外誰も見たわけではなさそうなので、誰かに話したところでおかしな目で見られるだけかと思う。そのうち忘れるだろうと思い、考えるのを止めてマンガを手にとった。
昨日はあの後いつも通りに過ごした。違うことがあるとすればいつもより少し早めに寝たことぐらいだった。
朝起きと母さんに挨拶する。父さんは既に家を出て会社にいった後だった。用意された朝御飯のパンを噛りながら付けっぱなしのテレビを見る。テレビからは朝のニュースが流れていた。
「……銀行が菱ノ宮ファイナンスの傘下に入ることが決まりました。これで……。」
母さんが洗い物をしながらニュースを見て、
「すごいわね、これで銀行はほとんど菱ノ宮グループじゃない!?」
「菱ノ宮って?」
聞いたこともなかった名前に思わず僕が聞くと、呆れたように母さんが教えてくれる。
「五大財閥の一つの菱ノ宮よ、金融関係で有名な。それぐらい常識でしょ、最近は小学校の時に学ばないのかしら。」
やっぱり聞いたこともない名前に焦りを覚える。そもそも小学校の授業では財閥はなくなったと教えられたはずだ。ただ、これ以上聞き返すと、あまりにも当たり前のように言う母におかしな顔で見られそうだったので、パンを押し込み食べ終えたことを母さんに告げ自分の部屋に戻る。
部屋に戻ると、鞄の中をひっくり返し歴史の教科書を急いでめくる。するとそこには確かに五大財閥の名前が記載してあり、菱ノ宮や昨日街中で聞いた鮎原の名前があった。頭が真っ白になり呆然としていると、母さんの声が聞こえて気付く。
「京、早く行かないと学校遅れるわよ。」
「やばい、もう家を出ないと遅刻する!?」
本当は学校を休んでもっと調べたいところだけど、母さんを説得できる上手い言い分けも思い付かず、この状況はひとまず置いて学校に向かうことにした。
◇
学校に向かう途中も周りに注意しながら歩いていると、昨日は気付かなかったが、さっき教科書で見た名前があちらこちらで見つかる。
(いつから?たしか昨日まではあんな名前はなかったはずだよね、たしか…。)
変わった理由として思い当たるのはあれしかなかった。
(こんな異常なことの理由なんて、やっぱり昨日の朝のあの光った時しか思い当たらないよ。)
変わっていないと思っていた世界は確かに変わっていた。これはおそらくラノベである平行世界というやつだろう、そう思いながら学校に向かう。
◇
昨日までと違い緊張しながら学校に向かう。見た目は変わらないこの世界の何が変わってしまっているか想像がつかないからだ。
無事に学校に着き自分の教室に入る。友達や委員長に今朝はホームルームの開始時間ギリギリなことを若干笑われるのを軽く手を上げ挨拶を返しながら席に着いた。
(ここまでは今朝知ったあの事以外は特に変わったことはないよね。)
そう思っていると、チャイムが鳴り担任の先生がやって来てホームルームが始まった。
あれから変わったことはなく、授業も平穏無事に終わり帰りの支度をしながら早く帰って続きを調べようと考えていると、隣に来た委員長が話しかけてくる。
「中條くん、お願いがあるんだけど……。」
「委員長どうしたの?」
「うん、昼休みに先生に頼まれてたプリントの整理とかコピーとかがあって。明日までに必要なんだけど、先生と私でやるんだけど、人手が必要なの。目ぼしい人に声をかけたんだけど部活や用事があるらしくて中條くんはどうかなってなって。」
できれば早く帰りたかった僕だけど、委員長の申し訳なさそうな顔を見て仕方がないなと思い、手伝うことにした。
◇
「中條くん、今日はありがとう。こんど何かお礼するね。それじゃあ。」
そう言って帰っていく委員長に、
「気にしないで、それじゃ。」
そう言って僕も帰る。もう日も暮れはじめ辺りは若干の暗がりを帯びていた。
(かなり遅くなっちゃった。急いで帰ろう。)
そう思い足早に駅に向かう。
いつもより遅い時間に電車に乗り駅につくと、辺りはすっかり暗くなっていた。
人通りも少なくなる中、急いで帰る途中、僕の目の前に同い年くらいのきれいと言うよりかわいいという言葉が似合う少女が一人立っていた。見覚えのない彼女が声をかけてくる。
「あんたが中條京也?実物は写真より冴えないわね。」
突然名前を呼ばれ、あげくの果てに冴えないといわれたことに驚きながら、
「え、君は誰?何のようなの?」
「誰でもいいでしょ。安心しなさい、今日は挨拶だけよ。」
少し苛立ちながら彼女はそう言って横を通りすぎていく。通りすぎ様に、
「チッ、何でこんなやつを。」
そう言って去っていった。僕は状況についていけず困惑し、彼女の姿が見えなくなるまでその場で呆然として立っているのだった。
◇
あの少女との邂逅から数日が立ったある日。あの直後は何かあるのかと緊張する日々を過ごしたが、何事もなく平穏な日々にもなれ、その日はつい遅くまでゲームセンターで遊んでいた。
友達と別れた帰り道、ふと気がつくと辺りから人の姿が消えていた……。
「呑気なものね。まあいいわ、どうせ今日までなんだから。」
声と共にいつの間にかあの時の少女が前に立っていた。僕が呆然と立っていると続けざまに彼女が話しかけてきた。
「最後なんだから名前ぐらいは教えておいてあげるわ。私の名前は鮎原都。」
「鮎原って!?それに最後って?」
「そう、あの鮎原よ、あなたみたいな人間でも知っている。それとあなたの人生はここで終わりって訳。と言っても実際に終わるのはもう少し後でしょうけどね。まあ最後だし、研究所に大人しく付いてくるか、痛め付けられて連れていかれるかくらいは選ばせてあげるわ。」
一歩ずつ歩いて近づいてくる彼女。僕は後ずさりして、逃げ道を探すために周りを見渡す。
「ふーん、大人しくついてくる気はないみたいね。まあいいわ、そっちのほうがこっちも遠慮なくやれるしね。」
そう言って彼女は頭の上に着けていたゴーグルを降ろし、服の中から細いワイヤーのようなものを取り出した。
彼女は突然ワイヤーの先端を僕の方に投げつけた。奇跡的に横に跳ぶことでワイヤーをかわす。
「なっ、地面に刺さってる!? 」
硬い地面に串刺しになっているワイヤーを見て、自分の体に当たっていたらと思うと、ゾッとする。
「ふーん、さっきは上手に避けたわね。じゃあ、これはどう?」
彼女は手元でワイヤーを操り、地面から抜いたワイヤーを再度投げてくる。
僕はまた横に跳んで避けようとし、
「ツッ!」
投げられたワイヤーの先端が突然曲がり腕を貫いた。ワイヤーは彼女の操作で引き抜かれ手元に戻され、服には血が滲む。
「あは。残念だったわね。」
そうは言うと彼女は少し冷めたような顔になり、
「はあ、もういいでしょう。あまり痛め付けるのも可哀想だし、一思いに片付けてあげる。」
彼女は両手を広げると四方からワイヤーを向かってきた。逃げ場がない状況に絶望の未来を想像し焦る僕。
その時、ワイヤーとワイヤーの間に避けることができる道筋が見えそこに体を捩る。
グサッグサグサ
そう音がして、ワイヤーは地面に突き刺さった。
「あれ?避けられる隙間なんか作らなかったんだけどなあ。」
そんな声を背に脇目も降らず近くのビルに向かって走った。
◇
近くの隠れ場所が多そうな比較的大きなビルに逃げ込む。階段を上り隠れる場所を探していると、館内放送を使って彼女の声が聞こえてきた。
「ビルに隠れようとしているけど、残念ね。鮎原の能力はね、機械を意のままに操ること。つまり、このビルは私のコントロール下にありあなたは丸見えって訳。だから、無駄なあがきはやめてさっさと出てきなさい。」
そんな訳がないと思い廊下を走っていると、突然上から水が降ってきた。そしてまた彼女の声が聞こえる。
「そこにいるんでしょ。あなたがいる場所のスプリンクラーを動かしてあげたわ。」
「くそ、まじか。」
どうやら場所が分かることは本当らしい、そう思い通路を駆け抜ける。
「しょうがないわね、ほら。」
さっさと諦めなさい、とでも言うような声の中、通路の照明が次々と割れガラスが僕に降り注ぐ。僕は当たらないことを祈り駆け抜ける。
「避けるのは本当に上手ね。少しぐらい当たっても良さそうだけど。……そういう能力なのかしら……。」
そんな声のなか隠れるのは無理だと思いビルから出るべく入り口に向かう。一階のエントランスを除くと彼女がワイヤーを辺りに突き刺し陣取っていた。僕は彼女と戦うしかないことを悟り覚悟を決める。
「ふーん、ようやく出てきたわね。でも諦めたって顔でも無さそうね、まぁいいわ。」
僕は彼女に向かって走る。彼女はワイヤーの先端を僕に投げてくる。それを身体を横にずらすことで避ける。さっきから回を重ねるごとにどこに身体をずらせば当たらないか分かるようになってきている自分に驚いた。
「ちっ、何で当たらないのよ!?」
そのままの勢いで彼女に体当たりする。
「かはっ。」
僕より小柄な彼女は吹き飛ばされて床に転がる。彼女は頭をぶつけたのか、起き上がる様子もなく倒れていた。
僕は今のうちかと思い、入り口に向かって歩こうとした時、向かう先に複数の人影が見えた……。人影の一人が彼女に話しかける。
「ふん、失敗か。この程度のことにも対応できんとはな。」
「え!?兄様、いつから。そ、そんな!?兄様、お願い!!もう一度だけチャンスを頂戴!!」
「ふん、浅ましいな。本来なら今回で終わりだが…、仕方がないもう一度だけチャンスをやろう。次で失敗したらおまえはもう用無しだ。」
「は、はい。」
そう言って去っていく男に青ざめた顔でそう答える彼女。去っていく男たちを見送った彼女はこちらを睨み付け少しした後、
「ふん、今日のところは一同引くわ。せいぜい数日間の最後の休日を楽しんでおきなさい。」
彼女は体をふらつかせながら去っていった……。
◇
あの出来事があってから誰にも相談できず既に数日が経った。そもそもあれだけビルの中が滅茶苦茶になっていたのに、噂一つたっていないことを見ると相談しても揉み消されるだけだろうとも想像し、なかば諦めていたこともある。
まだ日が暮れるには早い時間、帰り道で僕は少し違和感を感じていた。
(あれ?人が少ない気がする……。)
すると、いつの間にか周囲から人がいなくなっていた、少し先に見える一つの人影を除き……。人影はこちらに近づいてきて顔がはっきり見える距離になる。
彼女は先日の余裕のある表情は無くなっており、追い詰められた表情で僕を睨んでいた。
「待たせたかしら。今日で終わりにさせてもらうわ。私も後がないしね……。」
僕が無言でいると、彼女は横に置いてあったトランクを開ける。そこには銃やナイフのようなものが付いたドローンが複数入っていた。
「あんたみたいな雑魚にこんなものまで使うなんて屈辱だわ。」
そう言うとこの前のワイヤーを取り出しドローンに突き刺した。するとそれらが一斉に動きだし周囲に浮かび上がる。
「さっさと片付けさせてもらうわ。」
ドローンが僕に襲いかかってきた。次々と遅いかかかるドローンを避ける僕。何かを察した僕は横に跳ぶ、と同時にパンっという乾いた音と共に地面に穴が開いた。
「チッ、これも避けるの!?さっきのは間違いなく死角からだったのに!?」
僕は何度も彼女の操るドローンの攻撃を交わしていく。
「なんで当たんないのよ!!もう私には後がないのよ!……あっ、しまった!?」
焦った彼女は操作をあやまりドローンの動きにスキができた。
僕は今しかないと、持っていた鞄でドローンを殴り付ける。ドローンは連携を崩しワイヤーを縺れさせながらそのほとんどが地面に叩きつけられた。
「よし!!」
僕がそう言うと、彼女は一瞬唖然とした後僕を睨み付けた。彼女が何か言いかけたと同時に、
「やはりお前に任せたのは間違いだったな。」
この前の男が立って彼女を蔑んだ目で見ていた。
「兄様、まだ終わっていないわ!?」
僕からは目をそらさず、そう答える。
「ふん、もう終わりだ。」
「えっ?」
彼女のその声とともにかなりの距離を吹き飛ばされ地面を転がる。
彼女が立っていた場所にはいつの間にか一人の背の高い男が立っていて棒を振り払った格好をしていた。
「ツッ、に、兄様、そいつは……?まさかあいつらと手を組んだの!?」
「利害の一致というやつだ。もともとその男を欲しがっていたのはこいつらだ。そこに鮎原の後継者候補の一人であるお前が邪魔だった私と方向性が一致したものでね。一石二鳥というやつだ。」
「そ、そんな……。」
不適に笑いながら語りかける男に、絶望的な表情を見せて下を向く彼女。
男は今度は僕の方を向いて、
「待たせてしまったね。まあ君の未来が変わるわけではないし。そうそう用無のそいつも一緒に連れていってあげよう、寂しくないようにね。」
そう言って可笑しそうに笑う。その時、僕と男の間に転がっていた彼女が男の視線を遮るように僕の前に立った。
「ふん、何のつもりだ。」
「クッ、すべて兄様の思い通りにはさせないわ。」
彼女は僕の方を向いて、
「あんた、あいつらは私が相手するからさっさと逃げなさい。他の財閥の関係者のところに逃げ込めれば助かるかもしれないわ。」
「でも君は……。」
彼女の思い詰めた感のある表情を見た僕は逃げずに彼女と一緒に戦う決心をする。
「いや、僕も一緒に戦うよ、君と。」
「な!?あんた……。ふぅ、まあいいわ。それじゃ役割分担ね、私はショートレンジは得意じゃないの。あんたは避けるのが得意そうだし私の盾になってくれる?」
「ははは、君を殴った人。どうやって殴ったか見えなかったよ。とは言えやるしかないよね。やってみるよ。君のお兄さんは気にしなくていいの?」
「構わないわ。それよりお願いね。私じゃアイツの攻撃は避けられないし。あんたにかかっているから。」
「うん。」
言葉短く彼女に返し、彼女の前に出て先程から無表情でこちらを見ている背の高い男を見る。
すると、彼女の兄が
「悪足掻きか。ああ、そっちの女は別に生かしておく必要はないよ。気にせずにやりたまえ。」
そう言ったと同時に男が消えた。
(えっ!?)
頭の中に浮かんだ情景のままに頭を下げる。その一瞬あと、頭の上を凄い音が通過した。
「……。」
男は無言のまま少し距離をとる。僕は頭をさげていなかった場合を想像しゾッとした。
男は棒を構えると突きを繰り出す。そう分かったのは僕が突かれて後ろに飛ばされた後だった。
「……おかしい、起き上がれるはずはないんだが…」
男は静かにそんなことを言う。
「痛っ!?」
そう言いながら起き上がる僕に彼女が声をかけてくる。
「大丈夫……そうには見えないけど、まだやれる?」
人使いの荒い彼女に大丈夫と答え、勝つ手段はあるのか聞いてみる。
「ええ、動くドローンがまだ2台あるわ。あいつの動きが止まったときに弾を撃ち込んでやるわ。相手は化け物とはいえ人間よ、撃たれたらさすがに直れるでしょ。」
彼女の言葉によしと気合いを入れ立ち向かう……。
◇
……もうどれだけ避けたか分からない。時間の感覚もなくなっていた。
「やはりおかしい。普通であればとっくに倒れているはずだ。……まあいい、そろそろ限界のはずだ、これで終わりにしてやる。」
そう言って男は何度か見せた突きの構えをする。そして、放たれる斬撃を僕は横に身体を反らしかわす。
「なっ、どういうことだ。」
男は戸惑ったように次は上から棒を振り下ろす。僕はそれをしゃがんで避ける。すると棒は頭の上を横にすり抜けていった。何を言っているか分からないがそうなっていた。
「ば、ばかな!?」
焦ったように男が叫ぶ。繰り広げられる奇妙な光景に、周りにいた彼女も彼女の兄も依然としていた。
なんとなく分かったのだ僕の能力が。僕の能力は枝分かれする平行世界から事象を一部分持ってきて入れ換える能力。さっきも振り下ろされた事象を平行世界から振り払った事象に入れ換えたのだ。
それから何度も同じような光景が繰り返される。
僕はチラッと彼女を見た。唖然として見ていた彼女は真剣な顔に戻すと浮かばせていたドローンで狙いを定め、その男に銃撃を放った。
男は信じられないような顔をして僕を見たあとその場に倒れる。それを見て気が抜けた僕の意識は遠のく。彼女の慌てたような声が最後に聞こえた……。
「ちょ、ちょっとあんた大丈夫!?」
◇
あの出来事が終わってから数日が経った。今は以前鮎原都と会った道に立っている。以前と違うのは周りにはまばらに人影が見えることと、目の前にいる彼女の後ろには黒服が控えていることだ。彼女はこちらをじっと見る。以前見られたひどく思い詰めた表情は少し消えていた。何がどうなったのか細かいことは分からないがどうやら元のお嬢様の立場にはもどれたのだろう。それに僕のこともいろいろ手を回してくれたようだし。
「あんたにはいろいろ貸しを作ったわね。」
「いや、そんなことは……。」
「ふん、遠慮も過ぎると嫌みよ。私貸しはあまり好きじゃないの。」
僕が無言でいると、
「まぁいいわ、それじゃあ。」
一方的に言った後、もう用は済んだとばかりに後ろを向いて僕に背を向ける。堂々とした姿で黒服を引き連れて車に向かう彼女を見て、もう会うことはないんだろう……。そう思い彼女と別れた。
◇
あれから数週間が経ち、あんなことがあったとは信じられないくらい平穏な日々が続いていた。そんな生活に慣れ始めた頃、担任の先生がやってきて開口一番、
「みんな、今日から転校生がくるぞ。」
そう言い扉の方に声を掛ける先生。みんなが朝からざわついていたのはこのことだったのかといまさら思い、入ってくる転校生を見る。
扉から入ってきたのは先日別れた彼女だった。
「今日から転校してきた鮎原 都です。みんなよろしくね!」
オオーっと言ったクラスメイトの歓声を聞きつつも、以前見た思い詰めた感のあった表情はすっかり消え、明るい彼女にまた会えたことに嬉しさを感じる。どうやらまだまだ彼女とは関わっていくことになりそうだ。そう思い、作戦が見事に成功したといった風にこっちをちらっと見て勝ち気に笑う彼女に小さく手を振るのだった……。
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