第七話 「再構築」
少しだけ、俺の話をしようと思う。
俺は何も、正義の味方ってわけじゃなかった。
チートやズルが嫌いなのだって、皆が正々堂々と競っている場をぶち壊しにする行為が嫌で、そんなことをするやつを視るのが凄く、哀れだったからだ。
別にそれが世間一般的にみて悪だから罰するべし、なんて考えたわけじゃなかった。
すくなくとも、俺はやるまいと心がけるまでだった。
──もう少しだけ、話をしようと思う。
俺は確かに正義の味方じゃなかったけれど、俺はいつだって母と友達の味方だった。
俺みたいに別にこれと言って面白いことが言えるわけでもないやつに絡んでくれる友達は間違いなくいいやつだったし、幼いころに死んだ父に代わって俺をずっと育て続けてくれた母には感謝してもしきれないから。
だから俺は、どんな時だって俺の手の届く範囲に居る人たちは守り続けた。
できることはなんだってやった。
時価みたいにころころと移り変わる大衆の正義なんかより、それが俺の正義だったから。
そうだ。これは俺という個人の尊厳の問題だ。
出来るだけ大勢を、なんて言わない。そんな贅沢は言わない。
だけどせめて、手の届く範囲のすべては護りたいんだ。
僕になったってそれは変わったりはしない。
こっちにわたってから、大変なことも沢山あったけれど、皆いい人だった。
友達は運動に不慣れな僕に歩幅を合わせてくれるようなやつばかりだったし、くたくたになって家に帰ったときにマーシュおばさんが焼いてくれていたアップルパイは甘くて温かくて美味しかった。
今日会ったばかりだけれど父さんは立派な人で僕を誇らしくなでてくれた。母さんはそれを温かく見守っていた。挨拶に来てくれた貴族のみんなは父さんを尊敬していることがよくわかって、自分のしたことを楽しそうに、本当に楽しそうに話してくれた。
どうしてみんな怖がっている?
どうしてこいつは楽しそうにしていられる?
人の一部だった球体がころりと転がる。
人の一部だった胴に縋りつく子供がいる。
父さんが哀しそうに、いたたまれないようにそれを見ている。
今の僕には、俺だったころよりも力があるはずなのに。
躊躇も意地もかなぐり捨てれば誰にも負けないと言われたのに。
俺だったころよりも多くを失っている。
なんだ、これ。
なんだよ、この茶番。
「…………ふざけ、やがって」
静かに激高する。
「ひゃああああああああああああああはははははははあ!!!」
奴が嗤う。嗤う。
──いいだろう。
こいつにならいいだろう。
神に押し付けられた才能。迷惑だと思ったけど、ここで使ってやろう。
それがなんなのか。さっきまではわからなかった。
今なら、それが手に取るようにわかる。
「手には……剣を……」
紡ぐ。
ゆっくりと、呪詛を吐き出すように。
生首が僕の手から解き放たれ、ボタリと落ちた。
「…………再構築!!!」
詠唱、その刹那。
僕の手が光に包まれる。
ズシリ、と重い感触。
何が来たか。何が成ったか。
僕にはわかる。
「…………行くぞ、狂人」
「………………面白そうなもの持ってるね、キミィ」
男がにやりと嗤い。
僕の両手に握られた一振りの、黄金色に光輝く聖剣が空気を切り裂き、唸りを上げた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「おおおおおおおおお!!!!」
左下方から掬い上げるように剣を疾らせる。
狙うは脇腹。
腕にかかる重さのすべてを押し返し、奴の腹を一直線に切り裂く──!
いや、しかしそうは成らない。
何か硬質な手ごたえが剣の行く手を阻み、空中で押しとどめているからだ。
「──危ない、危ない。それは、なんだい? わからないな、知らないなあ、興味深いよ。何か嫌な予感がしたから止めさせて貰ったけれど、いやはや、なんだい、それ」
剣を持つ手に力を籠めると、何か細いものが剣に押されてピンと張った。
「そういうお前の手品は糸か」
成程、それなら腕の一振りで首を飛来させたのも納得だ。
空中に張り巡らせた糸を巧みに使い、引き絞ることで察知させずに首を吹き飛ばす。厄介だ。
「ご明察。さあ、お互いに手明かしと行こうじゃないか」
……言うのも癪だが、仕方がない。
「これは、俺の世界に在った伝説の剣の一振り。かつて居た最強の王が振るった、妖精の剣。名前は──【エクスカリバー】だ」